悪役令嬢に転生した“元”狂人は普通に暮らしたい

幸見大福

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幼少期編

闇に潜む者

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私の言葉に固まっていた暗殺者たち。少年が訳のわからないと首を振る。



「…何を言っているんだ?」

「文字通り。こんなところ、抜け出さない?協力するよ」



少年は不快気な顔をした。



「ここを出ていけば住む場所もなく、食べるものもない。どこかで野垂れ地ぬだけだ。暗殺者に何を言ってる」



そう、だよね。

私が口にした提案は所詮夢物語。他に行くあてがないなど分かりきっていたこと。

そう頭では分かってる。分かっているんだ。だけど…何故か放って置けない。それは私に似ているからだろう。生きる意味を見出せない、そんなところが。



既にこの少年は人殺しをしている筈だ。だから目が道・具・の目をしている。こんな幼い少年が?まだまだ未来のあるような子が?



それは許せない。他の誰もが笑っても、私はせめてこの少年を助けたい。後で後悔する姿なんて見たくない。普通を知って絶望させたくない。そんなの、私だけで十分だ。私と同じ末路を辿らせるなどあってたまるものか。



「………貴方は何でここにいるの?」



尋ねると、馬鹿にされたような視線を向けられる。



「令嬢さんには理解出来ないだろうが、オレは捨てられたところを拾ってもらった。そんな恩もあるところを勝手に抜けられるか。」

「それに“ギィ”は一番の稼ぎだ。」

「俺らの組織を継続する為にも必要なものだからいなくなられると困る。」



口々に言う彼ら。その言葉の中にある違和感は、ニュアンスの違い。私は微かに眉を顰めた。

この少年を“物”としか見ていないことに対しての苛立ち。暗殺者としては当たり前の考えでも今の私には不快にしか感じない。そして、肝心の少年…ギィ、と言うのだろうか。ギィが何の疑問を抱いていないことへの悲しみ。



「……貴方、ギィっていうの?」

「仮の名前だが」



仮、ね。本名は…多分分からないだろう。幼い頃に拾われたから。しかし名前がないとなると素性を調べることは不可能だ。身元特定は諦めよう。



「取り敢えず、抜ける気は無いのかな。」

「俺は死ぬまで暗殺者。これは紫音シノンに拾われた時に決まった運命だ。」

「その運命変えようよ」

「は?」



呆けたように見てくるギィに私は微笑む。運命?そんなのはない。ただ本人が変えるだけの覚悟がないだけだ。

…私には出来るだけの理性がなかったけどね。



「……ギィ、ちょっと二人だけで話しましょう?」



そう言って私たちは一つの部屋を貸してもらった。リーダーの『私が暴れる前に』という打算込みだ。とてもありがたいことです。



***



扉を閉めると、声が投げかけられる。



「…おい、なんでそんなオレに構うんだよ。」

「うん?まあなんでも良いじゃん。ただのお節介だよ」

「だからってオレはここの道具だ。勝手に持ち出して良いものではない。迷惑だ」



『迷惑だ』



その言葉に無意識に唇を噛む。自分がいらないと言うようで嫌な言葉だ、本当に。

だがここで止まってはられない。自分に似たようた境遇の人がいると助けたくなる。本当にその通りだ。どうにかしてこの少年に感情を持たせて人生を生きて欲しい。

深呼吸をし、真面目に向かい合う。



「…貴方は自分の感情は分かる?」



問いかけると、首を傾げられる。



「いいや。道具は感情を持たない。当たり前だろう?」



道具。



また出てきた。そんなに自分を否定するのか?自分の存在を否定して何が楽しいのだろうか?何も思わないと言うのなら、それは感情が死んだ証だ。



内心では思いっきり顔を歪めながらも表情には出さない。だが呟いてしまう。私と重ねてしまうが故に。



「…生きていることを実感したくないの?自分は存在しているんだってわかって欲しくないの?」



この言葉に、微かだがギィの目に光が灯った。思わず目を見張るが、その希望は気のせいだと思うぐらい一瞬で消えてしまった。



「……オレは、ここにいるものだ。君がいくら欲しがっても、それは盗み。それに貴族なら言えばなんでも手入るだろう」



少しの間を空けてギィは小さすぎる声で言った。それは自分に言い聞かせているのか。捨てられた過去があるから、助けてくれた紫音シノンを手放したくないのか。

多分どちらもだ。人形は感情を失っても愛は求める。だが感情がないということは与えられなかったということ。そうすると愛に貪欲になる。最終的には己の身を滅ぼしてまで。…これは実体験だ。



だから私はギィが言いたいことが分かる。手を差し伸べてくれた組織と私。どちらを優先するかなんて考えることもない。





はずだった。





だがギィは予想外にも独り言に反応を見せた。つまり、『生きたい』という思いは少なからずあるのだ。だが諦めているんだろう。自分は、そんな価値のあるものではないと。そんなものはもう幻だと。



「……オレは少なくともここで生涯を終えたいんだ。愛をくれた祖母の組織で」

「…そう。じゃあ私は帰るね」



変わらない決意に私は扉を開ける。ギィが驚いたように見てきた。



「あっさり引くのか」



私は笑った。引く?ここまで頑張ったのに?



「そんなわけ無いじゃん。今日は、帰るだけ。そろそろ心配されるしね」

「……」



とっても複雑そうな顔をされた。あれだな、来るなって思ったんだな。残念ながら、私は毎日きてやるからな。



ニヤリと言う笑みに変えると、暗器を投げつけられる。喧嘩っ早いな。まあ、腕は…いいのかな?正直、リーダーよりも強いと思わせる速さと正確さ。切っ先は私の肩だ。多分、殺すのは不味いと思ったんだろう。



もしかしたら依頼以外の人物は殺さないとか自分の中にあるのかな?たまにいる。自分なりのルールを持つ人。違うとは思うけど。



「…ま、私には敵わないけど。」



世界最強とはいかないけど裏世界の上位クラスの暗殺ギルドに入っていた私。そしてこの身体の身体能力と魔法が存在する強化。戦力差は圧倒的だ。

怪我はしたくないので、さっと部屋を出る。

外にはリーダーたちが立っていた。



「…会話、聞いてなかったよね?」

「ああ。部屋は全て防音になっているからな。で、どうだったんだ?どうせ無理だろうけど」

「……」



ニヤニヤしている顔に私は僅かな殺意を覚え、なにも答えずに去った。理由は…その表情が確信犯に見えたからだ。ギィを道具にするつもりで育てたと言う、暗殺者あるあるの下心で。



ギルドから出て、私は息を吐く。



「…はぁ。結局収穫は無し、か」



でもでも、今日は初日だ!時間なら有限だけどたっぷりある!



「取り敢えずは…将来のために顔見知りをつくって、服でも買っておくか」



銀貨は数枚持ってきている。庶民の服なら余裕で買える。

さて、と気合を入れて足を出した時だった。



「……っ!」



殺気を感じて足を止める。冷や汗が頬をつたり、無意識にワンピースを握りしめる。

この殺意は私個人に向けてではないのだろう。一気に温度が氷河点を下回ったような錯覚までしてしまう。



目だけで見回すと、気絶している人々。きっと、この空気に耐えきれなくなったのだろう。耐性の高い私だから意識を保っていられる。



こんな風に考えているが、私はナイフ一つさえ手に取っていない。

頭は戦闘態勢にはいれと言っているのに、身体は言う事を聞かないのだ。ただただ震えることしかできない。

これは…



「……無差別に撒き散らす、殺意のオーラ。つまり……ギーア!?」



刹那、私の横をを一つの風が通り抜けた。

人の気配がするが、うまく身体が動かせない。久しぶりに感じるこの感情。それは、本当の恐怖だ。死を感じる、死神がいるようなそんな恐怖。



これだけの殺意をばら撒くのはおそらくギーアのみ。そして、その予想は当たりだった。



――俺のことを知ってるなんてやるね、公爵令嬢さん



囁きは私の耳に届き、頰がひくりと引き攣った。ギーアは興味を持った相手は基本的に自分のものにしようとする。それが独占、強欲の象徴のギーアなのだから。



で、今私はなんて言われた?“やるね”って。自惚れている訳ではない。

確実に、“マリーベル”という存在を知られてしまった。僅かだが、関心を引いてしまったかも、しれない。

……や、やらかしたーー!?
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