サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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13話 最初から、うんざり

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13話 最初から、うんざり

 王宮の回廊を歩くだけで、視線が集まる。

「まあ……」 「やはり、お似合いですわね」 「噂通り……」

 ひそひそ声は、決して小さくない。
 むしろ、聞かせる気満々だ。

 シャマルは、歩調を乱さず前を向いたまま、内心でため息をつく。

(……始まりましたわね)

 隣を歩くウィットンも、同じ空気を感じ取っているらしく、微妙に肩を落としていた。

「見られてるな」

「ええ。
 “仲睦まじい婚約者”として」

「歩いてるだけなんだが」

「それが問題ですのよ」

 二人並んでいるだけで、
 勝手に“関係性”が完成する。


---

 廊下の先で、貴族令嬢たちが立ち止まった。

「ごきげんよう、シャマル様」 「ウィットン様も」

「ごきげんよう」

 形式的な挨拶。
 完璧な微笑。

「お二人でお出かけですの?」

「進行方向が同じだっただけです」

 即答。

「まあ……」

 令嬢たちは顔を見合わせ、
 意味ありげに微笑む。

「自然体で、素敵ですわね」

(勝手に納得しないでください)

 シャマルは心の中だけで突っ込んだ。


---

 令嬢たちが去ったあと。

「……疲れるな」

「ええ」

「まだ初日だぞ?」

「だからこそ、ですわ」

 中庭へ抜けると、今度は使用人たちの視線が集まる。

「噂、広がるの早すぎないか」

「“歩幅が揃っている”
 “距離が近い”
 そういう理由で判断されますの」

「そんなことで?」

「そんなこと、です」


---

 ベンチに腰を下ろすと、
 ようやく視線が少しだけ薄れた。

「なあ」

 ウィットンが、やや真剣な声で言う。

「まさか途中で本気に……
 その気になったりするなよ」

 シャマルは、一拍も置かずに答える。

「天地がひっくり返っても、
 ありえませんわ」

「即答かよ」

「当然です」


---

「この……エセ聖女が」

「サブスクですわ。
 放蕩侯爵様」

「言い返しが容赦ないな!」

「契約上の関係に、
 情緒を持ち込まれる方が困ります」

 シャマルは涼しい顔で言い切った。


---

「……本当に割り切ってるな」

「最初に申し上げましたでしょう?」

「期限付き、役割限定」

「感情不要」

「再更新なし」

「返金不可」

「最後のは余計だ」

 二人は同時に小さくため息をつく。


---

 並んで座っているだけで、
 また誰かがこちらを見る。

「見てるな」

「見てますわね」

「“絵になる”とか思われてる」

「でしょうね」

 シャマルは、どこか遠い目をした。

(……これが、始まり)

 恋も、ときめきも、期待もない。
 あるのは、必要に迫られた役割と、
 周囲の過剰な解釈だけ。


---

「なあ、シャマル」

「何ですの?」

「俺たち、
 本当に“お似合い”に見えると思うか?」

 シャマルは、少し考えてから答えた。

「外から見れば、ええ」

「だから成立する」

「……割り切りすぎだろ」

「感情を挟む余地はありませんもの」


---

 立ち上がり、シャマルは裾を整える。

「行きましょう」

「どこへ?」

「視線の届かない場所へ」

「そんな場所、王宮にあるのか?」

「探しますわ」

 二人は並んで歩き出す。

 背中に背負うのは、
 “理想の婚約者”という重たい期待。

 だが本人たちは、最初から理解していた。

 これは――
 始まった瞬間から、早く終わってほしい関係なのだと。
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