18 / 41
18話 焦りの兆し
しおりを挟む
18話 焦りの兆し
最近、空気が少しだけ――いや、確実に変わり始めていた。
それを最初に感じ取ったのは、王宮の中でも「空気を読む」ことに長けた者たちだ。
「……最近、静かすぎないか?」
廊下の片隅で、アルナージ派の貴族が小声で囁く。
「ええ。妙に」
返ってきた声には、落ち着きがない。
シャマルは何もしていない。
奇跡も起こしていない。
意見も言わず、派閥争いにも顔を出さない。
――それなのに。
「話題から外れない」
誰かが、苛立ちを隠さずに言った。
「比較の話も、噂も、
本人が関与しないまま、勝手に続いている」
それが、アルナージ派にとって想定外だった。
---
彼らの想定では、シャマルはもっと「反応」するはずだった。
比較されれば、弁明する。
評価が割れれば、立場を明確にする。
黙っていられず、どこかで動く。
――だが、現実は違った。
「何も、起きない」
それが、最悪だった。
「騒動にならない」
「失言もない」
「利用できる発言も出てこない」
つまり――
揺さぶれない。
「……このままだと、困る」
アルナージ派の中枢に近い人物が、はっきりとそう口にした。
「何も起きなければ、
世論は自然に落ち着く」
「比較は、飽きられる」
「そうなれば……」
続きの言葉は、誰も口にしなかった。
シャマルが「無害な存在」として定着してしまう。
それは、利用価値が下がるという意味だ。
---
一方で、民の側の空気は、別の方向に流れていた。
「最近、聖女様、静かだよね」
「ええ。何もしないって聞いた」
「……でも、変な騒ぎも起きてない」
それは、不満ではない。
むしろ、安心だった。
「静かでいいじゃない」
「余計なことが起きないのが、一番だ」
その評価が、じわじわと広がっていく。
それを聞いたアルナージ派の者たちは、内心で歯噛みした。
(違う……そうじゃない)
彼らが欲しいのは、
静かな聖女ではない。
動かせる象徴だ。
---
会合の席。
アルナージ派の数名が集まり、低い声で話し合っていた。
「このまま放置すると、流れが固まる」
「ええ。比較も、騒動も、自然消滅しかねない」
「……それは困る」
誰かが、はっきりと言った。
「今はまだ、揺らせる段階だ」
「だが、時間が経てば経つほど、
“何も起こらない状態”が常態になる」
沈黙。
誰もが、同じ結論に辿り着いていた。
「――動かす必要がある」
その言葉に、重さがあった。
「シャマルを、ではない」
「周囲をだ」
誰かが、慎重に補足する。
「本人が動かないなら、
周囲を動かすしかない」
それは、明確な方向転換だった。
---
その頃。
当のシャマルは、自室で静かに紅茶を飲んでいた。
「……今日は、静かですね」
ただ、それだけ。
外で何が話し合われているかなど、知らない。
知ろうともしていない。
比較に疲れ、
評価に興味を失い、
距離を取ることを選んだ。
それだけだ。
だが――
その「何もしなさ」が、
誰かを追い詰めていることを、
シャマルはまだ知らない。
---
アルナージ派の空気は、明確に変わっていた。
余裕が消え、
苛立ちが増え、
焦りが前に出始めている。
「……次は、もっと分かりやすい手が必要だな」
誰かが、ぽつりと漏らした。
その言葉は、
決して口にしてはいけない方向を、
すでに指していた。
静かな状況を壊す手段。
本人の意思とは無関係に、事態を動かす方法。
それが、
次章――
誘拐未遂事件へと繋がっていく。
アルナージ派は、
確実に、焦り始めていた。
最近、空気が少しだけ――いや、確実に変わり始めていた。
それを最初に感じ取ったのは、王宮の中でも「空気を読む」ことに長けた者たちだ。
「……最近、静かすぎないか?」
廊下の片隅で、アルナージ派の貴族が小声で囁く。
「ええ。妙に」
返ってきた声には、落ち着きがない。
シャマルは何もしていない。
奇跡も起こしていない。
意見も言わず、派閥争いにも顔を出さない。
――それなのに。
「話題から外れない」
誰かが、苛立ちを隠さずに言った。
「比較の話も、噂も、
本人が関与しないまま、勝手に続いている」
それが、アルナージ派にとって想定外だった。
---
彼らの想定では、シャマルはもっと「反応」するはずだった。
比較されれば、弁明する。
評価が割れれば、立場を明確にする。
黙っていられず、どこかで動く。
――だが、現実は違った。
「何も、起きない」
それが、最悪だった。
「騒動にならない」
「失言もない」
「利用できる発言も出てこない」
つまり――
揺さぶれない。
「……このままだと、困る」
アルナージ派の中枢に近い人物が、はっきりとそう口にした。
「何も起きなければ、
世論は自然に落ち着く」
「比較は、飽きられる」
「そうなれば……」
続きの言葉は、誰も口にしなかった。
シャマルが「無害な存在」として定着してしまう。
それは、利用価値が下がるという意味だ。
---
一方で、民の側の空気は、別の方向に流れていた。
「最近、聖女様、静かだよね」
「ええ。何もしないって聞いた」
「……でも、変な騒ぎも起きてない」
それは、不満ではない。
むしろ、安心だった。
「静かでいいじゃない」
「余計なことが起きないのが、一番だ」
その評価が、じわじわと広がっていく。
それを聞いたアルナージ派の者たちは、内心で歯噛みした。
(違う……そうじゃない)
彼らが欲しいのは、
静かな聖女ではない。
動かせる象徴だ。
---
会合の席。
アルナージ派の数名が集まり、低い声で話し合っていた。
「このまま放置すると、流れが固まる」
「ええ。比較も、騒動も、自然消滅しかねない」
「……それは困る」
誰かが、はっきりと言った。
「今はまだ、揺らせる段階だ」
「だが、時間が経てば経つほど、
“何も起こらない状態”が常態になる」
沈黙。
誰もが、同じ結論に辿り着いていた。
「――動かす必要がある」
その言葉に、重さがあった。
「シャマルを、ではない」
「周囲をだ」
誰かが、慎重に補足する。
「本人が動かないなら、
周囲を動かすしかない」
それは、明確な方向転換だった。
---
その頃。
当のシャマルは、自室で静かに紅茶を飲んでいた。
「……今日は、静かですね」
ただ、それだけ。
外で何が話し合われているかなど、知らない。
知ろうともしていない。
比較に疲れ、
評価に興味を失い、
距離を取ることを選んだ。
それだけだ。
だが――
その「何もしなさ」が、
誰かを追い詰めていることを、
シャマルはまだ知らない。
---
アルナージ派の空気は、明確に変わっていた。
余裕が消え、
苛立ちが増え、
焦りが前に出始めている。
「……次は、もっと分かりやすい手が必要だな」
誰かが、ぽつりと漏らした。
その言葉は、
決して口にしてはいけない方向を、
すでに指していた。
静かな状況を壊す手段。
本人の意思とは無関係に、事態を動かす方法。
それが、
次章――
誘拐未遂事件へと繋がっていく。
アルナージ派は、
確実に、焦り始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる