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五.マヨヒガ
五.マヨヒガ
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夏休みも後半にさしかかっていた。
僕たちは宿題のことも忘れて、毎日毎日、山で遊び回った。
同じ山なんだけれど、毎日毎日、どこか少しずつ違っていた。それは、山に響く鳥の声であったり、虫の鳴き声であったり、風にそよぐ木の枝の揺れ方であったり……だから、僕にとって、毎日が違う発見の連続で。僕は遠野で過ごす夏休みが楽しくて仕方なかった。
そんなある日……お盆ももうすぐそこにまで迫っていた日のこと。
「颯。今日は山、いつもより上まで登って見ない?」
滋くんが悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。
「あ、行ってみたい。何があるんだろう?」
「それを確かめるために行くんだって」
僕もワクワクした。いつも遊んでいる山……さらにその上には、何があるんだろう? また、これまでにない体験をすることができることに胸が高鳴った。
「おーい、早く!」
「分かってる、分かってる。ちょっと、待って」
生まれながらの遠野っ子の滋くんに比べると、僕はやっぱり山を登るのが遅くって。はぁはぁ言いながら、登っていた。
けれども、その山の空気はきれいで美味しくて……このまま遠野に住み続けていたら、山登りもすぐに滋くんにも追いつきそうだと思っていた。
「結構、登ったね……あれ、滋くん。どうしたの?」
滋くんは不思議そうな顔で、ぼんやりと前を指さした。
「こんな所に、あんな大きな家……誰の家だろう?」
「えっ……あ、本当だ!」
そう。山の奥だというのに、立派な黒い門の家があったのだ。僕たちはとっても興味ひかれて、その門をくぐってみた。
「おじゃましまーす」
「誰か、いませんか?」
家には人の気配がなくて、その代わり、庭にたくさんの放し飼いされたニワトリたちが走り回っていた。
「うわぁ、すごい。こんなにたくさんのニワトリ……」
「花も大きくて、きれいだぜ」
その庭には大きな紅白の花が咲いていて……僕たちはまるで、夢の中にでもいるような感覚になった。
その時。
「モゥー、モゥー」
家の裏手から、牛の声が聞こえてきたのでそちらに回ってみた。
「わぁ、こんなにたくさん、牛がいる家があるなんて」
「馬もいるぜ、馬も」
飼われている、たくさんの牛や馬……それはこの土地、遠野でも今まで見たことのない光景だった。
「本当に、誰の家なんだろうな?」
「きっと、よっぽどの大金持ちなんじゃないかな」
僕たちはそんなことを言いながら、玄関へ回った。
「ちょっとだけ、入ってみようぜ」
「そうだね、ちょっとだけ」
悪いとは思いながらも、僕たちはつい、家の中に入ってみた。
すると、立派なお椀がたくさん用意されている部屋や火鉢の上の釜でお湯がわかされている部屋なんかがあった。
「やっぱり、人が住んでいて、今ちょっと出ているだけなんだよ。戻ってきたら怒られるだろうし、出た方がいいよ」
「あぁ、そうだな」
僕たちは足早にその家を出た。
その日はもう、夕陽が出かかっていて……僕たちはその不思議な家のことを夢見心地に感じながらも自分達の家に帰った。
明くる朝のこと。
後半に差し掛かった夏休み、今日はどこに行けるのか楽しみに心躍らせていた時だった。
「あれ……」
庭を見ると、一羽のニワトリが元気に土を掘り、ミミズをほじくっていたのだ。
「お前、確か、昨日の家の……」
そのニワトリは、とっても人なつこく、近づくと喜んで僕の方へ寄って来てくれた。
「颯の家にもか。実は、俺の家にも……」
どうやら、滋くんの家にもニワトリが一羽、やって来たみたいだった。
「あの家に、返しに行こうよ」
「あぁ、そうだな」
僕たちはニワトリを持って山を登り、あの不思議な家に行こうとした。
けれども……どういうわけか、その家は見つからなかったんだ。
おじいちゃんにその不思議な家のことを話してみた。
「その家は、『マヨヒガ』じゃな」
「マヨヒガ?」
おじいちゃんはにっこりと笑った。
「それは、山の中を迷って訪れた者に富を与えるために出る家じゃ。お前達は家のものを持ち帰ったりせんかったから、家のニワトリの方から、お前達のもとに来てくれたんじゃろう」
「ふーん」
僕はやっぱり不思議な気持ちで、庭に米粒をまいた。ニワトリは美味しそうにその米粒をつついていた。
その次の日の朝からだった。
「わぁ、今日もだ」
僕は目覚めてすぐに幸せな気持ちになった。
僕とおじいちゃんが庭に作った小屋の中には、産みたての新鮮な卵があった。ニワトリが毎日、卵を産んでくれるようになったのだ。
だから、僕は毎朝、美味しくて新鮮な卵かけごはんを食べることができるようになったのだった。
僕たちは宿題のことも忘れて、毎日毎日、山で遊び回った。
同じ山なんだけれど、毎日毎日、どこか少しずつ違っていた。それは、山に響く鳥の声であったり、虫の鳴き声であったり、風にそよぐ木の枝の揺れ方であったり……だから、僕にとって、毎日が違う発見の連続で。僕は遠野で過ごす夏休みが楽しくて仕方なかった。
そんなある日……お盆ももうすぐそこにまで迫っていた日のこと。
「颯。今日は山、いつもより上まで登って見ない?」
滋くんが悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。
「あ、行ってみたい。何があるんだろう?」
「それを確かめるために行くんだって」
僕もワクワクした。いつも遊んでいる山……さらにその上には、何があるんだろう? また、これまでにない体験をすることができることに胸が高鳴った。
「おーい、早く!」
「分かってる、分かってる。ちょっと、待って」
生まれながらの遠野っ子の滋くんに比べると、僕はやっぱり山を登るのが遅くって。はぁはぁ言いながら、登っていた。
けれども、その山の空気はきれいで美味しくて……このまま遠野に住み続けていたら、山登りもすぐに滋くんにも追いつきそうだと思っていた。
「結構、登ったね……あれ、滋くん。どうしたの?」
滋くんは不思議そうな顔で、ぼんやりと前を指さした。
「こんな所に、あんな大きな家……誰の家だろう?」
「えっ……あ、本当だ!」
そう。山の奥だというのに、立派な黒い門の家があったのだ。僕たちはとっても興味ひかれて、その門をくぐってみた。
「おじゃましまーす」
「誰か、いませんか?」
家には人の気配がなくて、その代わり、庭にたくさんの放し飼いされたニワトリたちが走り回っていた。
「うわぁ、すごい。こんなにたくさんのニワトリ……」
「花も大きくて、きれいだぜ」
その庭には大きな紅白の花が咲いていて……僕たちはまるで、夢の中にでもいるような感覚になった。
その時。
「モゥー、モゥー」
家の裏手から、牛の声が聞こえてきたのでそちらに回ってみた。
「わぁ、こんなにたくさん、牛がいる家があるなんて」
「馬もいるぜ、馬も」
飼われている、たくさんの牛や馬……それはこの土地、遠野でも今まで見たことのない光景だった。
「本当に、誰の家なんだろうな?」
「きっと、よっぽどの大金持ちなんじゃないかな」
僕たちはそんなことを言いながら、玄関へ回った。
「ちょっとだけ、入ってみようぜ」
「そうだね、ちょっとだけ」
悪いとは思いながらも、僕たちはつい、家の中に入ってみた。
すると、立派なお椀がたくさん用意されている部屋や火鉢の上の釜でお湯がわかされている部屋なんかがあった。
「やっぱり、人が住んでいて、今ちょっと出ているだけなんだよ。戻ってきたら怒られるだろうし、出た方がいいよ」
「あぁ、そうだな」
僕たちは足早にその家を出た。
その日はもう、夕陽が出かかっていて……僕たちはその不思議な家のことを夢見心地に感じながらも自分達の家に帰った。
明くる朝のこと。
後半に差し掛かった夏休み、今日はどこに行けるのか楽しみに心躍らせていた時だった。
「あれ……」
庭を見ると、一羽のニワトリが元気に土を掘り、ミミズをほじくっていたのだ。
「お前、確か、昨日の家の……」
そのニワトリは、とっても人なつこく、近づくと喜んで僕の方へ寄って来てくれた。
「颯の家にもか。実は、俺の家にも……」
どうやら、滋くんの家にもニワトリが一羽、やって来たみたいだった。
「あの家に、返しに行こうよ」
「あぁ、そうだな」
僕たちはニワトリを持って山を登り、あの不思議な家に行こうとした。
けれども……どういうわけか、その家は見つからなかったんだ。
おじいちゃんにその不思議な家のことを話してみた。
「その家は、『マヨヒガ』じゃな」
「マヨヒガ?」
おじいちゃんはにっこりと笑った。
「それは、山の中を迷って訪れた者に富を与えるために出る家じゃ。お前達は家のものを持ち帰ったりせんかったから、家のニワトリの方から、お前達のもとに来てくれたんじゃろう」
「ふーん」
僕はやっぱり不思議な気持ちで、庭に米粒をまいた。ニワトリは美味しそうにその米粒をつついていた。
その次の日の朝からだった。
「わぁ、今日もだ」
僕は目覚めてすぐに幸せな気持ちになった。
僕とおじいちゃんが庭に作った小屋の中には、産みたての新鮮な卵があった。ニワトリが毎日、卵を産んでくれるようになったのだ。
だから、僕は毎朝、美味しくて新鮮な卵かけごはんを食べることができるようになったのだった。
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