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第二十九話 王冠の重み、信用の重み
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第二十九話 王冠の重み、信用の重み
隣国に“王都式”と呼ばれる制度が生まれてから、王城の空気は微妙に変わった。
「我が国の制度が、国外に広がっております」
報告は淡々としている。
だがその言葉の意味は重い。
王家の軍制でもない。
王家の外交でもない。
彼女の整えた基準が、国境を越えた。
王太子は窓辺に立ち、王都を見下ろす。
「これは誇るべきことか」
側近は慎重に答える。
「国の信用が広がっております」
「……王家の信用ではない」
沈黙。
それが核心だった。
――――
屋敷。
「国外基金との相互照会依頼が増えております」
執事が書簡の束を置く。
「対応は」
「基準書のみ公開。内部審査資料は非公開」
「境界を引くのですね」
「ええ」
広げるが、渡さない。
共有するが、支配しない。
それが均衡。
――――
王城では、別の動きがあった。
「王太子殿下、王位継承の正式日程を前倒しする案が」
老臣が言う。
老王の体調は安定しているが、年齢は重い。
「今か」
「制度が広がる今こそ、王家の存在を示す好機」
王太子は考える。
王冠を戴けば、象徴は強まる。
だが同時に、比較も強まる。
王位と制度。
どちらが重いか。
――――
屋敷。
「王位前倒しの噂が」
「存じております」
わたくしは書類から目を離さない。
「動きますか」
「動きません」
「……」
「王位は王家のもの」
一拍。
「制度は市場のもの」
線は越えない。
越えれば不安定。
――――
王太子は決断する。
「即位は予定通り」
「前倒しはせぬ」
側近が安堵する。
焦りで戴く王冠は、軽くなる。
重みは時間が作る。
――――
夜。
王太子が訪れる。
「即位は急がぬ」
「賢明ですわ」
「君は止めなかったな」
「止める立場ではございません」
王太子は少し笑う。
「君は常に立場を守る」
「守るのは境界です」
一拍。
「境界が崩れれば、信用も崩れます」
王太子はゆっくりと頷く。
「王冠の重みを、私は理解していなかった」
「王冠は象徴」
「信用は現実」
二つは別物。
だが両方必要。
――――
翌日。
王太子は広場に立つ。
「王家は象徴として国を支える」
「市場の制度は尊重する」
短い宣言。
だが重い。
市場は拍手する。
王家が制度を敵視しないと示したから。
――――
屋敷。
「殿下は変わられました」
執事が言う。
「少しだけ」
わたくしは微笑む。
「それで十分」
王位は重い。
信用も重い。
だが性質が違う。
王冠は一人が背負う。
信用は無数が支える。
――――
夜の王都。
灯りは穏やか。
王家の塔が照らされる。
自由港も輝く。
二つの光は競わない。
並ぶ。
婚約破棄された令嬢は、王冠を拒んだ。
だが王冠の重みを、誰より理解している。
王太子も、ようやく知った。
王位は誇りではなく、責任。
信用は支配ではなく、選択。
王冠の重みと、信用の重み。
その違いを知ったとき。
王と制度は、ようやく並び立つ。
隣国に“王都式”と呼ばれる制度が生まれてから、王城の空気は微妙に変わった。
「我が国の制度が、国外に広がっております」
報告は淡々としている。
だがその言葉の意味は重い。
王家の軍制でもない。
王家の外交でもない。
彼女の整えた基準が、国境を越えた。
王太子は窓辺に立ち、王都を見下ろす。
「これは誇るべきことか」
側近は慎重に答える。
「国の信用が広がっております」
「……王家の信用ではない」
沈黙。
それが核心だった。
――――
屋敷。
「国外基金との相互照会依頼が増えております」
執事が書簡の束を置く。
「対応は」
「基準書のみ公開。内部審査資料は非公開」
「境界を引くのですね」
「ええ」
広げるが、渡さない。
共有するが、支配しない。
それが均衡。
――――
王城では、別の動きがあった。
「王太子殿下、王位継承の正式日程を前倒しする案が」
老臣が言う。
老王の体調は安定しているが、年齢は重い。
「今か」
「制度が広がる今こそ、王家の存在を示す好機」
王太子は考える。
王冠を戴けば、象徴は強まる。
だが同時に、比較も強まる。
王位と制度。
どちらが重いか。
――――
屋敷。
「王位前倒しの噂が」
「存じております」
わたくしは書類から目を離さない。
「動きますか」
「動きません」
「……」
「王位は王家のもの」
一拍。
「制度は市場のもの」
線は越えない。
越えれば不安定。
――――
王太子は決断する。
「即位は予定通り」
「前倒しはせぬ」
側近が安堵する。
焦りで戴く王冠は、軽くなる。
重みは時間が作る。
――――
夜。
王太子が訪れる。
「即位は急がぬ」
「賢明ですわ」
「君は止めなかったな」
「止める立場ではございません」
王太子は少し笑う。
「君は常に立場を守る」
「守るのは境界です」
一拍。
「境界が崩れれば、信用も崩れます」
王太子はゆっくりと頷く。
「王冠の重みを、私は理解していなかった」
「王冠は象徴」
「信用は現実」
二つは別物。
だが両方必要。
――――
翌日。
王太子は広場に立つ。
「王家は象徴として国を支える」
「市場の制度は尊重する」
短い宣言。
だが重い。
市場は拍手する。
王家が制度を敵視しないと示したから。
――――
屋敷。
「殿下は変わられました」
執事が言う。
「少しだけ」
わたくしは微笑む。
「それで十分」
王位は重い。
信用も重い。
だが性質が違う。
王冠は一人が背負う。
信用は無数が支える。
――――
夜の王都。
灯りは穏やか。
王家の塔が照らされる。
自由港も輝く。
二つの光は競わない。
並ぶ。
婚約破棄された令嬢は、王冠を拒んだ。
だが王冠の重みを、誰より理解している。
王太子も、ようやく知った。
王位は誇りではなく、責任。
信用は支配ではなく、選択。
王冠の重みと、信用の重み。
その違いを知ったとき。
王と制度は、ようやく並び立つ。
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