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20 空腹
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20 空腹
雨は夜半には弱まったが、地面の冷たさは残っていた。
橋の下で震えながら夜を越えたヴェインは、朝になってもすぐには立ち上がれなかった。
体が重い。
濡れた衣は乾ききらず、肌に貼りついている。
だがそれ以上に強く主張してくるものがあった。
空腹。
昨夜から何も口にしていない。
いや、正確には、王宮を追われてからまともな食事をしていない。
それまでは、どれほど怒りや屈辱があっても、食卓は整えられていた。
今は違う。
腹の奥が鈍く痛む。
胃が縮み、空気を吸い込むたびにきりきりと締めつける。
ヴェインはゆっくり立ち上がる。
足元がふらつく。
視界がわずかに揺れる。
まだ歩ける。
まだ誇りはある。
そう思い込むことで、体を動かす。
市場へ向かう。
朝の露店が並び、焼きたてのパンの匂いが漂っている。
その匂いだけで、唾液が溢れる。
無意識に喉が鳴る。
彼は店先に立つ。
「……パンを」
声がかすれる。
店主は彼を見る。
一瞬の沈黙。
そして、ゆっくりと首を振る。
「売るものはない」
棚には山のように並んでいる。
「金はある」
ポケットから金貨を取り出す。
震える指。
店主は視線を逸らす。
「他を当たれ」
拒絶。
短い言葉。
理由は言わない。
だが分かる。
聖女を追放した男。
破門された者。
関わりたくない。
ヴェインは歯を食いしばる。
別の店へ向かう。
果物屋。
肉屋。
水売り。
どこも同じだった。
視線を逸らされ、断られる。
金は役に立たない。
平民として生きよと言われた。
だが平民は、彼を受け入れない。
腹が鳴る。
音がやけに大きく感じる。
周囲に聞こえたのではないかと、羞恥が込み上げる。
誇りと空腹が、胸の中でぶつかる。
王太子として育った男が、物乞いをするなど。
だが空腹は容赦がない。
足が止まる。
裏路地の奥で、子どもがパンを食べている。
その姿を見た瞬間、視界が暗くなる。
奪えるか。
そんな考えが、一瞬だけ浮かぶ。
すぐに打ち消す。
自分は王族の血を引く者だ。
盗むなど。
だがその血は、何の助けにもならない。
膝が震える。
壁にもたれかかる。
空腹は誇りを削る。
じわじわと。
確実に。
「……なぜだ」
低く呟く。
なぜ自分が。
なぜこんな目に。
自分は国のためを思った。
秩序を守ろうとした。
称賛が王に向くべきだと考えただけだ。
それが、なぜ。
腹がまた鳴る。
言い訳を遮るように。
空腹は理屈を許さない。
彼は歩き出す。
誇りを保ったまま、食を得る方法を探す。
だがその選択肢は、すでにほとんど残されていない。
太陽が高くなる。
体力は削られる。
空腹はさらに深くなる。
誇りと現実の間で揺れながら、ヴェインは知らず知らずのうちに、さらに暗い場所へと足を向けていた。
次に待つのは、誇りをさらに踏みにじる選択だった。
雨は夜半には弱まったが、地面の冷たさは残っていた。
橋の下で震えながら夜を越えたヴェインは、朝になってもすぐには立ち上がれなかった。
体が重い。
濡れた衣は乾ききらず、肌に貼りついている。
だがそれ以上に強く主張してくるものがあった。
空腹。
昨夜から何も口にしていない。
いや、正確には、王宮を追われてからまともな食事をしていない。
それまでは、どれほど怒りや屈辱があっても、食卓は整えられていた。
今は違う。
腹の奥が鈍く痛む。
胃が縮み、空気を吸い込むたびにきりきりと締めつける。
ヴェインはゆっくり立ち上がる。
足元がふらつく。
視界がわずかに揺れる。
まだ歩ける。
まだ誇りはある。
そう思い込むことで、体を動かす。
市場へ向かう。
朝の露店が並び、焼きたてのパンの匂いが漂っている。
その匂いだけで、唾液が溢れる。
無意識に喉が鳴る。
彼は店先に立つ。
「……パンを」
声がかすれる。
店主は彼を見る。
一瞬の沈黙。
そして、ゆっくりと首を振る。
「売るものはない」
棚には山のように並んでいる。
「金はある」
ポケットから金貨を取り出す。
震える指。
店主は視線を逸らす。
「他を当たれ」
拒絶。
短い言葉。
理由は言わない。
だが分かる。
聖女を追放した男。
破門された者。
関わりたくない。
ヴェインは歯を食いしばる。
別の店へ向かう。
果物屋。
肉屋。
水売り。
どこも同じだった。
視線を逸らされ、断られる。
金は役に立たない。
平民として生きよと言われた。
だが平民は、彼を受け入れない。
腹が鳴る。
音がやけに大きく感じる。
周囲に聞こえたのではないかと、羞恥が込み上げる。
誇りと空腹が、胸の中でぶつかる。
王太子として育った男が、物乞いをするなど。
だが空腹は容赦がない。
足が止まる。
裏路地の奥で、子どもがパンを食べている。
その姿を見た瞬間、視界が暗くなる。
奪えるか。
そんな考えが、一瞬だけ浮かぶ。
すぐに打ち消す。
自分は王族の血を引く者だ。
盗むなど。
だがその血は、何の助けにもならない。
膝が震える。
壁にもたれかかる。
空腹は誇りを削る。
じわじわと。
確実に。
「……なぜだ」
低く呟く。
なぜ自分が。
なぜこんな目に。
自分は国のためを思った。
秩序を守ろうとした。
称賛が王に向くべきだと考えただけだ。
それが、なぜ。
腹がまた鳴る。
言い訳を遮るように。
空腹は理屈を許さない。
彼は歩き出す。
誇りを保ったまま、食を得る方法を探す。
だがその選択肢は、すでにほとんど残されていない。
太陽が高くなる。
体力は削られる。
空腹はさらに深くなる。
誇りと現実の間で揺れながら、ヴェインは知らず知らずのうちに、さらに暗い場所へと足を向けていた。
次に待つのは、誇りをさらに踏みにじる選択だった。
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