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第十七話 正式な終わり
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第十七話 正式な終わり
王宮に届いた返書は、短く、そして冷静だった。
余計な感情はなく、非難もない。
ただ、事実と立場だけが淡々と記されている。
ロイド・ヴァルシュタインは、それを何度も読み返していた。
「……会えない、か」
拒絶ではない。
だが、救済でもない。
その曖昧さが、かえって残酷だった。
彼女は怒っていない。
失望も、恨みも、すでに過ぎ去っている。
――だからこそ、戻らない。
その意味を、ロイドはようやく理解した。
「……もう、俺の問題なんだな」
マルグリット・フォン・ルーヴェンは、王宮の混乱を整理する役目を降りた。
それは逃げでも放棄でもない。
彼女が“自分の人生を選んだ”だけだ。
同じ頃、王宮では正式な決定が下されていた。
聖女エマの称号は、完全に停止。
教会は「奇跡の再現性が確認できない」として、公式にその判断を発表した。
礼拝堂は閉じられ、祈祷の時間割は白紙に戻る。
「……終わった、の?」
通達を受け取ったエマは、呆然と立ち尽くした。
選ばれた存在だったはずの自分が、
いつの間にか、誰にも必要とされなくなっている。
「私は……何を間違えたの……」
答えは、誰も教えてくれない。
いや、正確には――
教えてくれていた人はいた。
だが、聞こうとしなかった。
王宮の重臣たちは、すでに次の段階へ移っていた。
「聖女不在の体制を、早急に整えねばなりません」
「教会との関係再構築が急務です」
「王太子殿下の補佐体制も、見直す必要がありますな」
その言葉一つひとつが、ロイドの胸に突き刺さる。
「……補佐、か」
その役割に、誰の名が最適か。
全員が分かっている。
だが、口に出す者はいない。
なぜなら、その答えは、もう失われた後だからだ。
一方、辺境公爵領では。
マルグリットは、通常どおりの一日を過ごしていた。
物流拠点の稼働報告。
税収見込みの再計算。
次年度計画の素案。
忙しさはある。
だが、心は揺れていない。
「王宮からの返事は、これで終わりですね」
フェリクス・フォン・グランツが、静かに言った。
「はい」
マルグリットは頷く。
「私が関わるべきことは、もうありません」
「後悔は」
「ありません」
迷いのない声だった。
「過去を整理することと、過去に戻ることは違います」
フェリクスは、わずかに口角を上げる。
「あなたは、整理できた」
「……ええ」
その夜、マルグリットは一人、城下町を歩いた。
人々は彼女に気づくと、自然に頭を下げる。
だが、過剰な敬意はない。
「顧問様」
「お疲れさまです」
それで十分だった。
彼女は“象徴”ではない。
奇跡でもない。
ただ、役割を果たす人間だ。
一方、王宮の夜は重かった。
ロイドは、執務室で一人、書類の山を前にしている。
補佐はいる。
だが、誰も全体を見渡せない。
「……これが、現実か」
マルグリットがいた頃、
自分は判断を“任せているつもり”で、
実際には“預け切っていた”。
その重さを、今になって一人で抱えている。
彼は、ふと窓の外を見た。
遠くに見える夜空は、同じはずなのに、
なぜか、ひどく遠く感じられる。
選択は、終わった。
誰かが奪ったわけではない。
誰かに壊されたわけでもない。
自分で選び、
自分で遅れ、
自分で失った。
それが、正式な終わりだった。
そして同時に――
マルグリット・フォン・ルーヴェンの人生が、
本当の意味で“王宮から切り離された瞬間”でもあった。
もう、戻る必要はない。
戻る理由もない。
終わったのは、関係だけだ。
彼女自身は、
静かに、確かに、前へ進み続けている。
王宮に届いた返書は、短く、そして冷静だった。
余計な感情はなく、非難もない。
ただ、事実と立場だけが淡々と記されている。
ロイド・ヴァルシュタインは、それを何度も読み返していた。
「……会えない、か」
拒絶ではない。
だが、救済でもない。
その曖昧さが、かえって残酷だった。
彼女は怒っていない。
失望も、恨みも、すでに過ぎ去っている。
――だからこそ、戻らない。
その意味を、ロイドはようやく理解した。
「……もう、俺の問題なんだな」
マルグリット・フォン・ルーヴェンは、王宮の混乱を整理する役目を降りた。
それは逃げでも放棄でもない。
彼女が“自分の人生を選んだ”だけだ。
同じ頃、王宮では正式な決定が下されていた。
聖女エマの称号は、完全に停止。
教会は「奇跡の再現性が確認できない」として、公式にその判断を発表した。
礼拝堂は閉じられ、祈祷の時間割は白紙に戻る。
「……終わった、の?」
通達を受け取ったエマは、呆然と立ち尽くした。
選ばれた存在だったはずの自分が、
いつの間にか、誰にも必要とされなくなっている。
「私は……何を間違えたの……」
答えは、誰も教えてくれない。
いや、正確には――
教えてくれていた人はいた。
だが、聞こうとしなかった。
王宮の重臣たちは、すでに次の段階へ移っていた。
「聖女不在の体制を、早急に整えねばなりません」
「教会との関係再構築が急務です」
「王太子殿下の補佐体制も、見直す必要がありますな」
その言葉一つひとつが、ロイドの胸に突き刺さる。
「……補佐、か」
その役割に、誰の名が最適か。
全員が分かっている。
だが、口に出す者はいない。
なぜなら、その答えは、もう失われた後だからだ。
一方、辺境公爵領では。
マルグリットは、通常どおりの一日を過ごしていた。
物流拠点の稼働報告。
税収見込みの再計算。
次年度計画の素案。
忙しさはある。
だが、心は揺れていない。
「王宮からの返事は、これで終わりですね」
フェリクス・フォン・グランツが、静かに言った。
「はい」
マルグリットは頷く。
「私が関わるべきことは、もうありません」
「後悔は」
「ありません」
迷いのない声だった。
「過去を整理することと、過去に戻ることは違います」
フェリクスは、わずかに口角を上げる。
「あなたは、整理できた」
「……ええ」
その夜、マルグリットは一人、城下町を歩いた。
人々は彼女に気づくと、自然に頭を下げる。
だが、過剰な敬意はない。
「顧問様」
「お疲れさまです」
それで十分だった。
彼女は“象徴”ではない。
奇跡でもない。
ただ、役割を果たす人間だ。
一方、王宮の夜は重かった。
ロイドは、執務室で一人、書類の山を前にしている。
補佐はいる。
だが、誰も全体を見渡せない。
「……これが、現実か」
マルグリットがいた頃、
自分は判断を“任せているつもり”で、
実際には“預け切っていた”。
その重さを、今になって一人で抱えている。
彼は、ふと窓の外を見た。
遠くに見える夜空は、同じはずなのに、
なぜか、ひどく遠く感じられる。
選択は、終わった。
誰かが奪ったわけではない。
誰かに壊されたわけでもない。
自分で選び、
自分で遅れ、
自分で失った。
それが、正式な終わりだった。
そして同時に――
マルグリット・フォン・ルーヴェンの人生が、
本当の意味で“王宮から切り離された瞬間”でもあった。
もう、戻る必要はない。
戻る理由もない。
終わったのは、関係だけだ。
彼女自身は、
静かに、確かに、前へ進み続けている。
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