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チューリップの朝
チューリップの朝
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いつもとはちがう朝。やさしくのぼったお日様が、やわらかくぼくに光をてらしてくれて、ポカポカとあたたかい。白いひらひらとした虫が、ぼくの周りを飛んでいる。
「わぁ、きれいなチューリップさん。おはよう! 昨日までは咲いてなかったわよね。これから、よろしくね」
虫に話しかけられて、ぼくの名前は『チューリップ』っていうんだと分かった。
「うん。えっと……あなたのお名前は?」
「私は、シロ。ちょうちょのシロよ」
「そっか、シロ。こちらこそ、よろしくね」
にっこりと笑うと、シロはぼくの周りをひらひらとおどってくれた。
地面の上って、こんなにあたたかくて明るいんだ。暗くて冷たかった土の中とはちがうんだ。
ぼくは、とてもうれしかった。
お日様と楽しくにらめっこしていた時だった。
「わぁあ、かわいいチューリップ」
一人の女の子が、ぼくの前でしゃがんだ。目がキラキラとかがやいていて、まぶしい。
「あ、本当だ。はるちゃんが毎日お水を上げたおかげだよ」
「うん、ママ。本当にお花が咲くんだね。すごぉい」
女の子のママは、にっこりと笑った。
「そう。チューリップさんにとってのお水は、はるちゃんにとってのハンバーグみたいな ものなの。お水を上げたら、チューリップさんはもっともっと元気になるのよ」
「うん!」
女の子は、お日様のように笑った。
「チューリップさん、もっと大きく、もっと元気になぁれ」
女の子がジョロでぼくにお水をくれる。おいしいおいしいお水。
ぼくはとてもうれしかった。今まで知らなかったけれど、このはるちゃんっていう女の子が、ぼくにお水をくれてたんだ。
「はるちゃん、ありがとう」
にっこり笑って言うと、はるちゃんはぼくを見てまた目をかがやかせた。
「ねぇ、ママ。チューリップさんが笑ったよ」
すると、はるちゃんのママは、少し目を丸くした。
「あら、笑ったの?」
「うん! にっこり笑ってありがとうって」
「そうなんだ」
ママは、やさしく目を細めた。
「はるちゃんは、ずっとチューリップさんにお水を上げて、とってもやさしいから、笑ったのが分かるんだね」
「うん! はる、チューリップさん、だぁいすき!」
そんなはるちゃんを見て、ぼくもとってもあたたかくなった。
それから毎日、ぼくは朝が来るのが楽しみだった。
毎日、ぼくの周りをひらひらと飛んでおどってくれるシロ。毎日、ぼくにやさしく話しかけて、お水をくれるはるちゃん。
「チューリップさん。今日も、はるちゃんが来るわよ」
お家の方から飛んできたシロが、今日もぼくに教えてくれた。
「チューリップさん、はるちゃんのことが好きなんだね。だって、はるちゃんが来ると、あなた、とってもかがやいてきれいになるんだもの」
シロはそう言って幸せそうにひらひらとおどるんだ。
「ねぇ、チューリップさん。今日もいいお天気だね」
はるちゃんが来てくれると、ぼくの心はポカポカとあたたかくなった。
「ちょうちょさんも、こんな日は元気いっぱい。はるもね、うれしい」
いつもそう言って、ぼくにおいしいお水をくれる。
ぼくはそんな幸せな毎日がずっと続いていくんだと思っていた。
お日様の光が強くなってきた。それまではあたたかかったお日様がギラギラとぼくをあつくするようになるにつれて、シロは元気がなくなっていった。そして、ぼくも……何だか、前みたいにきれいにかがやくことができなくなっていった。
そんな、ある日の朝のこと。
「ねぇ、シロ。大丈夫?」
ぼくが話しかけると、シロは力なくぼくにとまった。
「チューリップさん。今日で、お別れよ」
「え……お別れ?」
とつぜんのことにおどろくぼくに、シロは言った。
「私、向こうの菜の花畑に行って、たまごをうむの。そして、ここにはもう……帰って来れないわ」
「え、うそ……どうして?」
「私は、いなくなってしまうから」
「そんな……いなくなるなんて」
「でもね、菜の花畑でうんだたまごからは、私の子供達がたくさん生まれて元気に育つの。だから、私、いなくなったとしても……さびしくないのよ」
そう言ったシロはとてもつらそうだったけど、今までで一番強く見えて、ぼくは「行かないで」と言うことができなかった。
「チューリップさん、さようなら。私達、ずっと、友達だよ」
シロはそう言って菜の花畑へ飛んで行った。
「あれ、チューリップさん。どうしたの?」
今日もいつものようにぼくにお水をくれるはるちゃんが、首をかしげた。
「シロが……シロとさようならをしたんだ」
ぼくの言うことは、はるちゃんには聞こえない。でも、はるちゃんは手の平でそっとぼくをつつんでくれた。
「チューリップさん、悲しまないで。きっと、いつか……会えるから」
はるちゃんの手のあたたかさが、冷たくなりそうになっていたぼくの心を、またあたたかくしてくれた。
次の朝。
ぼくは目を覚ますことができなかった。閉じた目を開くことが出来ず、ずっとねむることになった。でも……はるちゃんが流したあたたかいしずくが、土の中にねむっていたぼくの心に届いて。ねむっていながらも、ぼくの心はポカポカとあたたかくなったんだ。
ぼくはずっとねむった。冷たく暗い、土の中で。地面の上はどうなっていたのか、全然分からなかった。
でも、ぼくの心は冷たくも、暗くもならなかった。はるちゃんが最後に落としたあのしずくがぼくの心をポカポカとあたためて、ずっと夢を見ていた。
ぼくの周りを楽しそうに、ひらひらと飛ぶシロの子供達。ぼくににっこりと笑う、少しお姉さんになったはるちゃん。あたたかくて幸せな春のひざし……。
*
今日は何だか、いつもとちがう朝。やわらかいひざしがそっと照らして、ぼくはゆっくりと目を開けた。
キラキラときれいな金色にかがやいているお日様の下。たくさんの白いちょうちょがぼくの周りを飛んでいた。
「あれ? ぼく……」
「わぁ、きれいなチューリップさん、おはよう」
「今日から、よろしくね」
ちょうちょ達は、ぼくにあいさつをしてくれた。
「うん、こちらこそ。よろしくね」
ぼくはにっこりと笑う。その時だった。
「やった! また、会えた! 大好きなチューリップさん」
声が聞こえた。暗くて冷たい土の中でも、ずっとぼくの心をポカポカとあたためてくれた、大好きな声。
「はるちゃん……」
「チューリップさん。これからもまた、よろしくね!」
ジョロを持ってきた少しお姉さんになったはるちゃんが、まぶしく笑った。
ぼくは知っている。ちょうちょ達とも、はるちゃんとも、一度は別れることになることを。
でも、やっぱり……会えると信じていたら、いつかまた会えるということも知っているんだ。
「うん、はるちゃん。これからもまた、よろしく!」
幸せいっぱいのぼくとはるちゃんの周りを、白いちょうちょ達がひらひらとおどっていた。
「わぁ、きれいなチューリップさん。おはよう! 昨日までは咲いてなかったわよね。これから、よろしくね」
虫に話しかけられて、ぼくの名前は『チューリップ』っていうんだと分かった。
「うん。えっと……あなたのお名前は?」
「私は、シロ。ちょうちょのシロよ」
「そっか、シロ。こちらこそ、よろしくね」
にっこりと笑うと、シロはぼくの周りをひらひらとおどってくれた。
地面の上って、こんなにあたたかくて明るいんだ。暗くて冷たかった土の中とはちがうんだ。
ぼくは、とてもうれしかった。
お日様と楽しくにらめっこしていた時だった。
「わぁあ、かわいいチューリップ」
一人の女の子が、ぼくの前でしゃがんだ。目がキラキラとかがやいていて、まぶしい。
「あ、本当だ。はるちゃんが毎日お水を上げたおかげだよ」
「うん、ママ。本当にお花が咲くんだね。すごぉい」
女の子のママは、にっこりと笑った。
「そう。チューリップさんにとってのお水は、はるちゃんにとってのハンバーグみたいな ものなの。お水を上げたら、チューリップさんはもっともっと元気になるのよ」
「うん!」
女の子は、お日様のように笑った。
「チューリップさん、もっと大きく、もっと元気になぁれ」
女の子がジョロでぼくにお水をくれる。おいしいおいしいお水。
ぼくはとてもうれしかった。今まで知らなかったけれど、このはるちゃんっていう女の子が、ぼくにお水をくれてたんだ。
「はるちゃん、ありがとう」
にっこり笑って言うと、はるちゃんはぼくを見てまた目をかがやかせた。
「ねぇ、ママ。チューリップさんが笑ったよ」
すると、はるちゃんのママは、少し目を丸くした。
「あら、笑ったの?」
「うん! にっこり笑ってありがとうって」
「そうなんだ」
ママは、やさしく目を細めた。
「はるちゃんは、ずっとチューリップさんにお水を上げて、とってもやさしいから、笑ったのが分かるんだね」
「うん! はる、チューリップさん、だぁいすき!」
そんなはるちゃんを見て、ぼくもとってもあたたかくなった。
それから毎日、ぼくは朝が来るのが楽しみだった。
毎日、ぼくの周りをひらひらと飛んでおどってくれるシロ。毎日、ぼくにやさしく話しかけて、お水をくれるはるちゃん。
「チューリップさん。今日も、はるちゃんが来るわよ」
お家の方から飛んできたシロが、今日もぼくに教えてくれた。
「チューリップさん、はるちゃんのことが好きなんだね。だって、はるちゃんが来ると、あなた、とってもかがやいてきれいになるんだもの」
シロはそう言って幸せそうにひらひらとおどるんだ。
「ねぇ、チューリップさん。今日もいいお天気だね」
はるちゃんが来てくれると、ぼくの心はポカポカとあたたかくなった。
「ちょうちょさんも、こんな日は元気いっぱい。はるもね、うれしい」
いつもそう言って、ぼくにおいしいお水をくれる。
ぼくはそんな幸せな毎日がずっと続いていくんだと思っていた。
お日様の光が強くなってきた。それまではあたたかかったお日様がギラギラとぼくをあつくするようになるにつれて、シロは元気がなくなっていった。そして、ぼくも……何だか、前みたいにきれいにかがやくことができなくなっていった。
そんな、ある日の朝のこと。
「ねぇ、シロ。大丈夫?」
ぼくが話しかけると、シロは力なくぼくにとまった。
「チューリップさん。今日で、お別れよ」
「え……お別れ?」
とつぜんのことにおどろくぼくに、シロは言った。
「私、向こうの菜の花畑に行って、たまごをうむの。そして、ここにはもう……帰って来れないわ」
「え、うそ……どうして?」
「私は、いなくなってしまうから」
「そんな……いなくなるなんて」
「でもね、菜の花畑でうんだたまごからは、私の子供達がたくさん生まれて元気に育つの。だから、私、いなくなったとしても……さびしくないのよ」
そう言ったシロはとてもつらそうだったけど、今までで一番強く見えて、ぼくは「行かないで」と言うことができなかった。
「チューリップさん、さようなら。私達、ずっと、友達だよ」
シロはそう言って菜の花畑へ飛んで行った。
「あれ、チューリップさん。どうしたの?」
今日もいつものようにぼくにお水をくれるはるちゃんが、首をかしげた。
「シロが……シロとさようならをしたんだ」
ぼくの言うことは、はるちゃんには聞こえない。でも、はるちゃんは手の平でそっとぼくをつつんでくれた。
「チューリップさん、悲しまないで。きっと、いつか……会えるから」
はるちゃんの手のあたたかさが、冷たくなりそうになっていたぼくの心を、またあたたかくしてくれた。
次の朝。
ぼくは目を覚ますことができなかった。閉じた目を開くことが出来ず、ずっとねむることになった。でも……はるちゃんが流したあたたかいしずくが、土の中にねむっていたぼくの心に届いて。ねむっていながらも、ぼくの心はポカポカとあたたかくなったんだ。
ぼくはずっとねむった。冷たく暗い、土の中で。地面の上はどうなっていたのか、全然分からなかった。
でも、ぼくの心は冷たくも、暗くもならなかった。はるちゃんが最後に落としたあのしずくがぼくの心をポカポカとあたためて、ずっと夢を見ていた。
ぼくの周りを楽しそうに、ひらひらと飛ぶシロの子供達。ぼくににっこりと笑う、少しお姉さんになったはるちゃん。あたたかくて幸せな春のひざし……。
*
今日は何だか、いつもとちがう朝。やわらかいひざしがそっと照らして、ぼくはゆっくりと目を開けた。
キラキラときれいな金色にかがやいているお日様の下。たくさんの白いちょうちょがぼくの周りを飛んでいた。
「あれ? ぼく……」
「わぁ、きれいなチューリップさん、おはよう」
「今日から、よろしくね」
ちょうちょ達は、ぼくにあいさつをしてくれた。
「うん、こちらこそ。よろしくね」
ぼくはにっこりと笑う。その時だった。
「やった! また、会えた! 大好きなチューリップさん」
声が聞こえた。暗くて冷たい土の中でも、ずっとぼくの心をポカポカとあたためてくれた、大好きな声。
「はるちゃん……」
「チューリップさん。これからもまた、よろしくね!」
ジョロを持ってきた少しお姉さんになったはるちゃんが、まぶしく笑った。
ぼくは知っている。ちょうちょ達とも、はるちゃんとも、一度は別れることになることを。
でも、やっぱり……会えると信じていたら、いつかまた会えるということも知っているんだ。
「うん、はるちゃん。これからもまた、よろしく!」
幸せいっぱいのぼくとはるちゃんの周りを、白いちょうちょ達がひらひらとおどっていた。
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