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21 残飯
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21 残飯
午後の光は強いのに、ヴェインの視界は霞んでいた。
空腹は、もはや鈍い痛みではない。
内側から爪で引っかくような鋭さへと変わっている。
市場の喧騒は遠く感じられた。
焼いた肉の匂い、煮込みの香り、甘い菓子の匂い。
すべてが拷問のように鼻腔を刺激する。
彼は歩く。
だが足取りは重く、背筋は崩れ、かつての威厳は消えている。
人目を避けるように裏路地へ入る。
そこは日の当たらぬ湿った空間。
壁には苔が張り付き、排水溝から悪臭が漂う。
路地の奥に、大きな木箱が並んでいる。
飲食店の裏口だ。
従業員が出入りし、残った食材や食べ残しをそこに放り込んでいる。
ヴェインは立ち止まる。
視線が、木箱に吸い寄せられる。
蓋は半開き。
中にはパンの耳、食べかけの肉片、野菜の屑。
まだ食べられる。
理性が拒む。
誇りが叫ぶ。
王太子だった自分が、残飯を漁るなど。
だが空腹はそれを踏み潰す。
胃が収縮し、目の前が揺れる。
足が勝手に一歩進む。
手が伸びる。
蓋に触れる。
指先が震える。
「……違う」
呟く。
これは一時的なものだ。
ここで屈すれば、すべてを認めることになる。
だが腹が鳴る。
理屈を嘲笑うように。
彼は歯を食いしばり、木箱の中に手を入れた。
ぬめり。
冷たさ。
油の感触。
吐き気が込み上げる。
だが指先に触れたパンの欠片を握り締める。
黒ずんでいるが、腐ってはいない。
口元へ運ぶ。
躊躇。
一瞬のためらい。
それでも、かじる。
硬い。
冷たい。
味はない。
それでも、胃がわずかに安堵する。
涙が滲む。
情けなさか、安堵か、自分でも分からない。
もう一口。
口の端に油がつく。
かつて銀の皿に盛られた料理を前に、好き嫌いを言っていた自分が脳裏をよぎる。
吐き出したくなる。
だが飲み込む。
飲み込まなければ、立っていられない。
足音が近づく。
ヴェインは顔を上げる。
路地の入口に、痩せた男が立っている。
髭は伸び放題、目は濁り、衣は破れている。
浮浪者。
その男はヴェインの手元を見る。
木箱の中。
残飯。
そして、噛みかけのパン。
沈黙。
空気が張り詰める。
ヴェインは思わずパンを握り込む。
守るように。
かつて何千もの兵を指揮するはずだった男が、パン屑を守ろうとしている。
その滑稽さを理解する余裕は、もうない。
浮浪者の目が細まる。
縄張りを荒らされた獣のように。
ヴェインは一歩下がる。
だが空腹と疲労で足がもつれる。
地面に手をつく。
泥が掌に広がる。
パンが落ちる。
浮浪者の視線が鋭くなる。
ヴェインは立ち上がろうとする。
だが力が入らない。
ここが、底ではない。
まだ、さらに落ちる余地がある。
それを、彼はまだ知らない。
午後の光は強いのに、ヴェインの視界は霞んでいた。
空腹は、もはや鈍い痛みではない。
内側から爪で引っかくような鋭さへと変わっている。
市場の喧騒は遠く感じられた。
焼いた肉の匂い、煮込みの香り、甘い菓子の匂い。
すべてが拷問のように鼻腔を刺激する。
彼は歩く。
だが足取りは重く、背筋は崩れ、かつての威厳は消えている。
人目を避けるように裏路地へ入る。
そこは日の当たらぬ湿った空間。
壁には苔が張り付き、排水溝から悪臭が漂う。
路地の奥に、大きな木箱が並んでいる。
飲食店の裏口だ。
従業員が出入りし、残った食材や食べ残しをそこに放り込んでいる。
ヴェインは立ち止まる。
視線が、木箱に吸い寄せられる。
蓋は半開き。
中にはパンの耳、食べかけの肉片、野菜の屑。
まだ食べられる。
理性が拒む。
誇りが叫ぶ。
王太子だった自分が、残飯を漁るなど。
だが空腹はそれを踏み潰す。
胃が収縮し、目の前が揺れる。
足が勝手に一歩進む。
手が伸びる。
蓋に触れる。
指先が震える。
「……違う」
呟く。
これは一時的なものだ。
ここで屈すれば、すべてを認めることになる。
だが腹が鳴る。
理屈を嘲笑うように。
彼は歯を食いしばり、木箱の中に手を入れた。
ぬめり。
冷たさ。
油の感触。
吐き気が込み上げる。
だが指先に触れたパンの欠片を握り締める。
黒ずんでいるが、腐ってはいない。
口元へ運ぶ。
躊躇。
一瞬のためらい。
それでも、かじる。
硬い。
冷たい。
味はない。
それでも、胃がわずかに安堵する。
涙が滲む。
情けなさか、安堵か、自分でも分からない。
もう一口。
口の端に油がつく。
かつて銀の皿に盛られた料理を前に、好き嫌いを言っていた自分が脳裏をよぎる。
吐き出したくなる。
だが飲み込む。
飲み込まなければ、立っていられない。
足音が近づく。
ヴェインは顔を上げる。
路地の入口に、痩せた男が立っている。
髭は伸び放題、目は濁り、衣は破れている。
浮浪者。
その男はヴェインの手元を見る。
木箱の中。
残飯。
そして、噛みかけのパン。
沈黙。
空気が張り詰める。
ヴェインは思わずパンを握り込む。
守るように。
かつて何千もの兵を指揮するはずだった男が、パン屑を守ろうとしている。
その滑稽さを理解する余裕は、もうない。
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縄張りを荒らされた獣のように。
ヴェインは一歩下がる。
だが空腹と疲労で足がもつれる。
地面に手をつく。
泥が掌に広がる。
パンが落ちる。
浮浪者の視線が鋭くなる。
ヴェインは立ち上がろうとする。
だが力が入らない。
ここが、底ではない。
まだ、さらに落ちる余地がある。
それを、彼はまだ知らない。
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