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幼少期編
お母様の仮面の下
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「あ、あのお母様?」
「あははは!…あー…久しぶりにこんなに笑ったわ。」
目に浮かんだ涙を拭いながらお母様は私を正面から見た。うん、凄い爆笑でしたね。驚きすぎて開いた口がふさがらないってこういうことか。
だけど聞きたいことは聞かなければいけない。
「…え?お母様今笑って、え?」
ごめんなさい、もう頭が混乱して言葉になりません。
しかしお母様は天使だった。私を慈愛に満ちた様子で頭を撫でてくれる。本当何が起こってるの?誰か教えてプリーズミー
「ごめんなさいね、いきなり笑ったりして。あまりにもマリーベルが可愛くて。そして、行動が…ふふっ」
「いえ、何というか…お母様でも笑ったりするんだなあと少し驚いて。」
私が驚いたというと、お母様は少し目線を下げた。
「…少し、説明の時間をくれる?」
「勿論です。」
私は即答した。なんかすっごいお母様が可愛い。そんな人を前にしてノーと言える程私は鬼じゃないよ?
まあこれが兄貴だったら即座に殺人だけどね。
頭の中で兄貴をミンチにしていると、お母様はポツリポツリと話し始めた。
「…私が他国の公爵令嬢ということは知っているかしら?」
「はい。このリアナから聞きました。」
追いついたリアナがぺこりと頭を下げる。お母様の目が丸くなった。
「えっ、知ってるの?…ええと今はその問題を置いておいて。私は令嬢らしからぬ事を嗜んでいたの。木登りをしたり釣りをしたり、野山を駆けたり。」
突然の告白ですね。
本当に脳が混乱した。こんなことがあるのかという、驚きしかない。
私は信じられない気持ちでお母様を見た。ちょっと決まりの悪そうな顔をしてる。まあそうだよね。そんなことをカミングアウトするのって少し恥ずかしいよね。
「…私はそんな風に毎日を過ごしていたのだけれど、今の旦那様に見初められてこちらへやってきたの。私も紳士なダリル様を慕ったわ。…あんな素敵な方を好きにならない方がおかしいわ。」
それは同感。お父様の顔面偏差値の高さは異常。
心の中で深く頷きながら続きを待つ。とってもほんわかした表情だ。よっぽど愛しているんだろうな。
しかしお母様は幸せそうな顔から一転、溜息を吐いて嘆かわしいという顔になった。何があった。
「だけどね、私はいざダリル様を前にすると緊張してしまってつい言い方がきつくなってしまうの。傷つける言葉を言わないようにすると、なにも言えなくなってしまう。そんなことを繰り返していると、ついに侍女たちにも当たりが厳しくなってしまって。誰かが言っていたの。奥様は怖いって。もしもダリル様にもそう思われていたら?そんなのは耐えられないわ。」
お母様はそこで息をついた。自嘲の笑みを浮かべて。
「私は誰との関わりを絶つことにした。子供である貴方達にまで。本当、馬鹿だとは思ったわ。だけど、どうしてもそのダリル様とそっくりな目で冷たく見られたらと思うとどうしても怖くて…」
「それは…」
私はそれがツンデレだと思う反面、とっても理解できる節があった。似ていると感じたからだ。ただし、根源は全く違うが。
誰かを傷つけたくない。それによって自分が傷つくこと嫌だ。だから逃げる。そこにあるのは純粋な恐怖だけ。
対して私は醜い打算に塗れた考えだ。こんな高潔な人と私を重ねるのは間違っている。
だけど、この思いを知っているのは私とリアナなだけの以上、どうにかしてこの人を助けないと。悪い方向へ行かない今、矯正…っていういい方は傲慢だな。言うならば、お母様の誤解をとかないと。
全ては私が傷つかない為に。
「…お母様、私はお母様がお父様を慕っているのは気づいております。」
「そう、なの?」
心底驚いたという表情だ。それも無理はない。隠そうとしていたみたいだから。
だけど都合がいい。これで解決をしたら私の株が上がる。それで手助けをしてもらえる可能性が高くなる。
私はにっこりと年相応に笑う。
「だからお母様、少しずつお父様の前で素直になる練習をしましょう」
「私だって頑張ろうとしたわ。でもね、無理なの。どうしても頭が真っ白になって何か口走っているの。本当に、ダメだの…」
私は笑みを崩さない。ここで失敗するとお母様は誰にも心を開かなくなって精神上の孤独死になってしまう。それは
辛い。
「お母様、私がついてます。隣にいますから、何か言いかけても私が止めます。大丈夫です、何を言いたいのか分かりやすいですから」
冗談を混ぜて言うと、お母様の表情が柔らかくなる。多分、安心したんだ。一人じゃない、自分を受け入れてくれる存在がいることに。
「…マリーベル、いつから貴方はそんなに大人になったんでしょうね。少し前まではこの腕で抱いていたというのに」
「お母様、私はもう六歳ですよ」
「そうね。あと九年したら成人で学園に入学。なんて早いことかしら」
遠い目になっているのはその時を思い出しているからか。いや、違うな。私を見ているから未来を妄想しているのか。ごめんね、“マリーベル”は…いや、私は期待に応えられなくて。少なくそも私はさっさと退散するつもりだよ。
「…ところでお母様、いつお父様に会いに行きます?」
「え、もう行くの?でも、特に用は無いというのも申し訳ないわ」
「いえ、ありますよ?私が個人的に相談したいことが」
「マリーベルが?私でよければ相談に乗るけれど」
ごめん。その好意は嬉しいんだけど、婚約破棄の打診だからお母様が口を出せる…いや、いいね。
「…実は、私今回の婚約を嬉しく思っていないんですよ。」
さも悲しいというように少し顔を俯けると、お母様の焦った声がする。
「え?何か不満でもあるの?」
「はい。…あの、怒らないでくださいよ?私……平民になりたいんです」
「………え?」
お母様が呆気にとられた表情になった。そうだよね、とっても恵まれた環境にいる私が平民になりたいだなんておかしいよね。
「だめ、ですか?」
上目遣いで見上げると、お母様は怯んだように狼狽える。
「で、でもマリーベルが庶民だなんて、不相応だわ。それに、なる意味もないじゃない」
「それでも私はなりたいんです。だからルイとの婚約を破棄したいのですが…お母様、手伝ってくれませんか?お願いです」
「うっ…」
必殺!幼女の潤んだ瞳のお願い!お母様には効果抜群だ!
「……出来る限りの手伝いはするわ。マリーベルのお願いなら。」
「ありがとう、お母様!」
「………!!」
抱きつくと強く抱き返してくれる。
いや、ほんっと良かったぁぁぁあ。これで一歩進めた!
「じゃあ、お父様のところに行きませんか?」
「ええ」
いざ、出陣だ!
***
「お父様!ルイとの婚約を破棄してくだされ!」
お父様の書斎に開口一番で言う。お父様の目が点になった。何に対してかは分からないが、多分お母様は入ってる。目が私の後ろへと移った。
「…エリィ」
「……」
あっダメだ。固まってる。うん、本当に好きなんだね。
「……ほらお母様、挨拶だよ。」
「そ、そうね。…ごほん、ダリル様、ご機嫌麗しゅう。」
「エリィ…!…あぁ、エリィも美しいよ。」
「そっそんんんな!!!」
あらら、真っ赤になっちゃった。だけど、取り敢えずは挨拶はできることを確認できた。これ以上は無理そうだけど。
「で、マリー。イグルイ殿下との婚約破棄、だったかな?」
「はい。私はこの婚約を望んでいません。」
「だが政略だってあるんだ。そう簡単には出来ない。」
心の中で舌打ちをする。ルイ一人の感情じゃない。政略もあるからこそ、成立しているのだ。そのことをすっかり忘れていた。
それに私たちの国はあっちの国より弱い。そう簡単に破棄できるわけがない。
何か決定打になるものでもないと私はこの婚約からは逃げられないんだ。いくら私に甘いお父様でも許容はできない。そして、貴族である私が自由に結婚など出来るわけがないのだ。
――準備をしなくては。
「あははは!…あー…久しぶりにこんなに笑ったわ。」
目に浮かんだ涙を拭いながらお母様は私を正面から見た。うん、凄い爆笑でしたね。驚きすぎて開いた口がふさがらないってこういうことか。
だけど聞きたいことは聞かなければいけない。
「…え?お母様今笑って、え?」
ごめんなさい、もう頭が混乱して言葉になりません。
しかしお母様は天使だった。私を慈愛に満ちた様子で頭を撫でてくれる。本当何が起こってるの?誰か教えてプリーズミー
「ごめんなさいね、いきなり笑ったりして。あまりにもマリーベルが可愛くて。そして、行動が…ふふっ」
「いえ、何というか…お母様でも笑ったりするんだなあと少し驚いて。」
私が驚いたというと、お母様は少し目線を下げた。
「…少し、説明の時間をくれる?」
「勿論です。」
私は即答した。なんかすっごいお母様が可愛い。そんな人を前にしてノーと言える程私は鬼じゃないよ?
まあこれが兄貴だったら即座に殺人だけどね。
頭の中で兄貴をミンチにしていると、お母様はポツリポツリと話し始めた。
「…私が他国の公爵令嬢ということは知っているかしら?」
「はい。このリアナから聞きました。」
追いついたリアナがぺこりと頭を下げる。お母様の目が丸くなった。
「えっ、知ってるの?…ええと今はその問題を置いておいて。私は令嬢らしからぬ事を嗜んでいたの。木登りをしたり釣りをしたり、野山を駆けたり。」
突然の告白ですね。
本当に脳が混乱した。こんなことがあるのかという、驚きしかない。
私は信じられない気持ちでお母様を見た。ちょっと決まりの悪そうな顔をしてる。まあそうだよね。そんなことをカミングアウトするのって少し恥ずかしいよね。
「…私はそんな風に毎日を過ごしていたのだけれど、今の旦那様に見初められてこちらへやってきたの。私も紳士なダリル様を慕ったわ。…あんな素敵な方を好きにならない方がおかしいわ。」
それは同感。お父様の顔面偏差値の高さは異常。
心の中で深く頷きながら続きを待つ。とってもほんわかした表情だ。よっぽど愛しているんだろうな。
しかしお母様は幸せそうな顔から一転、溜息を吐いて嘆かわしいという顔になった。何があった。
「だけどね、私はいざダリル様を前にすると緊張してしまってつい言い方がきつくなってしまうの。傷つける言葉を言わないようにすると、なにも言えなくなってしまう。そんなことを繰り返していると、ついに侍女たちにも当たりが厳しくなってしまって。誰かが言っていたの。奥様は怖いって。もしもダリル様にもそう思われていたら?そんなのは耐えられないわ。」
お母様はそこで息をついた。自嘲の笑みを浮かべて。
「私は誰との関わりを絶つことにした。子供である貴方達にまで。本当、馬鹿だとは思ったわ。だけど、どうしてもそのダリル様とそっくりな目で冷たく見られたらと思うとどうしても怖くて…」
「それは…」
私はそれがツンデレだと思う反面、とっても理解できる節があった。似ていると感じたからだ。ただし、根源は全く違うが。
誰かを傷つけたくない。それによって自分が傷つくこと嫌だ。だから逃げる。そこにあるのは純粋な恐怖だけ。
対して私は醜い打算に塗れた考えだ。こんな高潔な人と私を重ねるのは間違っている。
だけど、この思いを知っているのは私とリアナなだけの以上、どうにかしてこの人を助けないと。悪い方向へ行かない今、矯正…っていういい方は傲慢だな。言うならば、お母様の誤解をとかないと。
全ては私が傷つかない為に。
「…お母様、私はお母様がお父様を慕っているのは気づいております。」
「そう、なの?」
心底驚いたという表情だ。それも無理はない。隠そうとしていたみたいだから。
だけど都合がいい。これで解決をしたら私の株が上がる。それで手助けをしてもらえる可能性が高くなる。
私はにっこりと年相応に笑う。
「だからお母様、少しずつお父様の前で素直になる練習をしましょう」
「私だって頑張ろうとしたわ。でもね、無理なの。どうしても頭が真っ白になって何か口走っているの。本当に、ダメだの…」
私は笑みを崩さない。ここで失敗するとお母様は誰にも心を開かなくなって精神上の孤独死になってしまう。それは
辛い。
「お母様、私がついてます。隣にいますから、何か言いかけても私が止めます。大丈夫です、何を言いたいのか分かりやすいですから」
冗談を混ぜて言うと、お母様の表情が柔らかくなる。多分、安心したんだ。一人じゃない、自分を受け入れてくれる存在がいることに。
「…マリーベル、いつから貴方はそんなに大人になったんでしょうね。少し前まではこの腕で抱いていたというのに」
「お母様、私はもう六歳ですよ」
「そうね。あと九年したら成人で学園に入学。なんて早いことかしら」
遠い目になっているのはその時を思い出しているからか。いや、違うな。私を見ているから未来を妄想しているのか。ごめんね、“マリーベル”は…いや、私は期待に応えられなくて。少なくそも私はさっさと退散するつもりだよ。
「…ところでお母様、いつお父様に会いに行きます?」
「え、もう行くの?でも、特に用は無いというのも申し訳ないわ」
「いえ、ありますよ?私が個人的に相談したいことが」
「マリーベルが?私でよければ相談に乗るけれど」
ごめん。その好意は嬉しいんだけど、婚約破棄の打診だからお母様が口を出せる…いや、いいね。
「…実は、私今回の婚約を嬉しく思っていないんですよ。」
さも悲しいというように少し顔を俯けると、お母様の焦った声がする。
「え?何か不満でもあるの?」
「はい。…あの、怒らないでくださいよ?私……平民になりたいんです」
「………え?」
お母様が呆気にとられた表情になった。そうだよね、とっても恵まれた環境にいる私が平民になりたいだなんておかしいよね。
「だめ、ですか?」
上目遣いで見上げると、お母様は怯んだように狼狽える。
「で、でもマリーベルが庶民だなんて、不相応だわ。それに、なる意味もないじゃない」
「それでも私はなりたいんです。だからルイとの婚約を破棄したいのですが…お母様、手伝ってくれませんか?お願いです」
「うっ…」
必殺!幼女の潤んだ瞳のお願い!お母様には効果抜群だ!
「……出来る限りの手伝いはするわ。マリーベルのお願いなら。」
「ありがとう、お母様!」
「………!!」
抱きつくと強く抱き返してくれる。
いや、ほんっと良かったぁぁぁあ。これで一歩進めた!
「じゃあ、お父様のところに行きませんか?」
「ええ」
いざ、出陣だ!
***
「お父様!ルイとの婚約を破棄してくだされ!」
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「…エリィ」
「……」
あっダメだ。固まってる。うん、本当に好きなんだね。
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「エリィ…!…あぁ、エリィも美しいよ。」
「そっそんんんな!!!」
あらら、真っ赤になっちゃった。だけど、取り敢えずは挨拶はできることを確認できた。これ以上は無理そうだけど。
「で、マリー。イグルイ殿下との婚約破棄、だったかな?」
「はい。私はこの婚約を望んでいません。」
「だが政略だってあるんだ。そう簡単には出来ない。」
心の中で舌打ちをする。ルイ一人の感情じゃない。政略もあるからこそ、成立しているのだ。そのことをすっかり忘れていた。
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