13 / 41
13話 最初から、うんざり
しおりを挟む
13話 最初から、うんざり
王宮の回廊を歩くだけで、視線が集まる。
「まあ……」 「やはり、お似合いですわね」 「噂通り……」
ひそひそ声は、決して小さくない。
むしろ、聞かせる気満々だ。
シャマルは、歩調を乱さず前を向いたまま、内心でため息をつく。
(……始まりましたわね)
隣を歩くウィットンも、同じ空気を感じ取っているらしく、微妙に肩を落としていた。
「見られてるな」
「ええ。
“仲睦まじい婚約者”として」
「歩いてるだけなんだが」
「それが問題ですのよ」
二人並んでいるだけで、
勝手に“関係性”が完成する。
---
廊下の先で、貴族令嬢たちが立ち止まった。
「ごきげんよう、シャマル様」 「ウィットン様も」
「ごきげんよう」
形式的な挨拶。
完璧な微笑。
「お二人でお出かけですの?」
「進行方向が同じだっただけです」
即答。
「まあ……」
令嬢たちは顔を見合わせ、
意味ありげに微笑む。
「自然体で、素敵ですわね」
(勝手に納得しないでください)
シャマルは心の中だけで突っ込んだ。
---
令嬢たちが去ったあと。
「……疲れるな」
「ええ」
「まだ初日だぞ?」
「だからこそ、ですわ」
中庭へ抜けると、今度は使用人たちの視線が集まる。
「噂、広がるの早すぎないか」
「“歩幅が揃っている”
“距離が近い”
そういう理由で判断されますの」
「そんなことで?」
「そんなこと、です」
---
ベンチに腰を下ろすと、
ようやく視線が少しだけ薄れた。
「なあ」
ウィットンが、やや真剣な声で言う。
「まさか途中で本気に……
その気になったりするなよ」
シャマルは、一拍も置かずに答える。
「天地がひっくり返っても、
ありえませんわ」
「即答かよ」
「当然です」
---
「この……エセ聖女が」
「サブスクですわ。
放蕩侯爵様」
「言い返しが容赦ないな!」
「契約上の関係に、
情緒を持ち込まれる方が困ります」
シャマルは涼しい顔で言い切った。
---
「……本当に割り切ってるな」
「最初に申し上げましたでしょう?」
「期限付き、役割限定」
「感情不要」
「再更新なし」
「返金不可」
「最後のは余計だ」
二人は同時に小さくため息をつく。
---
並んで座っているだけで、
また誰かがこちらを見る。
「見てるな」
「見てますわね」
「“絵になる”とか思われてる」
「でしょうね」
シャマルは、どこか遠い目をした。
(……これが、始まり)
恋も、ときめきも、期待もない。
あるのは、必要に迫られた役割と、
周囲の過剰な解釈だけ。
---
「なあ、シャマル」
「何ですの?」
「俺たち、
本当に“お似合い”に見えると思うか?」
シャマルは、少し考えてから答えた。
「外から見れば、ええ」
「だから成立する」
「……割り切りすぎだろ」
「感情を挟む余地はありませんもの」
---
立ち上がり、シャマルは裾を整える。
「行きましょう」
「どこへ?」
「視線の届かない場所へ」
「そんな場所、王宮にあるのか?」
「探しますわ」
二人は並んで歩き出す。
背中に背負うのは、
“理想の婚約者”という重たい期待。
だが本人たちは、最初から理解していた。
これは――
始まった瞬間から、早く終わってほしい関係なのだと。
王宮の回廊を歩くだけで、視線が集まる。
「まあ……」 「やはり、お似合いですわね」 「噂通り……」
ひそひそ声は、決して小さくない。
むしろ、聞かせる気満々だ。
シャマルは、歩調を乱さず前を向いたまま、内心でため息をつく。
(……始まりましたわね)
隣を歩くウィットンも、同じ空気を感じ取っているらしく、微妙に肩を落としていた。
「見られてるな」
「ええ。
“仲睦まじい婚約者”として」
「歩いてるだけなんだが」
「それが問題ですのよ」
二人並んでいるだけで、
勝手に“関係性”が完成する。
---
廊下の先で、貴族令嬢たちが立ち止まった。
「ごきげんよう、シャマル様」 「ウィットン様も」
「ごきげんよう」
形式的な挨拶。
完璧な微笑。
「お二人でお出かけですの?」
「進行方向が同じだっただけです」
即答。
「まあ……」
令嬢たちは顔を見合わせ、
意味ありげに微笑む。
「自然体で、素敵ですわね」
(勝手に納得しないでください)
シャマルは心の中だけで突っ込んだ。
---
令嬢たちが去ったあと。
「……疲れるな」
「ええ」
「まだ初日だぞ?」
「だからこそ、ですわ」
中庭へ抜けると、今度は使用人たちの視線が集まる。
「噂、広がるの早すぎないか」
「“歩幅が揃っている”
“距離が近い”
そういう理由で判断されますの」
「そんなことで?」
「そんなこと、です」
---
ベンチに腰を下ろすと、
ようやく視線が少しだけ薄れた。
「なあ」
ウィットンが、やや真剣な声で言う。
「まさか途中で本気に……
その気になったりするなよ」
シャマルは、一拍も置かずに答える。
「天地がひっくり返っても、
ありえませんわ」
「即答かよ」
「当然です」
---
「この……エセ聖女が」
「サブスクですわ。
放蕩侯爵様」
「言い返しが容赦ないな!」
「契約上の関係に、
情緒を持ち込まれる方が困ります」
シャマルは涼しい顔で言い切った。
---
「……本当に割り切ってるな」
「最初に申し上げましたでしょう?」
「期限付き、役割限定」
「感情不要」
「再更新なし」
「返金不可」
「最後のは余計だ」
二人は同時に小さくため息をつく。
---
並んで座っているだけで、
また誰かがこちらを見る。
「見てるな」
「見てますわね」
「“絵になる”とか思われてる」
「でしょうね」
シャマルは、どこか遠い目をした。
(……これが、始まり)
恋も、ときめきも、期待もない。
あるのは、必要に迫られた役割と、
周囲の過剰な解釈だけ。
---
「なあ、シャマル」
「何ですの?」
「俺たち、
本当に“お似合い”に見えると思うか?」
シャマルは、少し考えてから答えた。
「外から見れば、ええ」
「だから成立する」
「……割り切りすぎだろ」
「感情を挟む余地はありませんもの」
---
立ち上がり、シャマルは裾を整える。
「行きましょう」
「どこへ?」
「視線の届かない場所へ」
「そんな場所、王宮にあるのか?」
「探しますわ」
二人は並んで歩き出す。
背中に背負うのは、
“理想の婚約者”という重たい期待。
だが本人たちは、最初から理解していた。
これは――
始まった瞬間から、早く終わってほしい関係なのだと。
0
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました
Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。
「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」
元婚約者である王子はそう言い放った。
十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。
その沈黙には、理由があった。
その夜、王都を照らす奇跡の光。
枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。
「真の聖女が目覚めた」と——
捨てられた私は遠くで幸せになります
高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。
父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。
そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。
本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない!
これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。
8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
【完結】婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる