サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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39話 軽口の終わりと、最悪の提案

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39話 軽口の終わりと、最悪の提案

 午後の中庭は、相変わらず平和だった。

 日差しは柔らかく、風は穏やか。
 紅茶は適温。
 会話はどうでもいい。

「……暇ですわね」

 シャマルが言うと、

「暇だな」

 ウィットンも同意した。

「婚約破棄直後とは思えない静けさだ」

「感情を消費しない婚約破棄でしたから」

「普通は逆だろ」

 二人は、同時にため息をつく。


---

「それにしても」

 ウィットンが、ぼそりと言った。

「俺、妙な目で見られてないか?」

「見られてますわね」

「やっぱりか」

「“平民の女性を選んだ男”という
 物語の主人公扱いです」

「やめてくれ……」


---

「いっそ、本当に婚約なさったら?」

「しない」

 即答。

「即答するな」

「理由は単純ですわ」

「聞くのが怖い」

「面倒だから」

「正直すぎる」


---

 そのときだった。

「……お前たち、ずいぶん余裕だな」

 聞き覚えのある声が、中庭に割り込んだ。

 二人が振り返ると、
 そこにはステルヴィオが立っていた。

「何か問題でも?」

 シャマルが、嫌な予感を隠さずに尋ねる。

「問題しかない」

 ステルヴィオは、淡々と告げた。

「ルヴァンディア王国の国王から、
 正式な打診が来た」

「……何の、ですの?」

「王子とシャマルとの婚約についてだ」

「は?」

「……え?」

 シャマルとウィットンが、同時に固まる。

 中庭の風が、一瞬止まった気がした。


---

「向こうで、やたら献身的に働いてきたらしいな」

 ステルヴィオは続ける。

「王城でも、神殿でも、
 揉め事を起こさず、
 要求された分だけ淡々と処理」

「えらくお気に入りのようだ」

「……」

 シャマルは、静かに口を開いた。

「サブスク分、働いただけですのに」

「向こうは“理想の王太子妃候補”と
 解釈したらしい」

「解釈、重すぎません?」


---

「……なあ」

 ウィットンが、嫌な汗をかきながら言う。

「それ、
 俺、関係ないよな?」

「ある」

 ステルヴィオは即答した。

「前婚約者という立場がある」

「最悪だ……」


---

 シャマルが、ふとウィットンを見る。

「ウィットン」

「嫌な間を置くな」

「もう一度、婚約を――」

「無理!」

 即答。

「食い気味に否定するな!」

「無理なものは無理だ!」


---

「どうしてですの?」

 シャマルは、心底不思議そうに首をかしげる。

「一度やったのなら、
 二度も三度も同じでは?」

「そんな理屈が通るか!!」

 ウィットンは、思わず立ち上がった。

「あんな派手に婚約破棄したんだぞ!?
 再婚約なんてできるか!」

「可能性の話ですわ」

「社会的に不可能だ!!」


---

「……というわけで」

 シャマルは、即座に結論を出した。

 ステルヴィオの方を向き、
 両手を胸の前で組む。

「ステルヴィオ」

「断って」

「断われ」

「お願いします」

「今すぐ」

「できれば二度と来ないように」

「丁寧に、しかし明確に」

「公式に」

「完全拒否で」

「お願いします!」

 畳みかけるような懇願。


---

 ステルヴィオは、しばらく無言だった。

 そして――

「……善処しよう」

「“善処”じゃ足りない!!」

 ウィットンが叫ぶ。

「完全拒否だ!
 国王相手でも関係ない!」

「お前は黙れ」

「黙れない!」


---

 シャマルは、深くため息をついた。

(……自由って、短いですわね)

 さっきまでの平和は、
 音を立てて崩れていた。

 だが、彼女はもう決めている。

(次の婚約は――
 絶対に、しません)

 中庭に、
 再び不穏な風が吹き始めていた。
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