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第3話 聖女が自由を選んだ日
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第3話 聖女が自由を選んだ日
その一連の出来事は、後から振り返れば、あまりにもあっさりと終わっていた。
王太子ステルヴィオ・アルファロメオと、聖女シャマル・マセラティの婚約は、正式に解消された。
理由は公表され、王宮は一時的に騒がしくなり、貴族たちはそれぞれ好き勝手な感想を口にした。
だが、当事者であるシャマル自身は、その喧騒から一歩距離を置いていた。
怒りも、涙も、抗議もなかった。
あったのは、「終わったことをどう整理するか」という、実務的な判断だけだった。
婚約破棄の申し出を受けたとき、シャマルは即座に受け入れた。
「いいと思うよ」
それが、彼女の答えだった。
好きでもない相手と政略的に結ばれ続ける理由はない。
相手に想う人ができたなら、なおさらだ。
シャマルにとって婚約とは、感情の証明ではなく、役割の一つに過ぎなかった。
その役割が不要になったのなら、片づける。それだけの話だった。
問題は、その“後”だった。
婚約者という立場を失っても、シャマルが聖女である事実は変わらない。
むしろ王宮側は、彼女を以前よりも「都合よく」扱おうとし始めた。
毎日のように届く呼び出し。
「念のため」「万が一に備えて」という曖昧な理由。
聖女がそこにいること自体が、免罪符のように使われていた。
シャマルは、その流れを一度は静観した。
だが、ある日、机の上に積まれた依頼書の山を見て、はっきりと思った。
――これは、おかしい。
自分が常にそこにいることで、誰も考えなくなっている。
判断も、決断も、責任も、すべてが聖女に押し付けられている。
それは、国家にとっても、人にとっても、健全ではなかった。
シャマルは、その場で決めた。
王宮との関係を、引き直す。
毎日詰めることはしない。
必要な時だけ呼ばれる。
呼ばれない時間は、自分のもの。
そして、報酬は時給制。
この条件は、当然のように反発を招いた。
父からは「名門の責務」を説かれ、
神殿からは「聖女としての在り方」を問われた。
だが、シャマルは一貫していた。
「それを私に言われてもねえ……」
困る、とは言わない。
ただ、引き受けない。
「私がいなくても、まず考えてよ。
失敗だって、経験でしょう」
結果として、呼び出しは減った。
正確に言えば、「気軽には呼べなくなった」。
時給が高い。
条件が明確だ。
緊急性のない案件では、予算も理屈も通らない。
こうして、いつの間にか、シャマルの働き方には名前が付いた。
――サブスク聖女。
本人のあずかり知らぬところで、
皮肉と冗談が入り混じった呼び名が広まっていた。
それでも、シャマルは気にしなかった。
呼ばれない日があるということは、
世界がそれなりに回っている証拠だ。
彼女は、ようやく手に入れた自由を、静かに受け入れていた。
王太子は新しい婚約者と歩き、
ウィットンは裏方の役目を終えて距離を取り、
三人の関係は、それぞれの場所に収まった。
少なくとも、この時点では。
ただ一つ、見落とされていたことがあった。
聖女が自由を得たという事実は、
同時に「再び使える存在になった」という意味も持っていた、ということだ。
そのことに、シャマル自身も、
周囲の誰も、まだ本当の意味では気づいていなかった。
その一連の出来事は、後から振り返れば、あまりにもあっさりと終わっていた。
王太子ステルヴィオ・アルファロメオと、聖女シャマル・マセラティの婚約は、正式に解消された。
理由は公表され、王宮は一時的に騒がしくなり、貴族たちはそれぞれ好き勝手な感想を口にした。
だが、当事者であるシャマル自身は、その喧騒から一歩距離を置いていた。
怒りも、涙も、抗議もなかった。
あったのは、「終わったことをどう整理するか」という、実務的な判断だけだった。
婚約破棄の申し出を受けたとき、シャマルは即座に受け入れた。
「いいと思うよ」
それが、彼女の答えだった。
好きでもない相手と政略的に結ばれ続ける理由はない。
相手に想う人ができたなら、なおさらだ。
シャマルにとって婚約とは、感情の証明ではなく、役割の一つに過ぎなかった。
その役割が不要になったのなら、片づける。それだけの話だった。
問題は、その“後”だった。
婚約者という立場を失っても、シャマルが聖女である事実は変わらない。
むしろ王宮側は、彼女を以前よりも「都合よく」扱おうとし始めた。
毎日のように届く呼び出し。
「念のため」「万が一に備えて」という曖昧な理由。
聖女がそこにいること自体が、免罪符のように使われていた。
シャマルは、その流れを一度は静観した。
だが、ある日、机の上に積まれた依頼書の山を見て、はっきりと思った。
――これは、おかしい。
自分が常にそこにいることで、誰も考えなくなっている。
判断も、決断も、責任も、すべてが聖女に押し付けられている。
それは、国家にとっても、人にとっても、健全ではなかった。
シャマルは、その場で決めた。
王宮との関係を、引き直す。
毎日詰めることはしない。
必要な時だけ呼ばれる。
呼ばれない時間は、自分のもの。
そして、報酬は時給制。
この条件は、当然のように反発を招いた。
父からは「名門の責務」を説かれ、
神殿からは「聖女としての在り方」を問われた。
だが、シャマルは一貫していた。
「それを私に言われてもねえ……」
困る、とは言わない。
ただ、引き受けない。
「私がいなくても、まず考えてよ。
失敗だって、経験でしょう」
結果として、呼び出しは減った。
正確に言えば、「気軽には呼べなくなった」。
時給が高い。
条件が明確だ。
緊急性のない案件では、予算も理屈も通らない。
こうして、いつの間にか、シャマルの働き方には名前が付いた。
――サブスク聖女。
本人のあずかり知らぬところで、
皮肉と冗談が入り混じった呼び名が広まっていた。
それでも、シャマルは気にしなかった。
呼ばれない日があるということは、
世界がそれなりに回っている証拠だ。
彼女は、ようやく手に入れた自由を、静かに受け入れていた。
王太子は新しい婚約者と歩き、
ウィットンは裏方の役目を終えて距離を取り、
三人の関係は、それぞれの場所に収まった。
少なくとも、この時点では。
ただ一つ、見落とされていたことがあった。
聖女が自由を得たという事実は、
同時に「再び使える存在になった」という意味も持っていた、ということだ。
そのことに、シャマル自身も、
周囲の誰も、まだ本当の意味では気づいていなかった。
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