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夏休みも終わり新学期が始まった。
始まってすぐはクラスメイトがお土産交換をしたり思い出話をしたりしているのを、二人は教室の端でじっと耐えていた。
もうすぐ楓の誕生日だ。もちろん祝ってくれるアルファは居ない。
しかし律がいる。律は毎年ケーキを買ってきてお祝いしてくれる。
「誕生日、土曜日だね。映画でも見よっか?」
「うん。」
これで良いのだ。今でも十分幸せだ。三食お腹いっぱい食べられて学校へも行ける。あのまま施設にいたら高校にも行けなかったかもしれない。
二人が土曜日の打ち合わせをしていると学園のスタッフに呼ばれた。
「こんにちは。」
案内された医務室に入るとスラリとしたメガネの男が待っていた。
「「こんにちは。」」
学園のスタッフではないし、教員でもない。初めて見る男だ。
「私はこういう者です。」
『国立バース研究所 バースマッチング担当』
差し出された名刺にはそう書かれていた。
律と楓は顔を見合わせる。いつの間にか案内してくれたスタッフは居なくなっていた。
「単刀直入に聞くね。君たちはマッチングしたアルファからコンタクトがないのかな?」
二人が傷付かないように優しく尋ねてくる。
律と楓は小さく頷いた。
「本来ならコンタクトは禁止だ。でも、何というか、その…はっきり言うと規則は守られていない。その規則を盾にアルファから寄付金を集めてここの学園は運営されている。税金だけでは学校運営は難しいからね。」
「はい。知ってます。」
楓の言葉に男は小さく頷いた。
「君たちにもマッチングしたアルファがいたはずだ。でもコンタクトがない。早い人なら通知が届いたその日に何らかのコンタクトがある。でももう君たちは四年も何もない。」
「…はい。」
男は優しく微笑むと大丈夫、と声をかけてくれた。
「私が今日ここへ来たのは再マッチングを勧めに来たんだよ。君たちの相手はマッチング率100%だと聞いている。なので君たちがまだそのアルファを待ちたいかもしれないと思ってね。君たちの気持ちを聞きに来たんだ。」
律と楓は目を丸くして顔を見合わせた。
再マッチング。
いつかするかもしれないと思ってはいたが、こんなに早くその機会が来るとは…。
「100%は滅多に出ない数字だ。過去数十年遡っても片手で足りるくらいしか出ていない。その相手を諦めるのは辛いかもしれない。今すぐ答えを出さなくても良い。二人でよく考えて。もちろん二人同じ答えでなくても構わない。」
男は再マッチングの方法を簡単に説明すると一週間後にまた来ると言って出て行った。
二人は男が出て行ったドアをぼんやりと眺めている。しばらくすると学園のスタッフが入ってきたので慌てて出て行った。
「楓、どうしよう。」
「…うん。」
楓の部屋で二人は先ほどの男の話を思い出し悩んでいた。
いつかこうなる日が来るとは思っていたが、いざその日が来ると二人は戸惑ってしまう。
再マッチングするということは今のアルファを諦めるということだ。
100%のアルファ。きっと運命だろう。運命は諦めるのだ。でもこのまま待ち続けても迎えに来てくれないかもしれない。マッチングからすでに四年経っている。来ない可能性の方が大きい。
二人は頭が痛くなるまで考えたが結果は出なかった。
相談するような友達も家族もいない。二人で答えを出すしかない。
律と楓はその日から授業も上の空で再マッチングについて頭を悩ませていた。
そしてとうとう一週間経ってしまった。またあの男に呼び出されて医務室に向かう。
ドアを開けると一週間前と同じように男がソファーに座っていた。
「こんにちは。」
「「こんにちは。」」
二人は緊張しながら男の前に座る。そんな二人に男は世間話をしてリラックスさせてくれた。しばらく話した後男は真面目な顔になった。
「さて、じゃあ本題に入るね。」
「「はい。」」
「再マッチングの件、どうする?」
律と楓は顔を見合わせ頷いた。
この一週間考えて考えて二人は答えを出したのだ。
「再マッチングお願いします。」
楓が真っ直ぐ男を見て答える。
それを聞いて男は頷き、律の顔を見た。
「ぼ、僕も…お願いします。」
二人は考えた末、再マッチングをすることにしたのだ。
運命は諦める。
そもそも会うことが出来ないのなら運命ではない。
それが100%だとしても。
これが二人が出した決断だ。
次のアルファが何%かは分からないが、クラスメイトたちは100%でなくても幸せそうなのだ。
だから律と楓も会えない100%より自分を迎えに来てくれるアルファを選ぶことにしたのだ。
「分かりました。では早速手続きを始めます。保管してある血液データを今マッチングしているアルファを除いて再度マッチングさせます。結果は二週間ほどで出ます。本人宛てに送られますので待っていて下さい。」
「分かりました。あの、一つ良いですか?」
楓が男に質問する。二人で話していた時に出てきた疑問だ。
「はい。何でしょう。」
「その…今、マッチングしているアルファはどうなるんですか?」
「マッチング解除の知らせが行きます。君たちに新しいマッチング相手が出来たので権利を失うという通知です。一度解除されたマッチングは二度と復活することはありません。再マッチングした相手に失礼ですからね。」
「そうなんですね…。」
やはりもう100%と会うことはないのだ。でもその通知が届いたところで相手は何も思わないかもしれない。むしろ煩わしさから解放されて喜ぶだろう。
律と楓は再マッチングの説明をする男の話しをぼんやりと聞いていた。
始まってすぐはクラスメイトがお土産交換をしたり思い出話をしたりしているのを、二人は教室の端でじっと耐えていた。
もうすぐ楓の誕生日だ。もちろん祝ってくれるアルファは居ない。
しかし律がいる。律は毎年ケーキを買ってきてお祝いしてくれる。
「誕生日、土曜日だね。映画でも見よっか?」
「うん。」
これで良いのだ。今でも十分幸せだ。三食お腹いっぱい食べられて学校へも行ける。あのまま施設にいたら高校にも行けなかったかもしれない。
二人が土曜日の打ち合わせをしていると学園のスタッフに呼ばれた。
「こんにちは。」
案内された医務室に入るとスラリとしたメガネの男が待っていた。
「「こんにちは。」」
学園のスタッフではないし、教員でもない。初めて見る男だ。
「私はこういう者です。」
『国立バース研究所 バースマッチング担当』
差し出された名刺にはそう書かれていた。
律と楓は顔を見合わせる。いつの間にか案内してくれたスタッフは居なくなっていた。
「単刀直入に聞くね。君たちはマッチングしたアルファからコンタクトがないのかな?」
二人が傷付かないように優しく尋ねてくる。
律と楓は小さく頷いた。
「本来ならコンタクトは禁止だ。でも、何というか、その…はっきり言うと規則は守られていない。その規則を盾にアルファから寄付金を集めてここの学園は運営されている。税金だけでは学校運営は難しいからね。」
「はい。知ってます。」
楓の言葉に男は小さく頷いた。
「君たちにもマッチングしたアルファがいたはずだ。でもコンタクトがない。早い人なら通知が届いたその日に何らかのコンタクトがある。でももう君たちは四年も何もない。」
「…はい。」
男は優しく微笑むと大丈夫、と声をかけてくれた。
「私が今日ここへ来たのは再マッチングを勧めに来たんだよ。君たちの相手はマッチング率100%だと聞いている。なので君たちがまだそのアルファを待ちたいかもしれないと思ってね。君たちの気持ちを聞きに来たんだ。」
律と楓は目を丸くして顔を見合わせた。
再マッチング。
いつかするかもしれないと思ってはいたが、こんなに早くその機会が来るとは…。
「100%は滅多に出ない数字だ。過去数十年遡っても片手で足りるくらいしか出ていない。その相手を諦めるのは辛いかもしれない。今すぐ答えを出さなくても良い。二人でよく考えて。もちろん二人同じ答えでなくても構わない。」
男は再マッチングの方法を簡単に説明すると一週間後にまた来ると言って出て行った。
二人は男が出て行ったドアをぼんやりと眺めている。しばらくすると学園のスタッフが入ってきたので慌てて出て行った。
「楓、どうしよう。」
「…うん。」
楓の部屋で二人は先ほどの男の話を思い出し悩んでいた。
いつかこうなる日が来るとは思っていたが、いざその日が来ると二人は戸惑ってしまう。
再マッチングするということは今のアルファを諦めるということだ。
100%のアルファ。きっと運命だろう。運命は諦めるのだ。でもこのまま待ち続けても迎えに来てくれないかもしれない。マッチングからすでに四年経っている。来ない可能性の方が大きい。
二人は頭が痛くなるまで考えたが結果は出なかった。
相談するような友達も家族もいない。二人で答えを出すしかない。
律と楓はその日から授業も上の空で再マッチングについて頭を悩ませていた。
そしてとうとう一週間経ってしまった。またあの男に呼び出されて医務室に向かう。
ドアを開けると一週間前と同じように男がソファーに座っていた。
「こんにちは。」
「「こんにちは。」」
二人は緊張しながら男の前に座る。そんな二人に男は世間話をしてリラックスさせてくれた。しばらく話した後男は真面目な顔になった。
「さて、じゃあ本題に入るね。」
「「はい。」」
「再マッチングの件、どうする?」
律と楓は顔を見合わせ頷いた。
この一週間考えて考えて二人は答えを出したのだ。
「再マッチングお願いします。」
楓が真っ直ぐ男を見て答える。
それを聞いて男は頷き、律の顔を見た。
「ぼ、僕も…お願いします。」
二人は考えた末、再マッチングをすることにしたのだ。
運命は諦める。
そもそも会うことが出来ないのなら運命ではない。
それが100%だとしても。
これが二人が出した決断だ。
次のアルファが何%かは分からないが、クラスメイトたちは100%でなくても幸せそうなのだ。
だから律と楓も会えない100%より自分を迎えに来てくれるアルファを選ぶことにしたのだ。
「分かりました。では早速手続きを始めます。保管してある血液データを今マッチングしているアルファを除いて再度マッチングさせます。結果は二週間ほどで出ます。本人宛てに送られますので待っていて下さい。」
「分かりました。あの、一つ良いですか?」
楓が男に質問する。二人で話していた時に出てきた疑問だ。
「はい。何でしょう。」
「その…今、マッチングしているアルファはどうなるんですか?」
「マッチング解除の知らせが行きます。君たちに新しいマッチング相手が出来たので権利を失うという通知です。一度解除されたマッチングは二度と復活することはありません。再マッチングした相手に失礼ですからね。」
「そうなんですね…。」
やはりもう100%と会うことはないのだ。でもその通知が届いたところで相手は何も思わないかもしれない。むしろ煩わしさから解放されて喜ぶだろう。
律と楓は再マッチングの説明をする男の話しをぼんやりと聞いていた。
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