侯爵令嬢の四十日間 ――均衡が国を変えるまで

ふわふわ

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第34話 王太子の孤独

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第34話 王太子の孤独

会談の報せは、王城に静かに戻った。

敵対はない。
対立もない。

だが、それが王太子アシュレイの胸を重くする。

「……彼女は何も要求しなかったのか」

宰相が答える。

「はい。協調のみ」

「王位を望んだわけでも」

「ございません」

沈黙。

彼女は奪おうとしない。
攻めてもいない。

それでも、流れは彼女へ集まる。

玉座は揺れていない。

だが、自分の立つ場所が、中心ではなくなったことを理解している。

「私は……間違えたのか」

誰に向けた問いでもない。

聖女セシリアが静かに言う。

「間違いではありません」

彼女の声は優しい。

「ただ、均衡が崩れただけです」

その言葉が、胸に刺さる。

間違いではない。

だが、結果は残る。

同じ頃、辺境伯領。

会談から戻った私は、塔の上に立つ。

風は変わらず穏やか。
空は澄み、星は安定している。

ディルクが隣に立つ。

「王妃は賢い」

「ええ」

「王太子はどうだ」

私は少し考える。

「孤独でしょうね」

均衡が崩れた原因は、彼の選択。

だが今は、彼一人の責任ではない。

国は大きい。
流れは複雑だ。

それでも彼は、中心を失った王子。

夜。

王城の高塔。

アシュレイは一人、街を見下ろす。

王都は立っている。
灯りもある。
崩壊してはいない。

だが、流れが集まらない。

「……中心とは何だ」

王であることか。
選ばれることか。

それとも、整えることか。

辺境の塔。

私は同じ夜空を見上げる。

胸の灯は変わらない。

私は中心ではない。

ただ、整える支点。

三十四日目。

王都は敵を失い、代わりに孤独を抱えた。

そして王太子は初めて、
“選ぶこと”の重さを理解し始めていた。
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