婚約破棄された芋女ですが、北で砂糖を作ったら王国が甘くなりました

ふわふわ

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第四十話 北のお菓子の国、永遠に

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第四十話 北のお菓子の国、永遠に

 春が来た。

 北の大地は長い冬を越え、白から緑へと色を変えていく。
 けれど、街の中心にそびえる砂糖精製塔だけは、季節を問わず白く輝いていた。

 てんさい畑は、かつてはただの「寒冷地向け根菜畑」に過ぎなかった。
 今では王国随一の財源を生む黄金畑である。

 風に揺れる葉を見つめながら、私はゆっくりと歩く。

「令嬢様、今年の収穫予測は過去最高です」

 執務官が報告する。

「価格は安定。王都の需要も順調に拡大中」

 私は頷く。

 甘味は贅沢品ではなくなった。
 しかし、安売りもしていない。

 価値を落とせば文化は壊れる。

 私は設計者だ。
 甘さも価格も、流通も、湿度も。

 すべては設計する。

 ――婚約破棄された日。

 王都の大広間で言われた言葉。

「芋女に王妃の座は似合わぬ」

 あの日、私は終わったはずだった。

 だが今、王都から来た商人たちが畑を視察し、砂糖工房に並び、氷室を学びに来る。

 芋は笑うだろう。

 土に埋まっていた根菜が、王国を動かしているのだから。

 街へ戻ると、広場には人があふれている。

 子どもたちがパンケーキを手に走り回り、若者は砂糖菓子を片手に笑い合い、年配の夫婦は温かい甘酒をゆっくりと飲んでいる。

 硬い黒パンしかなかった世界。

 三時間かけて泡立てなければならなかった菓子。

 湿気で粉が反応し、失敗続きだった工房。

 それが今はどうだ。

 乾燥した北の空気。

 天然冷蔵庫の気候。

 精製された白砂糖。

 自作の膨張剤。

 すべてがかみ合い、北は“お菓子の国”と呼ばれるようになった。

 王都の貴族ですら、旅行先としてここを選ぶ。

 甘味を食べるために。

 そして私は、王冠ではなく、帳簿と設計図を手にしている。

 広場の中央に、新しい建物が完成していた。

「菓子技術学院」

 若い職人たちが学び、研究し、改良し、次世代の甘味を生み出す場所。

 砂糖は独占しない。

 文化は広げる。

 その代わり、技術と規格は北が握る。

 それが私の“王道”。

 遠くで馬の蹄の音が止まる。

 振り向くと、見覚えのある紋章。

 王家の使者。

 使者は馬から降り、恭しく頭を下げる。

「王太子殿下より、祝辞を」

 私は封書を受け取る。

 そこには短い言葉が綴られていた。

“甘味は国を豊かにする。あなたの選択は正しかった。”

 私は静かに封を閉じる。

 王妃にはならなかった。

 だが、王国を支える柱にはなった。

 それでいい。

 夕暮れ。

 精製塔の窓から光が漏れる。

 広場に灯りがともる。

 北は寒い。

 けれど、甘い。

 子どもが近づいてくる。

「令嬢様! 今日の新作、食べました?」

「まだですわ」

「ふわふわで、すごいんです!」

 私は笑う。

 硬いパンしかなかった世界に、ふわふわがある。

 それだけで、革命だ。

 夜空を見上げる。

 星が澄んでいる。

 湿度は低い。

 粉は安定する。

 明日の仕込みも問題ない。

 婚約破棄から始まった物語。

 絶望から始まった設計。

 王都で不可能と断じられた夢。

 北で可能に変えた。

 私は静かに呟く。

「甘さは、諦めない者の味ですわ」

 遠くで鐘が鳴る。

 北のお菓子の国は、眠らない。

 砂糖は白く輝き続ける。

 そして私は歩き出す。

 王冠よりも軽く、
 未来よりも甘い道へ。

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