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第二十一話 名前のない支配者
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第二十一話 名前のない支配者
王城から戻った翌日。
王都は、相変わらず静かだった。
王冠を拒んだという噂は、瞬く間に広がった。
だが不思議なことに。
誰も驚かなかった。
「お嬢様、商会連盟より祝意が届いております」
「祝意?」
「王位を断られたことへの、でございます」
わたくしは目を細める。
「祝い事ではございませんわ」
「ですが商人にとっては安心材料かと」
王になれば、彼女は政治に縛られる。
制度は王家のものになる。
それを恐れていた者も少なくなかった。
「制度が個人に依存してはならない」
わたくしは淡々と言う。
「わたくしが王になれば、それは私物化です」
――――
王城。
王太子は報告を受ける。
「王位拒否が市中で好意的に受け止められております」
「……なぜだ」
「“王家を奪わぬ者”と評価されております」
王太子は沈黙する。
彼女は奪わない。
奪わず、壊さず、従わせる。
それが最も厄介だと、ようやく理解する。
――――
屋敷。
新たな報告が上がる。
「お嬢様、地方都市三つが基金制度導入を正式決定」
「連動条件は?」
「王都基準に準拠」
わたくしは地図を見る。
王都を中心に、細い線が広がる。
まだ王国全土ではない。
だが流れは始まった。
「急ぎません」
一拍。
「依存は自然に育てるもの」
――――
数日後。
王都新聞に小さな記事が載る。
“王都経済の実質的調整者”
名は出ない。
だが誰を指しているかは明白。
商人たちは、密かに呼び始める。
“王都の調律者”
“見えない王”
だが本人は、どれも受け取らない。
――――
夜。
執事が静かに問う。
「お嬢様、名が広まりつつございます」
「名は不要です」
「ですが象徴が生まれます」
わたくしは窓の外を見る。
「象徴は王家にお任せいたします」
一拍。
「わたくしは仕組みでよろしい」
個人が崇拝されれば、敵も生まれる。
制度が尊重されれば、安定が生まれる。
――――
王城。
老王が呟く。
「彼女は名を欲しない」
側近が答える。
「それゆえ強いのです」
王太子は低く言う。
「王よりも」
老王は首を振る。
「違う」
一拍。
「王は王だ」
だが。
市場は市場。
両者は交わらない。
だがどちらが止まれば困るか。
答えは、王都の民が知っている。
――――
翌週。
王室商会の代表が屋敷を訪れる。
「新規造船事業を計画しております」
「収支予測は」
「こちらに」
わたくしは淡々と審査する。
王室であろうと例外なし。
代表は最後に頭を下げる。
「ご承認を」
承認。
王家が頭を下げる。
それは屈服ではない。
合理。
――――
執事が言う。
「王家も商人も、最終的にここへ来ます」
「制度がここにございますから」
「お嬢様は」
一瞬、言葉を探す。
「……名前のない支配者」
わたくしは静かに笑う。
「支配などしておりませんわ」
一拍。
「皆さまが選んでいるだけ」
選択の積み重ね。
それが依存を作る。
依存が秩序を作る。
秩序が安定を作る。
――――
王都の灯りがまた一つ増える。
新工房が開業した。
基金保証付き。
誰も疑問を抱かない。
王都で事業をするなら。
基金を通す。
それが常識。
婚約破棄された令嬢。
王冠は拒否。
称号も拒否。
だが。
王都の新秩序は完成した。
彼女は王ではない。
王家の一員でもない。
だが。
王都のすべての産業は、
彼女の制度を経て動く。
名前のない支配者。
それが、最も覆せない地位だった。
王城から戻った翌日。
王都は、相変わらず静かだった。
王冠を拒んだという噂は、瞬く間に広がった。
だが不思議なことに。
誰も驚かなかった。
「お嬢様、商会連盟より祝意が届いております」
「祝意?」
「王位を断られたことへの、でございます」
わたくしは目を細める。
「祝い事ではございませんわ」
「ですが商人にとっては安心材料かと」
王になれば、彼女は政治に縛られる。
制度は王家のものになる。
それを恐れていた者も少なくなかった。
「制度が個人に依存してはならない」
わたくしは淡々と言う。
「わたくしが王になれば、それは私物化です」
――――
王城。
王太子は報告を受ける。
「王位拒否が市中で好意的に受け止められております」
「……なぜだ」
「“王家を奪わぬ者”と評価されております」
王太子は沈黙する。
彼女は奪わない。
奪わず、壊さず、従わせる。
それが最も厄介だと、ようやく理解する。
――――
屋敷。
新たな報告が上がる。
「お嬢様、地方都市三つが基金制度導入を正式決定」
「連動条件は?」
「王都基準に準拠」
わたくしは地図を見る。
王都を中心に、細い線が広がる。
まだ王国全土ではない。
だが流れは始まった。
「急ぎません」
一拍。
「依存は自然に育てるもの」
――――
数日後。
王都新聞に小さな記事が載る。
“王都経済の実質的調整者”
名は出ない。
だが誰を指しているかは明白。
商人たちは、密かに呼び始める。
“王都の調律者”
“見えない王”
だが本人は、どれも受け取らない。
――――
夜。
執事が静かに問う。
「お嬢様、名が広まりつつございます」
「名は不要です」
「ですが象徴が生まれます」
わたくしは窓の外を見る。
「象徴は王家にお任せいたします」
一拍。
「わたくしは仕組みでよろしい」
個人が崇拝されれば、敵も生まれる。
制度が尊重されれば、安定が生まれる。
――――
王城。
老王が呟く。
「彼女は名を欲しない」
側近が答える。
「それゆえ強いのです」
王太子は低く言う。
「王よりも」
老王は首を振る。
「違う」
一拍。
「王は王だ」
だが。
市場は市場。
両者は交わらない。
だがどちらが止まれば困るか。
答えは、王都の民が知っている。
――――
翌週。
王室商会の代表が屋敷を訪れる。
「新規造船事業を計画しております」
「収支予測は」
「こちらに」
わたくしは淡々と審査する。
王室であろうと例外なし。
代表は最後に頭を下げる。
「ご承認を」
承認。
王家が頭を下げる。
それは屈服ではない。
合理。
――――
執事が言う。
「王家も商人も、最終的にここへ来ます」
「制度がここにございますから」
「お嬢様は」
一瞬、言葉を探す。
「……名前のない支配者」
わたくしは静かに笑う。
「支配などしておりませんわ」
一拍。
「皆さまが選んでいるだけ」
選択の積み重ね。
それが依存を作る。
依存が秩序を作る。
秩序が安定を作る。
――――
王都の灯りがまた一つ増える。
新工房が開業した。
基金保証付き。
誰も疑問を抱かない。
王都で事業をするなら。
基金を通す。
それが常識。
婚約破棄された令嬢。
王冠は拒否。
称号も拒否。
だが。
王都の新秩序は完成した。
彼女は王ではない。
王家の一員でもない。
だが。
王都のすべての産業は、
彼女の制度を経て動く。
名前のない支配者。
それが、最も覆せない地位だった。
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