サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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38話 再び伸びる、ルヴァンディア王の手

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38話 再び伸びる、ルヴァンディア王の手

 静かな日常というものは、長くは続かない。

 シャマルはそのことを、よく分かっていた。
 分かってはいたが――それでも、もう少し時間があると思っていた。

 だからこそ、その報告を受けた瞬間、紅茶のカップを置いた。

「……もうですの?」

 声は落ち着いている。
 内心は、別として。


---

「はい」

 報告に来たのは、王城付きの使者だった。
 態度は丁寧で、言葉選びにも慎重さが滲んでいる。

「ルヴァンディア王国の国王陛下より、
 非公式ながら、接触の意思があるとのことです」

「非公式……」

 シャマルは、軽く眉を寄せた。

「ずいぶん便利な言い回しですわね」


---

 ルヴァンディア王国。

 かつて聖女派遣の話を持ちかけ、
 裏で側近が暴走し、
 誘拐未遂という一線を越え、
 最終的には“切り捨て”によって責任を処理した国。

(……まったく、懲りていない)

 シャマルは、内心でため息をついた。


---

「内容は?」

「“改めて友好的な話し合いの場を設けたい”
 とのことです」

「友好的、ですの」

 思わず、口元が緩む。

「問題を起こした側が使う言葉としては、
 実に便利ですわね」

 使者は、黙って頭を下げた。
 それ以上、言うことはない。


---

「王国としての対応は?」

「現時点では、
 正式な返答は保留されています」

「妥当ですわ」

 シャマルは頷いた。

「先方が“非公式”なら、
 こちらも“検討中”で十分ですもの」


---

 使者が下がったあと、
 シャマルは窓辺へ移動した。

 庭園は、今日も穏やかだった。
 風が木々を揺らし、
 遠くで鳥の声が聞こえる。

 ――平和、そのもの。

(それでも、
 向こうから壊しに来る)

 自由になった途端、
 また新しい“役割”を期待される。

 それが、何より厄介だった。


---

「聞いたぞ」

 軽い調子で、ウィットンが現れる。

「ルヴァンディアから、また動きがあったらしいな」

「ええ」

「しつこい」

「礼儀を装っている分、余計に」

 二人は並んで、窓の外を眺める。


---

「どうする?」

 ウィットンが、率直に聞く。

「会うか?」

「いいえ」

 即答。

「少なくとも、今は」

「だろうな」

 迷いのない返事に、ウィットンも頷いた。


---

「婚約破棄した直後の令嬢に、
 次の仕事を振ろうなんて」

「普通なら、同情される場面だ」

「普通なら、ですけれど」

 シャマルは肩をすくめた。

「私は“便利”ですもの」

「否定できない」

「肯定しないでください」


---

 一瞬、沈黙。

 だが、不思議と重くはなかった。

「……でも」

 ウィットンが、少し真面目な声になる。

「今回は、前と違う」

「ええ」

 シャマルも理解している。

「私には、
 婚約者という看板も、
 義務も、ありません」

 つまり――

「断る自由がある」

「その通りですわ」


---

 シャマルは、窓から視線を外した。

「国王が相手でも?」

「相手が誰であっても、です」

 その声に、迷いはなかった。


---

「向こうも分かってるだろうな」

 ウィットンが、小さく笑う。

「今回は、
 簡単に動かないってこと」

「ええ」

 シャマルは、静かに息を吐いた。

「だからこそ、
 “接触の気配”止まりなのでしょう」


---

 その日の夕方。

 シャマルは、書類の隅に一行だけ書き足した。

『当面、対応不要』

 それだけ。

 拒絶も、抗議もない。
 ただ――
 動かないという選択。


---

 ルヴァンディア王の手は、
 確かに、再び伸びてきた。

 だが、今回は――
 シャマルが、それを取る理由はなかった。

 静かな日常は、
 まだ、彼女のものだった。


---

この形で、

国名を明示

過去の因縁が自然につながる

シャマルの「断る自由」がはっきり立つ


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