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第十四話 流れの分岐点
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第十四話 流れの分岐点
王都の大広間では、臨時の貴族会議が開かれていた。
豪奢な装飾も、今はどこか重たい。
「南門修繕費、倉庫補填、橋梁補強……合計で当初予算の一・八倍です」
財務官の声が響く。
「死者は出ておりません。しかし“軽微な事故”が止まりません」
「偶然だろう」
若い伯爵が言い放つ。
「災厄と呼ぶには弱すぎる」
「弱いからこそ厄介なのです」
老侯爵が低く返す。
「民は“滅び”よりも“続く違和感”を恐れる」
視線が王太子アシュレイへ向く。
彼は背筋を伸ばし、堂々と立つ。
「聖女がいる。祈りは機能している。被害は抑えられている」
「抑えられているが、消えてはいない」
宰相の言葉は冷たい。
沈黙。
そのとき、別の声が小さく漏れる。
「……あの侯爵令嬢が去ってからだ」
場が凍る。
「迷信だ」
「しかし、時期は一致している」
アシュレイの拳がわずかに握られる。
「彼女に力などない。ただの穏やかな令嬢だ」
だが、その声にはわずかな揺れがあった。
一方、辺境伯領。
空は高く、雲は薄い。
城下では新たな商隊が到着していた。
「王都経由より早いとはな」
商人が笑う。
「北路の方が安心だ」
家令が私に報告する。
「交易量、さらに増加。商人たちがこちらを拠点にし始めています」
ディルクは窓辺に立つ。
「王都からの流れが変わりつつある」
私は穏やかに答える。
「流れは、居心地の良い方へ向かいますわ」
彼は私を見た。
「君はそれを恐れぬのか」
「恐れる理由がございませんもの」
胸の奥の灯は、今日も安定している。
強くもなく、弱くもない。
ただ、揺るがない。
午後、北境で小競り合いが起きた。
だが敵軍は、補給の遅れで撤退。
「馬が次々と足を滑らせたそうです」
報告に兵たちが首を傾げる。
「昨日まで乾いた道だったのに」
私は空を見上げる。
辺境の空は、ただ静かだ。
夜。
王都では、再び熱病が再発した。
聖女セシリアは祈祷を続ける。
光は放たれる。
だが翌日、別の地区で症状が出る。
王太子は塔の上で空を睨む。
「なぜ止まらない」
答えはない。
辺境では、豊穣の兆しが確定しつつあった。
麦は順調に育ち、事故は減り、商隊は増える。
王都では、小さな不具合が減らない。
誰もまだ、明言しない。
だが空気は知っている。
流れが分かれたのだ。
王都と辺境。
同じ国でありながら、まるで別の天候のように。
私は塔の上で、遠くを見つめる。
あの日、婚約が解かれた瞬間。
何かがほどけた。
そして今。
流れは、完全に分岐し始めている。
まだ破滅ではない。
まだ勝利でもない。
だが、戻らない地点を越えつつあった。
王都の大広間では、臨時の貴族会議が開かれていた。
豪奢な装飾も、今はどこか重たい。
「南門修繕費、倉庫補填、橋梁補強……合計で当初予算の一・八倍です」
財務官の声が響く。
「死者は出ておりません。しかし“軽微な事故”が止まりません」
「偶然だろう」
若い伯爵が言い放つ。
「災厄と呼ぶには弱すぎる」
「弱いからこそ厄介なのです」
老侯爵が低く返す。
「民は“滅び”よりも“続く違和感”を恐れる」
視線が王太子アシュレイへ向く。
彼は背筋を伸ばし、堂々と立つ。
「聖女がいる。祈りは機能している。被害は抑えられている」
「抑えられているが、消えてはいない」
宰相の言葉は冷たい。
沈黙。
そのとき、別の声が小さく漏れる。
「……あの侯爵令嬢が去ってからだ」
場が凍る。
「迷信だ」
「しかし、時期は一致している」
アシュレイの拳がわずかに握られる。
「彼女に力などない。ただの穏やかな令嬢だ」
だが、その声にはわずかな揺れがあった。
一方、辺境伯領。
空は高く、雲は薄い。
城下では新たな商隊が到着していた。
「王都経由より早いとはな」
商人が笑う。
「北路の方が安心だ」
家令が私に報告する。
「交易量、さらに増加。商人たちがこちらを拠点にし始めています」
ディルクは窓辺に立つ。
「王都からの流れが変わりつつある」
私は穏やかに答える。
「流れは、居心地の良い方へ向かいますわ」
彼は私を見た。
「君はそれを恐れぬのか」
「恐れる理由がございませんもの」
胸の奥の灯は、今日も安定している。
強くもなく、弱くもない。
ただ、揺るがない。
午後、北境で小競り合いが起きた。
だが敵軍は、補給の遅れで撤退。
「馬が次々と足を滑らせたそうです」
報告に兵たちが首を傾げる。
「昨日まで乾いた道だったのに」
私は空を見上げる。
辺境の空は、ただ静かだ。
夜。
王都では、再び熱病が再発した。
聖女セシリアは祈祷を続ける。
光は放たれる。
だが翌日、別の地区で症状が出る。
王太子は塔の上で空を睨む。
「なぜ止まらない」
答えはない。
辺境では、豊穣の兆しが確定しつつあった。
麦は順調に育ち、事故は減り、商隊は増える。
王都では、小さな不具合が減らない。
誰もまだ、明言しない。
だが空気は知っている。
流れが分かれたのだ。
王都と辺境。
同じ国でありながら、まるで別の天候のように。
私は塔の上で、遠くを見つめる。
あの日、婚約が解かれた瞬間。
何かがほどけた。
そして今。
流れは、完全に分岐し始めている。
まだ破滅ではない。
まだ勝利でもない。
だが、戻らない地点を越えつつあった。
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