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第4話 評価という名の誤解
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第4話 評価という名の誤解
王城の会議室には、静かな緊張が漂っていた。
長い卓の上には報告書が整然と並べられ、官吏や神官たちが順に席についている。議題は一つ――聖女について、だった。
「ここ数か月の治癒記録です」
神官長が差し出した書類を、王太子ザガート・ビジョン・グランツは手に取る。そこには、マーレン・エルバの名が幾度も記されていた。
「負傷者対応件数、前期比で増加。しかし治癒成功率は極めて高い」 「現場からの評価も上々です」
口々に語られる称賛の言葉に、ザガートは満足そうに頷いた。
「分かりやすい成果だな」
その一言で、場の空気が決まる。
「では、もう一方の聖女――リヴォルタ・レーレについては?」
誰かが恐る恐るそう切り出した。
一瞬、沈黙が落ちる。
「……報告すべき事項が、ほとんどありません」
官吏の言葉は、事実そのままだった。
リヴォルタは祈祷を行っていない。
治癒の実績もない。
奇跡の記録も残していない。
書類の余白が、それを雄弁に物語っていた。
「つまり、成果が見えないということだ」
ザガートは書類を閉じ、冷静に結論づける。
「聖女とは、国を支える存在だ。役目を果たしているかどうかは、結果で判断するしかない」 「ですが……」
側近の一人が言い淀んだ。
「平和が続いているのは事実です。事故も致命的な被害には至っていない」 「それは制度が機能しているからだろう」
即答だった。
「治安、医療、インフラ。すべてが噛み合っている。そこに個人の功績を結びつけるのは、非合理だ」
――起きていない事故は、評価できない。
それが、ザガートの判断基準だった。
一方で、王城の別の一室。
リヴォルタ・レーレは、いつもと変わらぬ時間を過ごしていた。
侍女が差し出した紅茶に礼を述べ、椅子に腰を下ろす。
「最近、会議が増えているようですね」
何気ない一言に、侍女は困ったように笑った。
「ええ……少し、慌ただしくて」 「そうですか」
それ以上、踏み込むことはしない。
自分に関わる話題である可能性は、薄々感じていた。
だが、だからといって、何かを主張しようとは思わない。
怪我人は、治されている。
問題は、一応、解決している。
ならば、自分が口を出す理由はない。
「……私、何かする必要がありますか?」
ぽつりと呟いた言葉は、誰に届くこともなく消えた。
その日の夕刻、大神殿ではまた治癒の祈りが捧げられていた。
マーレンは疲れた顔で、それでも詠唱を続けている。
「本当に、立派な聖女様だ」 「前より、ずっと頼りになる」
人々の声は、善意に満ちていた。
誰もが信じている。
働いている者こそが、価値ある存在だと。
そして、
何も起こさない者は、何もしていないのだと。
その夜、ザガートは執務室で一人、書類を見つめていた。
「成果が見えない以上、判断は明白だ」
そう呟いた彼の背後で、窓の外には静かな王都の夜景が広がっている。
事故も、災害も、今夜は起きていない。
だがその平穏が、
「誰のおかげか」を考える者は、
この部屋にも、この国にも、まだ存在していなかった。
王城の会議室には、静かな緊張が漂っていた。
長い卓の上には報告書が整然と並べられ、官吏や神官たちが順に席についている。議題は一つ――聖女について、だった。
「ここ数か月の治癒記録です」
神官長が差し出した書類を、王太子ザガート・ビジョン・グランツは手に取る。そこには、マーレン・エルバの名が幾度も記されていた。
「負傷者対応件数、前期比で増加。しかし治癒成功率は極めて高い」 「現場からの評価も上々です」
口々に語られる称賛の言葉に、ザガートは満足そうに頷いた。
「分かりやすい成果だな」
その一言で、場の空気が決まる。
「では、もう一方の聖女――リヴォルタ・レーレについては?」
誰かが恐る恐るそう切り出した。
一瞬、沈黙が落ちる。
「……報告すべき事項が、ほとんどありません」
官吏の言葉は、事実そのままだった。
リヴォルタは祈祷を行っていない。
治癒の実績もない。
奇跡の記録も残していない。
書類の余白が、それを雄弁に物語っていた。
「つまり、成果が見えないということだ」
ザガートは書類を閉じ、冷静に結論づける。
「聖女とは、国を支える存在だ。役目を果たしているかどうかは、結果で判断するしかない」 「ですが……」
側近の一人が言い淀んだ。
「平和が続いているのは事実です。事故も致命的な被害には至っていない」 「それは制度が機能しているからだろう」
即答だった。
「治安、医療、インフラ。すべてが噛み合っている。そこに個人の功績を結びつけるのは、非合理だ」
――起きていない事故は、評価できない。
それが、ザガートの判断基準だった。
一方で、王城の別の一室。
リヴォルタ・レーレは、いつもと変わらぬ時間を過ごしていた。
侍女が差し出した紅茶に礼を述べ、椅子に腰を下ろす。
「最近、会議が増えているようですね」
何気ない一言に、侍女は困ったように笑った。
「ええ……少し、慌ただしくて」 「そうですか」
それ以上、踏み込むことはしない。
自分に関わる話題である可能性は、薄々感じていた。
だが、だからといって、何かを主張しようとは思わない。
怪我人は、治されている。
問題は、一応、解決している。
ならば、自分が口を出す理由はない。
「……私、何かする必要がありますか?」
ぽつりと呟いた言葉は、誰に届くこともなく消えた。
その日の夕刻、大神殿ではまた治癒の祈りが捧げられていた。
マーレンは疲れた顔で、それでも詠唱を続けている。
「本当に、立派な聖女様だ」 「前より、ずっと頼りになる」
人々の声は、善意に満ちていた。
誰もが信じている。
働いている者こそが、価値ある存在だと。
そして、
何も起こさない者は、何もしていないのだと。
その夜、ザガートは執務室で一人、書類を見つめていた。
「成果が見えない以上、判断は明白だ」
そう呟いた彼の背後で、窓の外には静かな王都の夜景が広がっている。
事故も、災害も、今夜は起きていない。
だがその平穏が、
「誰のおかげか」を考える者は、
この部屋にも、この国にも、まだ存在していなかった。
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