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番外編2
葉月&サイード
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「えっと、ここであってるのかな?」
葉月はロイヤルプレジデントホテルのロビーをウロウロしていた。
サイードと恋人なって早数ヶ月。遠距離だが、毎日ビデオ通話とメッセージをやり取りし、サイードは何度かお忍びで日本に会いに来てくれた。
もうすぐ高校の卒業式。それが終わればR大学の入学式までしばらく時間がある。葉月がアグニアに行こうと思っていたのだが、昨日サイードからここのホテルロビーで待つように言われたのだ。
もしかしたらまたお忍びで来ているのかもしれない。
そう思いサイードの姿を探す。
「葉月様。」
そんな葉月に声をかけたのはアーシムだった。
「アーシムさん!」
彼はいつもと変わりなくにこりと微笑んでいる。
「お越しいただきありがとうございます。」
「いえ。あの、サイードが来てるの?」
「ええ。それで今日は葉月様にお願いがございまして…。」
アーシムに連れられて葉月が来た場所は大きなホールだった。カメラマンや記者らしき人たちでごった返している。何かの記者会見でもあるのだろうか。
「葉月様はこちらでお待ち下さい。」
記者やカメラマンたちの横をすり抜けて会場の隅に立たされた。アーシムはすぐに戻ると言ってどこかへ行ってしまった。
「なんだろう。何の集まり?」
葉月が疑問に思っていると会場の舞台が明るくなる。それをぼーっと見ているとサイードが表れたのだ。
「え?サイード?」
その途端、カメラのシャッター音とフラッシで騒々しくなる。サイードの隣には通訳、さらにその周りに何人ものSPが居る。
唖然としている葉月の横にアーシムが戻ってきた。
「アーシムさん、何?一体何なの?」
「まあ、ご覧になっててください。」
司会者が記者会見の開始と挨拶を告げ、サイードを紹介するとまたシャッター音とフラッシュが鳴り響いた。
「ミナサン、コンニチハ。ワタシはサイードです。」
サイードがやや片言の日本語で挨拶をすると会場中が騒めいた。そのあとは通訳を介して記者会見が進められた。
サイードかアラビア語で話すと隣の通訳がマイクを持った。
「えー、皆様。本日はお集まりいただきありがとうございます。今日は日本の皆様にお願いと報告があります。私、サイード・ファールーク・は四月より日本の大学で勉強をするため、留学させていただきます。」
え?
今なんて?
葉月は驚いてアーシムの方を振り返った。彼は相変わらずにこにこして頷くだけだった。
「私の国、アグニアはバースの考え方がとても遅れています。今や世界はバースの平等の時代です。私はバースについて学び、理解し、それを国に広めなければなりません。そのため、日本の大学院に留学することを決めました。留学先はバース研究で最先端を誇るR大学です。」
「えーーーっ!」
あまりの驚きに大きな声を出してしまったが、葉月の悲鳴はシャッター音と記者たちの声にかき消された。隣のアーシムを見るとニコニコと微笑んでいる。
「アーシムさん、今、R大って。」
「ええ。」
記者たちの質問にサイードは笑顔で答えている。葉月は只々驚き言葉が出ない。
「四月から同じ大学に通うってこと?」
「はい。殿下は大学院の方ですが、敷地は同じです。」
「…。」
四月からサイードと一緒。
ずっと遠距離になると思っていた。
どんな手を使ったのだろう。それにアグニアは大丈夫なのか。
「葉月様が心配されることは何もございませんよ。国王様もこの留学を後押ししております。殿下は国王代理の任は解かれ、今はまだ修行の身。実権は国王様に返されました。国王様はまだまだお元気ですからね。まあ、どうやってR大学に受けてもらったかはお聞きにならない方が良いかと思います。」
アーシムがふっと意味深な笑みをこぼす。
葉月は少し恐ろしくなってアーシムを見ていた。
すると会場のざわめきがぴたりと止んだ。
「エー、ミナサン、ワタシからダイジナオハナシアリマス。」
サイードが立ち上がり日本語で話し出す。
葉月や記者たちも黙ってサイードを見つめた。
「ミナサンにワタシのフィアンセをショウカイシマス。」
「え?」
その瞬間、葉月にスポットライトが当たる。眩しくて目を閉じた。
「ワタシのフィアンセの葉月デス。ミナサンよろしく。ワタシタチハアイシアッテマス。」
葉月が目を開けるといつの間にかサイードが隣に立ち肩を抱き寄せていた。
「ワタシのカワイイ葉月!アイシテル。」
「うわっ!サイード⁉︎」
サイードが抱き上げて葉月の頬にキスをする。
「ハツジョーキがキタラ、番いにナリマース!」
一瞬でも止まった記者たちがざわめき出した。
シャッター音と記者の質問の声で会場は大騒ぎだ。
サイードはそれには答えず手を振りながら葉月とともに会場を後にした。
「サイード!どういう事?」
最上階のスイートルームで顔中にキスしてくるサイードを押し除けながら葉月が詰め寄る。
「んー?どういう事って、そういう事だ。楽しみだな。毎日一緒に過ごせるぞ。毎日毎日イチャイチャして…そしたら発情期もすぐにするかもな。」
葉月の抵抗をものともせずちゅっちゅっとキスをやめない。
「いや、それもだけど、婚約者って何だよ!そんなこと聞いてない!」
葉月の言葉にサイードがピタッとキスを止める。そして驚いた顔で葉月を見た。
「毎日言ってただろ?」
「へ?」
「ずっと一緒にいようって。死ぬまで離さないって。おまえ、俺の話を聞いてなかったのか?」
今度は葉月が驚いてサイードの顔を見る。
確かに毎日そう言われていた。
しかしそれがプロポーズ?
「あれ、プロポーズなの?」
「ああ。だっておまえ、堅苦しいのは苦手だって…。」
「え?」
そうだった。
理想のプロポーズの話題になったとき、確かそんなようなことを言った。
「忘れてたのか?」
「え、まあ、ごめん。」
「はぁ。俺は毎回プロポーズしてたつもりだ。」
「はい…。」
葉月は気まずそうに頷く。
サイードは恨みがましい顔をするが、すぐに思い直して葉月を見た。
「で?返事は?」
「え?」
「まあ、YES以外受け付けないからな。」
そう言って葉月を抱き上げながら膝に乗せソファーに座る。
「葉月、手。」
「手?」
葉月が右手を差し出すとサイードは違うと言って左手を取った。そしてポケットから何かを取り出す。
「え…。」
それは婚約指輪だった。葉月の薬指にピッタリだ。
そして眩いばかりの大きなダイヤモンドが付いている。
「でかっ!」
「そうだ。アグニアの国宝だからな。おまえのために指輪にしてもらった。」
満足そうにその指輪を眺めるサイードとその指輪を葉月は驚いた顔で見比べる。
「こ、国宝?」
「ああそうだ。父に頼み込んで譲ってもらった。」
「ひぇ…」
世界一裕福な国の国宝。
恐ろしくて値段なんて聞けない。
「再来週はアグニアで婚約パーティーだ。楽しみだな。招待客は…」
サイードの口から出てくる面子の名前を聞いて葉月はさらに震え上がった。
自分はとんでもない人と番いになろうとしているのかもしれない。でも彼は必ず幸せにしてくれる。自分に流れる善夜の血がそう言っているのだ。
「盛大なパーティーにしてよね?」
「もちろんだ!」
腹を括った葉月は嬉しそうなサイードの頬にキスをした。
葉月はロイヤルプレジデントホテルのロビーをウロウロしていた。
サイードと恋人なって早数ヶ月。遠距離だが、毎日ビデオ通話とメッセージをやり取りし、サイードは何度かお忍びで日本に会いに来てくれた。
もうすぐ高校の卒業式。それが終わればR大学の入学式までしばらく時間がある。葉月がアグニアに行こうと思っていたのだが、昨日サイードからここのホテルロビーで待つように言われたのだ。
もしかしたらまたお忍びで来ているのかもしれない。
そう思いサイードの姿を探す。
「葉月様。」
そんな葉月に声をかけたのはアーシムだった。
「アーシムさん!」
彼はいつもと変わりなくにこりと微笑んでいる。
「お越しいただきありがとうございます。」
「いえ。あの、サイードが来てるの?」
「ええ。それで今日は葉月様にお願いがございまして…。」
アーシムに連れられて葉月が来た場所は大きなホールだった。カメラマンや記者らしき人たちでごった返している。何かの記者会見でもあるのだろうか。
「葉月様はこちらでお待ち下さい。」
記者やカメラマンたちの横をすり抜けて会場の隅に立たされた。アーシムはすぐに戻ると言ってどこかへ行ってしまった。
「なんだろう。何の集まり?」
葉月が疑問に思っていると会場の舞台が明るくなる。それをぼーっと見ているとサイードが表れたのだ。
「え?サイード?」
その途端、カメラのシャッター音とフラッシで騒々しくなる。サイードの隣には通訳、さらにその周りに何人ものSPが居る。
唖然としている葉月の横にアーシムが戻ってきた。
「アーシムさん、何?一体何なの?」
「まあ、ご覧になっててください。」
司会者が記者会見の開始と挨拶を告げ、サイードを紹介するとまたシャッター音とフラッシュが鳴り響いた。
「ミナサン、コンニチハ。ワタシはサイードです。」
サイードがやや片言の日本語で挨拶をすると会場中が騒めいた。そのあとは通訳を介して記者会見が進められた。
サイードかアラビア語で話すと隣の通訳がマイクを持った。
「えー、皆様。本日はお集まりいただきありがとうございます。今日は日本の皆様にお願いと報告があります。私、サイード・ファールーク・は四月より日本の大学で勉強をするため、留学させていただきます。」
え?
今なんて?
葉月は驚いてアーシムの方を振り返った。彼は相変わらずにこにこして頷くだけだった。
「私の国、アグニアはバースの考え方がとても遅れています。今や世界はバースの平等の時代です。私はバースについて学び、理解し、それを国に広めなければなりません。そのため、日本の大学院に留学することを決めました。留学先はバース研究で最先端を誇るR大学です。」
「えーーーっ!」
あまりの驚きに大きな声を出してしまったが、葉月の悲鳴はシャッター音と記者たちの声にかき消された。隣のアーシムを見るとニコニコと微笑んでいる。
「アーシムさん、今、R大って。」
「ええ。」
記者たちの質問にサイードは笑顔で答えている。葉月は只々驚き言葉が出ない。
「四月から同じ大学に通うってこと?」
「はい。殿下は大学院の方ですが、敷地は同じです。」
「…。」
四月からサイードと一緒。
ずっと遠距離になると思っていた。
どんな手を使ったのだろう。それにアグニアは大丈夫なのか。
「葉月様が心配されることは何もございませんよ。国王様もこの留学を後押ししております。殿下は国王代理の任は解かれ、今はまだ修行の身。実権は国王様に返されました。国王様はまだまだお元気ですからね。まあ、どうやってR大学に受けてもらったかはお聞きにならない方が良いかと思います。」
アーシムがふっと意味深な笑みをこぼす。
葉月は少し恐ろしくなってアーシムを見ていた。
すると会場のざわめきがぴたりと止んだ。
「エー、ミナサン、ワタシからダイジナオハナシアリマス。」
サイードが立ち上がり日本語で話し出す。
葉月や記者たちも黙ってサイードを見つめた。
「ミナサンにワタシのフィアンセをショウカイシマス。」
「え?」
その瞬間、葉月にスポットライトが当たる。眩しくて目を閉じた。
「ワタシのフィアンセの葉月デス。ミナサンよろしく。ワタシタチハアイシアッテマス。」
葉月が目を開けるといつの間にかサイードが隣に立ち肩を抱き寄せていた。
「ワタシのカワイイ葉月!アイシテル。」
「うわっ!サイード⁉︎」
サイードが抱き上げて葉月の頬にキスをする。
「ハツジョーキがキタラ、番いにナリマース!」
一瞬でも止まった記者たちがざわめき出した。
シャッター音と記者の質問の声で会場は大騒ぎだ。
サイードはそれには答えず手を振りながら葉月とともに会場を後にした。
「サイード!どういう事?」
最上階のスイートルームで顔中にキスしてくるサイードを押し除けながら葉月が詰め寄る。
「んー?どういう事って、そういう事だ。楽しみだな。毎日一緒に過ごせるぞ。毎日毎日イチャイチャして…そしたら発情期もすぐにするかもな。」
葉月の抵抗をものともせずちゅっちゅっとキスをやめない。
「いや、それもだけど、婚約者って何だよ!そんなこと聞いてない!」
葉月の言葉にサイードがピタッとキスを止める。そして驚いた顔で葉月を見た。
「毎日言ってただろ?」
「へ?」
「ずっと一緒にいようって。死ぬまで離さないって。おまえ、俺の話を聞いてなかったのか?」
今度は葉月が驚いてサイードの顔を見る。
確かに毎日そう言われていた。
しかしそれがプロポーズ?
「あれ、プロポーズなの?」
「ああ。だっておまえ、堅苦しいのは苦手だって…。」
「え?」
そうだった。
理想のプロポーズの話題になったとき、確かそんなようなことを言った。
「忘れてたのか?」
「え、まあ、ごめん。」
「はぁ。俺は毎回プロポーズしてたつもりだ。」
「はい…。」
葉月は気まずそうに頷く。
サイードは恨みがましい顔をするが、すぐに思い直して葉月を見た。
「で?返事は?」
「え?」
「まあ、YES以外受け付けないからな。」
そう言って葉月を抱き上げながら膝に乗せソファーに座る。
「葉月、手。」
「手?」
葉月が右手を差し出すとサイードは違うと言って左手を取った。そしてポケットから何かを取り出す。
「え…。」
それは婚約指輪だった。葉月の薬指にピッタリだ。
そして眩いばかりの大きなダイヤモンドが付いている。
「でかっ!」
「そうだ。アグニアの国宝だからな。おまえのために指輪にしてもらった。」
満足そうにその指輪を眺めるサイードとその指輪を葉月は驚いた顔で見比べる。
「こ、国宝?」
「ああそうだ。父に頼み込んで譲ってもらった。」
「ひぇ…」
世界一裕福な国の国宝。
恐ろしくて値段なんて聞けない。
「再来週はアグニアで婚約パーティーだ。楽しみだな。招待客は…」
サイードの口から出てくる面子の名前を聞いて葉月はさらに震え上がった。
自分はとんでもない人と番いになろうとしているのかもしれない。でも彼は必ず幸せにしてくれる。自分に流れる善夜の血がそう言っているのだ。
「盛大なパーティーにしてよね?」
「もちろんだ!」
腹を括った葉月は嬉しそうなサイードの頬にキスをした。
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