婚約破棄された悪役令嬢は、事業を阻むギルドを手段を選ばず支配する

ふわふわ

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第二十話 戴かぬ王冠

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第二十話 戴かぬ王冠

王都は、穏やかだった。

市場は動き、工房は煙を上げ、荷馬車は朝霧の中を進む。
王城の塔は変わらず空を突き、王家は儀式を執り行い、法を公布する。

そして。

王都の商人は、基金の帳簿を確認してから一日を始める。

「お嬢様、本年度の基金運用報告、最終確定いたしました」

執事が差し出した書類には、静かな数字が並んでいる。

黒字。
安定。
拡張。

「問題は?」

「ございません」

「ならば良し」

わたくしはゆっくりとペンを置く。

王都は、完全に固定された。

――――

王城。

老王は静かに言う。

「……彼女を呼べ」

王太子が顔を上げる。

「今さら、何を」

「今さらだからだ」

――――

屋敷に王命が届く。

だがそれは命令ではない。

“招待”。

玉座の間。

久方ぶりの王城。

赤い絨毯の先に、老王が座る。

王太子はその隣。

わたくしは静かに進み、礼をする。

「陛下」

老王はじっとこちらを見る。

「王都は安定した」

「光栄でございます」

「王家は介入せずとも、回る」

沈黙。

「だが、王家が不必要になったわけではない」

「存じております」

一拍。

老王は続ける。

「王冠を戴く気はないか」

玉座の間が凍る。

王太子が目を見開く。

「父上!」

老王は視線を逸らさない。

「王家に入れ。
王妃でも、共同統治者でもよい」

わたくしは静かに顔を上げる。

「陛下」

「断るな」

老王の声は穏やかだが重い。

「国を一つにできる」

わたくしは一歩も動かず答える。

「国は、既に一つでございます」

一拍。

「市場と王家は、争っておりません」

「だが主導権は」

「役割が違います」

玉座の間の空気が変わる。

「王は象徴であり、最終責任者」

わたくしは淡々と続ける。

「わたくしは制度を整える者」

「それで満足か」

「十分でございます」

王太子が低く言う。

「戴かぬ王冠を握っているのに」

わたくしは小さく微笑む。

「王冠は握っておりません」

一拍。

「必要とされているだけです」

必要。

それは強制より強い。

命令より深い。

老王はゆっくりと息を吐く。

「王家は、そなたに従うことになる」

「従っておりません」

「では何だ」

「選んでいるのです」

選択。

市場は選択の積み重ね。

王家も、商人も、貴族も。

強制ではなく。

合理で。

沈黙が落ちる。

老王はついに笑う。

「……時代が変わったな」

「いいえ」

わたくしは静かに答える。

「流れが整っただけです」

――――

王城を出る。

空は澄み、王都は動いている。

執事が横に並ぶ。

「お嬢様、王冠を断られました」

「ええ」

「惜しくは」

「ございません」

一拍。

「王冠は縛り」

「では、今のお立場は」

わたくしは王城を振り返らない。

「自由」

王都のすべての産業が、彼女の制度を経て動く。

王家さえも、制度を利用する。

だが。

彼女は王にならない。

王を倒さない。

王を奪わない。

ただ。

流れを整え続ける。

王都の灯りが揺れる。

王冠は王城にある。

だが。

王都の経済という大河は、
彼女の指先で静かに方向を変える。

戴かぬ王冠。

それは誰も奪えない。

そして。

誰も、彼女を王と呼ばない。

それでも。

王都は、彼女の選択で回っている。
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