サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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18話 焦りの兆し

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18話 焦りの兆し

 最近、空気が少しだけ――いや、確実に変わり始めていた。

 それを最初に感じ取ったのは、王宮の中でも「空気を読む」ことに長けた者たちだ。

「……最近、静かすぎないか?」

 廊下の片隅で、アルナージ派の貴族が小声で囁く。

「ええ。妙に」

 返ってきた声には、落ち着きがない。

 シャマルは何もしていない。
 奇跡も起こしていない。
 意見も言わず、派閥争いにも顔を出さない。

 ――それなのに。

「話題から外れない」

 誰かが、苛立ちを隠さずに言った。

「比較の話も、噂も、
 本人が関与しないまま、勝手に続いている」

 それが、アルナージ派にとって想定外だった。


---

 彼らの想定では、シャマルはもっと「反応」するはずだった。

 比較されれば、弁明する。
 評価が割れれば、立場を明確にする。
 黙っていられず、どこかで動く。

 ――だが、現実は違った。

「何も、起きない」

 それが、最悪だった。

「騒動にならない」
「失言もない」
「利用できる発言も出てこない」

 つまり――
 揺さぶれない。

「……このままだと、困る」

 アルナージ派の中枢に近い人物が、はっきりとそう口にした。

「何も起きなければ、
 世論は自然に落ち着く」

「比較は、飽きられる」

「そうなれば……」

 続きの言葉は、誰も口にしなかった。

 シャマルが「無害な存在」として定着してしまう。
 それは、利用価値が下がるという意味だ。


---

 一方で、民の側の空気は、別の方向に流れていた。

「最近、聖女様、静かだよね」

「ええ。何もしないって聞いた」

「……でも、変な騒ぎも起きてない」

 それは、不満ではない。
 むしろ、安心だった。

「静かでいいじゃない」
「余計なことが起きないのが、一番だ」

 その評価が、じわじわと広がっていく。

 それを聞いたアルナージ派の者たちは、内心で歯噛みした。

(違う……そうじゃない)

 彼らが欲しいのは、
 静かな聖女ではない。

 動かせる象徴だ。


---

 会合の席。

 アルナージ派の数名が集まり、低い声で話し合っていた。

「このまま放置すると、流れが固まる」

「ええ。比較も、騒動も、自然消滅しかねない」

「……それは困る」

 誰かが、はっきりと言った。

「今はまだ、揺らせる段階だ」

「だが、時間が経てば経つほど、
 “何も起こらない状態”が常態になる」

 沈黙。

 誰もが、同じ結論に辿り着いていた。

「――動かす必要がある」

 その言葉に、重さがあった。

「シャマルを、ではない」

「周囲をだ」

 誰かが、慎重に補足する。

「本人が動かないなら、
 周囲を動かすしかない」

 それは、明確な方向転換だった。


---

 その頃。

 当のシャマルは、自室で静かに紅茶を飲んでいた。

「……今日は、静かですね」

 ただ、それだけ。

 外で何が話し合われているかなど、知らない。
 知ろうともしていない。

 比較に疲れ、
 評価に興味を失い、
 距離を取ることを選んだ。

 それだけだ。

 だが――
 その「何もしなさ」が、
 誰かを追い詰めていることを、
 シャマルはまだ知らない。


---

 アルナージ派の空気は、明確に変わっていた。

 余裕が消え、
 苛立ちが増え、
 焦りが前に出始めている。

「……次は、もっと分かりやすい手が必要だな」

 誰かが、ぽつりと漏らした。

 その言葉は、
 決して口にしてはいけない方向を、
 すでに指していた。

 静かな状況を壊す手段。
 本人の意思とは無関係に、事態を動かす方法。

 それが、
 次章――
 誘拐未遂事件へと繋がっていく。

 アルナージ派は、
 確実に、焦り始めていた。
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