サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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17話 比較するのがおかしい!

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17話 比較するのがおかしい!

 シャマルは、部屋の扉を閉めた瞬間、深く息を吐いた。

「……もう」

 誰もいない。
 だから、取り繕う必要もない。

「本当に、比較するのがおかしいです……!」

 思わず、声が少しだけ強くなった。

 今日だけで、何度耳にしただろう。

「普通で安心」
「特別で不安」
「奇跡は起こせないけど問題は起こさない」
「奇跡は起こせるけど騒動になる」

 ――だから、何なんですか。

 シャマルは椅子に腰を下ろし、机に肘をついた。

「立場が違うでしょう……」

 聖女と平民。
 責任も、背負わされるものも、注がれる視線も、全部違う。

「同じ場所に立っていない人を、
 どうして同じ物差しで測るんですか……?」

 奇跡を起こせないことと、
 奇跡を起こさないこと。

 似ているようで、まったく別物だ。

「私は“起こさない”だけ」
「彼女は“起こせない”」

「それだけの話なのに……」

 小さく、頭を振る。

 マリベーリヤが悪いわけではない。
 むしろ、巻き込まれているのは彼女も同じだ。

「普通で、問題を起こさない」

 それを“聖女らしい”と言われても、困るだろう。
 普通でい続けることが、どれほど大変か。

「……普通って、努力しなくていい意味じゃありませんから」

 できないことを受け入れて、
 無理をしない選択をして、
 毎日を積み重ねる。

 それは、奇跡とは別の重さを持っている。

「なのに……」

 シャマルは、机に額がつきそうになるのをこらえた。

「勝手に並べて、
 勝手に比べて、
 勝手に評価して……」

 そして、その声が――
 自分の耳に届く。

「……一番それが嫌なんですけど」

 はっきりとした本音が、ぽろりと零れた。

「私に聞こえるところで、
 あれこれ言わないでください」

 少し間を置いて、続ける。

「……私に聞こえないところで、勝手にやってください」

 愚痴だ。
 完全に。

 でも、偽りのない気持ちだった。

「比べたいなら、比べればいい」
「評価したいなら、好きにすればいい」

「でも……」

 小さく、肩をすくめる。

「私を巻き込まないでください」

 奇跡を誇示したいわけでもない。
 誰かより上に立ちたいわけでもない。

「ただ、静かにしていたいだけなんです」

 それだけなのに。

 何もしなくても話題にされ、
 動かなくても評価され、
 比べられた結果だけが一人歩きする。

「……本当に、迷惑です」

 シャマルは、珍しくきっぱりと言った。

 誰かに向けた言葉ではない。
 説得でも、抗議でもない。

 ただの愚痴。
 ただの本音。

「比較するのがおかしい」
「比較される前提がおかしい」
「その結果で、誰かを持ち上げたり、
 誰かを切り捨てたりするのも、おかしい」

 一気に言い切ってから、
 ふう、と長く息を吐く。

「……言ってしまいました」

 少しだけ、すっきりした。

 どうせ、この声は外には届かない。
 届かなくていい。

 シャマルは、背もたれに身を預けた。

「私は、何もしません」

 それは、逃げではない。
 自分を守るための選択だ。

「だから……」

 最後に、ぽつりと。

「私に聞こえないところで、
 勝手にやってください」

 その愚痴は、
 聖女としてではなく、
 一人の人間としてのものだった。

 そして翌日――
 シャマルはまた、何事もなかった顔で王宮を歩く。

 比較が続いていることを知りながら、
 それでも関わらないと決めたまま。

 それが、
 彼女なりの距離の取り方だった。
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