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第21話 試されるのは、覚悟ではなく姿勢
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第21話 試されるのは、覚悟ではなく姿勢
その知らせは、夕刻の執務が終わろうとする頃に届いた。
「……公爵夫人様」
控えめな声に、ベルトーネ・ランナバウトは顔を上げる。
「どうしました?」
「西部物流拠点の件で、現場から緊急の報告が」
一瞬で、空気が変わった。
西部物流拠点――
第20話で正式稼働が決まったばかりの、肝となる施設だ。
「内容を」
「主要輸送路の一部で、意図的と思われる妨害が確認されました」
書類を受け取り、目を走らせる。
馬車の破損。
倉庫への虚偽通報。
作業員への不安を煽る噂。
(……偶然ではないわね)
やり口が、あまりにも揃いすぎている。
「人的被害は?」
「幸い、ありません」
「なら、十分です」
ベルトーネは、即座に立ち上がった。
「現場に向かいます」
側近が、思わず声を上げる。
「今から、ですか?」
「ええ」
時間を置けば、噂は育つ。
不安は、現実よりも早く広がる。
「対応が遅れれば、
“やはり新制度は危険だ”という印象が残ります」
それだけは、避けなければならない。
---
現地は、思った以上に落ち着いていた。
いや――
落ち着こうとしている、と言った方が正しい。
作業員たちは持ち場を離れず、
責任者は必死に秩序を保っている。
「……よく持ちこたえましたね」
ベルトーネの言葉に、責任者は苦笑した。
「正直、怖かったです」
「でしょうね」
否定しない。
「でも、逃げませんでした」
「逃げたら、
“失敗した”と認めることになりますから」
その言葉に、胸の奥が静かに熱くなる。
(……ちゃんと、伝わっている)
制度だけではない。
姿勢が。
---
即席の集会が開かれた。
豪奢な壇も、形式張った挨拶もない。
ただ、人の輪の中心に、ベルトーネが立つ。
「不安にさせてしまい、申し訳ありません」
まず、そう言った。
ざわり、と小さな波紋が広がる。
「今回の妨害は、事故ではありません」
はっきりと告げる。
「ですが、皆さんの仕事が間違っている証拠でもありません」
沈黙。
「新しい仕組みは、
必ず“変化を嫌う誰か”の反発を招きます」
視線を巡らせながら、続ける。
「だからこそ、
妨害は“想定内”です」
ざわめきが、困惑から納得へと変わっていく。
「私たちは、やり直しません」
ベルトーネは、断言した。
「止められない限り、
この仕組みは続きます」
一拍。
「そして、
止められないようにするのが、私の仕事です」
誰かが、小さく息を吸う音がした。
---
質疑は、長く続いた。
安全対策。
補償。
今後の対応。
すべてに、ベルトーネは正面から答えた。
誤魔化さない。
約束できないことは、約束しない。
だが、
やるべきことは、必ずやると明言する。
それだけで、場の空気は驚くほど安定した。
---
帰路の馬車の中。
さすがに、疲労が押し寄せてくる。
「……怖くはなかったか」
隣に座るアルベリク・フォン・グラーフ公爵が、低く尋ねる。
「少しだけ」
正直に答える。
「でも、逃げる理由はありませんでした」
「覚悟が決まっているな」
ベルトーネは、首を振った。
「違います」
「ほう」
「覚悟なんて、
毎日決め直すものです」
窓の外を見ながら、続ける。
「今日は、“現場に立つ”と決めただけ」
公爵は、しばらく黙っていたが、やがて言った。
「それが、一番難しい」
「ええ」
静かに頷く。
---
その夜。
書斎で一人、報告書をまとめながら、ベルトーネは思う。
今回の妨害は、始まりにすぎない。
これから先も、
制度が動けば、必ず誰かが試してくる。
(……でも)
試されているのは、
勇気や覚悟ではない。
どんな姿勢で、立ち続けるか。
逃げない。
誤魔化さない。
現場から目を逸らさない。
それを、続けられるかどうか。
ベルトーネ・ランナバウトは、ペンを置き、深く息を吐いた。
今日もまた、
答えは言葉ではなく、行動で示された。
それでいい。
そうやって積み重ねた現在こそが、
誰にも崩せない基盤になるのだから。
その知らせは、夕刻の執務が終わろうとする頃に届いた。
「……公爵夫人様」
控えめな声に、ベルトーネ・ランナバウトは顔を上げる。
「どうしました?」
「西部物流拠点の件で、現場から緊急の報告が」
一瞬で、空気が変わった。
西部物流拠点――
第20話で正式稼働が決まったばかりの、肝となる施設だ。
「内容を」
「主要輸送路の一部で、意図的と思われる妨害が確認されました」
書類を受け取り、目を走らせる。
馬車の破損。
倉庫への虚偽通報。
作業員への不安を煽る噂。
(……偶然ではないわね)
やり口が、あまりにも揃いすぎている。
「人的被害は?」
「幸い、ありません」
「なら、十分です」
ベルトーネは、即座に立ち上がった。
「現場に向かいます」
側近が、思わず声を上げる。
「今から、ですか?」
「ええ」
時間を置けば、噂は育つ。
不安は、現実よりも早く広がる。
「対応が遅れれば、
“やはり新制度は危険だ”という印象が残ります」
それだけは、避けなければならない。
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現地は、思った以上に落ち着いていた。
いや――
落ち着こうとしている、と言った方が正しい。
作業員たちは持ち場を離れず、
責任者は必死に秩序を保っている。
「……よく持ちこたえましたね」
ベルトーネの言葉に、責任者は苦笑した。
「正直、怖かったです」
「でしょうね」
否定しない。
「でも、逃げませんでした」
「逃げたら、
“失敗した”と認めることになりますから」
その言葉に、胸の奥が静かに熱くなる。
(……ちゃんと、伝わっている)
制度だけではない。
姿勢が。
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即席の集会が開かれた。
豪奢な壇も、形式張った挨拶もない。
ただ、人の輪の中心に、ベルトーネが立つ。
「不安にさせてしまい、申し訳ありません」
まず、そう言った。
ざわり、と小さな波紋が広がる。
「今回の妨害は、事故ではありません」
はっきりと告げる。
「ですが、皆さんの仕事が間違っている証拠でもありません」
沈黙。
「新しい仕組みは、
必ず“変化を嫌う誰か”の反発を招きます」
視線を巡らせながら、続ける。
「だからこそ、
妨害は“想定内”です」
ざわめきが、困惑から納得へと変わっていく。
「私たちは、やり直しません」
ベルトーネは、断言した。
「止められない限り、
この仕組みは続きます」
一拍。
「そして、
止められないようにするのが、私の仕事です」
誰かが、小さく息を吸う音がした。
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質疑は、長く続いた。
安全対策。
補償。
今後の対応。
すべてに、ベルトーネは正面から答えた。
誤魔化さない。
約束できないことは、約束しない。
だが、
やるべきことは、必ずやると明言する。
それだけで、場の空気は驚くほど安定した。
---
帰路の馬車の中。
さすがに、疲労が押し寄せてくる。
「……怖くはなかったか」
隣に座るアルベリク・フォン・グラーフ公爵が、低く尋ねる。
「少しだけ」
正直に答える。
「でも、逃げる理由はありませんでした」
「覚悟が決まっているな」
ベルトーネは、首を振った。
「違います」
「ほう」
「覚悟なんて、
毎日決め直すものです」
窓の外を見ながら、続ける。
「今日は、“現場に立つ”と決めただけ」
公爵は、しばらく黙っていたが、やがて言った。
「それが、一番難しい」
「ええ」
静かに頷く。
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その夜。
書斎で一人、報告書をまとめながら、ベルトーネは思う。
今回の妨害は、始まりにすぎない。
これから先も、
制度が動けば、必ず誰かが試してくる。
(……でも)
試されているのは、
勇気や覚悟ではない。
どんな姿勢で、立ち続けるか。
逃げない。
誤魔化さない。
現場から目を逸らさない。
それを、続けられるかどうか。
ベルトーネ・ランナバウトは、ペンを置き、深く息を吐いた。
今日もまた、
答えは言葉ではなく、行動で示された。
それでいい。
そうやって積み重ねた現在こそが、
誰にも崩せない基盤になるのだから。
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