善夜家のオメガ

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葉月

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「…か、殿下…」

サイードは自分を呼ぶ声で目を覚ました。
自分の胸の上に葉月が乗り上げ、その華奢な身体をしっかりと抱きしめている。
昨夜は、というか朝方までイチャイチャして二人とも気を失うように寝てしまったのだ。
部屋中に葉月のフェロモンが充満している。その匂いだけでまた兆しそうだ。
かわいい恋人の顔を覗き込むとスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
本当に天使だ。サイードの前では小悪魔になることも多いが…。
そっとその頬を撫でると小さく吐息が漏れた。

「葉月、愛してる。」

小さく囁いてぐるりと身体を入れ替える。
ぐっすりと眠っている葉月はまだ起きる様子はない。

「何てかわいいんだ…。」

うっすらと開いた唇に自分の唇を重ねようと顔を近づけた。

「殿下…。」

「うわっ!」

近くで自分を呼ぶ声に驚いた。アーシムがベッドサイドに跪いていたのだ。

「何だ、アーシム。勝手に入ってくるなっ!」

「申し訳ございません。何度か声をかけたのですが、お返事がなく…。」

さっきまでデレデレしていたサイードの顔が不機嫌になる。葉月から身体を離して布団で隠してしまった。

「何しに来た。今日は休みだろ?」

「お怒りはごもっともです。しかし緊急事態です。」

確かにあのアーシムが部屋に入って来るとは只事ではない。特に今日は葉月が部屋にいると知っているはずだ。

「一体何事だ。」

「それが…。」

「何だって⁉︎」

アーシムの言葉にサイードは思わず大きな声を出してガバッと起き上がる。それは確かに緊急事態だ。

「何…?」

その声で葉月も目が覚めたようだ。ゆっくりと目を開け起き上がろうとするがサイードにベッドの中に引き戻された。

「うわっ!ちょっと…」

「ダメだ。アーシムがいる。」

「え?あ、えっと…。」

葉月は全裸だ。もちろんアーシムは二人の関係を知っているはずだが、さすがに事後を見られるのは恥ずかしい。なのでサイードに言われるがままにベッドの中に潜り込んだ。

「ところで何があったの?」

布団の中からサイードに尋ねると困ったような顔で葉月を見る。

「それが、父上が戻られたようだ。」

「ええっ⁉︎」

「何でまた急に…。」

サイードはベッドから降りて全裸で部屋の中を歩き、クローゼットからガウンを二枚取り出した。
そのうちの一枚を自分で羽織り、もう一枚を持ってまたベッドに戻る。アーシムに後ろを向かせると葉月にそれを着せた。

「サイード、僕、ダメだよね?すぐに出るよ。」

慌てたように言う葉月にサイードは首を横に振った。

「葉月のことは近いうちに父上に伝えるつもりだった。俺の伴侶はおまえしか考えられない。時間をかけて説得するつもりだったが…。良い機会だ。父上に会ってもらいたい。」

「ええ⁉︎そんな急に。それにサイードも何て言われるか…。」

この国がオメガに対して良く思っていないのは葉月も知っている。サイードの父はそんな国の頂点に立つ者だ。言わずもがな、彼がオメガをどう思っているかは分かる。

「俺のことはどうでもいい。おまえが嫌な気持ちになるのが耐えられない。もし、万が一、認めてもらえないなら王位継承権を捨てるまでだ。」

「サイード…。」

そこまで自分を思ってくれるサイードの真摯な気持ちに、葉月は目を潤ませた。

「泣かないでくれ。俺はおまえの涙に弱いんだ。」

困ったような顔でサイードが葉月を見る。そして優しく抱きしめ頭に何度もキスをした。
ふわりとフェロモンが香る。葉月が嬉しがっているのだ。優しくて温かくて、さらに甘い。

「良い匂いだ。いつまでも嗅いでいたい…。」

うっとりと葉月の顔を見つめちゅうっと音を立てて唇を吸う。そのままベッドに押し倒した。

「あ、ちょっと、待って、あっ!サイード、」

先ほど着せたばかりのガウン合わせから手を滑り込ませ身体を撫でる。興奮した顔でちゅっちゅっとキスをして腰を押し付けてきた。

「サイードっ!」

「殿下っ!」

「あ…。すまない。」

葉月とアーシムの声が重なりサイードはハッとする。
すっかり葉月のフェロモンに酔って大事なことが頭から抜けてしまった。
父であるファールークのことだ。
何を言われるか想像がつく。しかしそんなことで怖気付くわけにはいかない。
ファールーク不在の間、国王代理の責務はしっかりと果たしたつもりだ。
クタイバの逮捕、サワブハーディーの開拓。
父の期待以上の成果を上げたのだ。

「よし。葉月、アーシム、行くぞ。」

サイードは力強くそう言うと、颯爽とベッドから降りた。




「うー、緊張する。」

「大丈夫だ。俺が付いてる。」

まずサイードがファールークに葉月のことを直接話すことにした。
もちろん激怒し反対されるだろう。だからといって諦めることは出来ない。今の自分の気持ちと、これからのことを真摯に話す。それでも認めてくれないのなら…。
サイードには腹違いの弟と妹がいる。二人ともまだ成人していないが、正真正銘ファールークの子であり、もちろん王位継承権もある。その二人のどちらかに譲っても良い。
ファールークには五人子どもがいたが、二人亡くなっている。なので今はファールーク、弟のハーミドと妹のマイシームだ。
サイードの母が亡くなったあと弟たちの母である女アルファと再婚したが、こちらとは上手くいかず離婚した。ファールークの血を引く子どもたちだけアグニアに残ったのだ。
ファールークがサイードに期待しているはサイード自身も良く分かっている。その期待に応えるように勤めを果たしてきたつもりだ。
しかし葉月とのことだけは譲れない。
サイードは大きく深呼吸してファールークの部屋のドアをノックした。
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