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29話 新しい婚約者の発表
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29話 新しい婚約者の発表
発表は、あまりにもあっさりしていた。
王宮の定例会議。
議題の終盤、まるで付け足しのように告げられた一文。
「――アルナージ公爵家より、婚約の報告があります」
その瞬間、会議室の空気が一段、変わった。
誰もが知っている。
アルナージの“婚約”が、いまどういう意味を持つのかを。
---
「アルナージ公爵令息は、
ノルディア公爵家令嬢セリフィナとの婚約を成立させました」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、
小さく、だが確実なざわめきが走った。
「……成立、ですか」
「ええ。
正式な契約はすでに交わされ、
両家の合意も確認済みです」
“予定”ではない。
“調整中”でもない。
成立。
---
シャマルは、席の端で静かにそれを聞いていた。
驚きは――ない。
(ようやく、か)
それが正直な感想だった。
遅すぎるくらいだ、とすら思う。
---
会議後。
廊下に出ると、
あちこちで小声が交わされている。
「つまり……」
「ええ。
あの偽装婚約は……」
「終わりが、見えたということですね」
誰も、シャマルの名を直接出さない。
だが、話題の中心にいるのが誰かは明白だった。
---
「……思ったより、静かですね」
シャマルが呟くと、
隣を歩くステルヴィオが肩をすくめた。
「派手に騒ぐと、
“今までの構図がおかしかった”と
認めることになりますから」
「なるほど」
納得はしたが、
同情はしない。
---
屋敷に戻ると、
ウィットンがすでに待っていた。
「聞いた?」
「ええ」
「ノルディア公爵家だ」
「無難ですね」
「非常に」
ウィットンは、少し疲れた顔で笑った。
「身分も、家格も、
文句のつけようがない」
「……“普通”ですね」
「そう。
普通の婚約だ」
その言葉に、
シャマルは小さく息を吐いた。
---
「おめでたい話なのに、
どうして皆、
こんなに緊張しているのかしら」
「理由が分からない?」
「分かりますけど、
納得はしていません」
ウィットンは、少し考えてから言った。
「アルナージ派にとっては、
逃げ道が消えたからだ」
---
これまで、
彼らは“仮の構図”に寄りかかっていた。
王太子。
平民出身の婚約者。
聖女シャマルとの曖昧な関係。
すべてが、
「いつか変わる前提」だった。
だが――
「公爵令嬢との正式婚約が成立した以上、
もう誤魔化せない」
「ええ」
シャマルは頷いた。
「今後は、
“正規の婚約者がいる男”ですものね」
---
「つまり」
ウィットンは、少し声を落とす。
「アルナージ派が、
これ以上あなたを利用する理由は消えた」
「利用価値がなくなった?」
「そうじゃない」
彼は首を振る。
「使うと危険になった」
その表現は、的確だった。
---
シャマルは、
窓の外を見た。
庭は、いつもと変わらない。
鳥が鳴き、風が通る。
だが、
王都の空気は確実に変わり始めている。
---
「……これで、
私の役目も終わりが見えてきましたね」
シャマルの言葉に、
ウィットンはすぐに答えなかった。
「……そうだな」
少し間を置いて、
ようやく頷く。
「だが、
“終わり方”が問題だ」
---
偽装婚約は、
始めるより、
終わらせる方が難しい。
静かに終わらせれば、
裏で疑念が残る。
派手に終わらせれば、
傷が増える。
どちらにしても、
無傷では済まない。
---
「……大丈夫です」
シャマルは、静かに言った。
「もう、
“私が守る構図”はありません」
「守る必要がなくなった?」
「ええ」
視線を戻し、
はっきりと言う。
「アルナージが選んだのは、
“普通の婚約”です」
「なら、
私も――」
一拍。
「普通に、終わらせるだけ」
---
その夜。
王都のあちこちで、
同じ噂が囁かれていた。
「アルナージの婚約、
本物らしい」
「じゃあ、
あの聖女との関係は……?」
「もう、
終わるんじゃないか」
答えは、まだ出ていない。
だが、
誰もが薄々、感じている。
この“偽装婚約”は、
終わりに向かって動き出したのだと。
そして、
その終わりは――
静かでは済まない。
シャマルは、
それを誰よりも、
よく分かっていた。
発表は、あまりにもあっさりしていた。
王宮の定例会議。
議題の終盤、まるで付け足しのように告げられた一文。
「――アルナージ公爵家より、婚約の報告があります」
その瞬間、会議室の空気が一段、変わった。
誰もが知っている。
アルナージの“婚約”が、いまどういう意味を持つのかを。
---
「アルナージ公爵令息は、
ノルディア公爵家令嬢セリフィナとの婚約を成立させました」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、
小さく、だが確実なざわめきが走った。
「……成立、ですか」
「ええ。
正式な契約はすでに交わされ、
両家の合意も確認済みです」
“予定”ではない。
“調整中”でもない。
成立。
---
シャマルは、席の端で静かにそれを聞いていた。
驚きは――ない。
(ようやく、か)
それが正直な感想だった。
遅すぎるくらいだ、とすら思う。
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会議後。
廊下に出ると、
あちこちで小声が交わされている。
「つまり……」
「ええ。
あの偽装婚約は……」
「終わりが、見えたということですね」
誰も、シャマルの名を直接出さない。
だが、話題の中心にいるのが誰かは明白だった。
---
「……思ったより、静かですね」
シャマルが呟くと、
隣を歩くステルヴィオが肩をすくめた。
「派手に騒ぐと、
“今までの構図がおかしかった”と
認めることになりますから」
「なるほど」
納得はしたが、
同情はしない。
---
屋敷に戻ると、
ウィットンがすでに待っていた。
「聞いた?」
「ええ」
「ノルディア公爵家だ」
「無難ですね」
「非常に」
ウィットンは、少し疲れた顔で笑った。
「身分も、家格も、
文句のつけようがない」
「……“普通”ですね」
「そう。
普通の婚約だ」
その言葉に、
シャマルは小さく息を吐いた。
---
「おめでたい話なのに、
どうして皆、
こんなに緊張しているのかしら」
「理由が分からない?」
「分かりますけど、
納得はしていません」
ウィットンは、少し考えてから言った。
「アルナージ派にとっては、
逃げ道が消えたからだ」
---
これまで、
彼らは“仮の構図”に寄りかかっていた。
王太子。
平民出身の婚約者。
聖女シャマルとの曖昧な関係。
すべてが、
「いつか変わる前提」だった。
だが――
「公爵令嬢との正式婚約が成立した以上、
もう誤魔化せない」
「ええ」
シャマルは頷いた。
「今後は、
“正規の婚約者がいる男”ですものね」
---
「つまり」
ウィットンは、少し声を落とす。
「アルナージ派が、
これ以上あなたを利用する理由は消えた」
「利用価値がなくなった?」
「そうじゃない」
彼は首を振る。
「使うと危険になった」
その表現は、的確だった。
---
シャマルは、
窓の外を見た。
庭は、いつもと変わらない。
鳥が鳴き、風が通る。
だが、
王都の空気は確実に変わり始めている。
---
「……これで、
私の役目も終わりが見えてきましたね」
シャマルの言葉に、
ウィットンはすぐに答えなかった。
「……そうだな」
少し間を置いて、
ようやく頷く。
「だが、
“終わり方”が問題だ」
---
偽装婚約は、
始めるより、
終わらせる方が難しい。
静かに終わらせれば、
裏で疑念が残る。
派手に終わらせれば、
傷が増える。
どちらにしても、
無傷では済まない。
---
「……大丈夫です」
シャマルは、静かに言った。
「もう、
“私が守る構図”はありません」
「守る必要がなくなった?」
「ええ」
視線を戻し、
はっきりと言う。
「アルナージが選んだのは、
“普通の婚約”です」
「なら、
私も――」
一拍。
「普通に、終わらせるだけ」
---
その夜。
王都のあちこちで、
同じ噂が囁かれていた。
「アルナージの婚約、
本物らしい」
「じゃあ、
あの聖女との関係は……?」
「もう、
終わるんじゃないか」
答えは、まだ出ていない。
だが、
誰もが薄々、感じている。
この“偽装婚約”は、
終わりに向かって動き出したのだと。
そして、
その終わりは――
静かでは済まない。
シャマルは、
それを誰よりも、
よく分かっていた。
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