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番外編2
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「き、来た…。」
学校帰り、マンションのメールボックスの前で俊哉は驚きと喜びで震えていた。
俊哉は律のこともあり、通う予定の大学の近くに高級低層マンションを購入し一人暮らしをしていた。
表向きはオメガを認めていることになっている一条家だが、実際はそうではない。律が嫌な思いをしないよう家を出たのだ。
そんな俊哉の手にはあのピンクの封筒が握られている。
おそらくアレだろう。
俊哉が待ちに待っていた通知。
居ても立っても居られず封筒を開けると一枚の書類が出てきた。
『マーキング許可のお知らせ』
「やった…良かった…。」
思わず安堵のため息を漏らす。
潤からその存在は聞いていたが、自分には来ないかもしれないと不安だった。何せ四年間も律を放って置いてつらい思いをさせてしまった。
許可されなくても当然だろうと諦めていたのだ。
部屋に帰りじっくりと読む。封筒の中を何度も確認したり、書類の裏側を見たりと念の入れようだ。
「律に連絡…あ、律は何て言うかな。」
その書類にはオメガの直筆のサインが必要だ。
律が嫌だと言えばマーキングは不可能。
でもそれはそれで仕方ない。律が良いと言ってくれるまで待つしかないのだ。
楓と潤にマーキング許可が出たことを何となく言ってみたが『へぇ。』と気のない返事だった。それ以降マーキングついて触れることが何となくできなくなった。
明日は金曜日だ。律に聞いてみよう。
そう決めてマーキング許可証を大事に机の中にしまった。
いつも通り学園から律をマンションに連れて帰り手料理を振る舞う。
今日のメニューはおでんだ。副菜に水菜とじゃこのサラダ、タコときゅうりの酢の物、それにホタテの炊き込みごはん。
二人で過ごす週末は外食することも多いが俊也が作って振る舞うこともある。
もともと料理が出来たわけではない。包丁すら握ったことがなかった。しかし律のために勉強し、今では世界各国の様々な料理を作れるようになった。
律の喜ぶ顔が見たいのだ。
「うわーっ!おでん!すごい豪華だね。」
「ふふふ。何食べる?」
「えっと、じゃあ卵と大根とはんぺんと…」
律のリクエストに従っておでんの具を取り皿に乗せる。
熱々のおでんは出汁が染みて本当に美味しかった。食の細い律もたくさん食べて大満足だ。
手早く後片付けをしてリビングのソファーに座り寛いでいる律の横に座った。
「律に話があるんだ。」
「え?何?」
真剣な顔の俊哉に律も姿勢を正した。
「これなんだけど…。」
俊哉が手にしているピンクの封筒。それには律も見覚えがあった。
「これって…。」
「うん。バース庁からの通知だ。」
律の顔がこわばる。
悪い知らせだろうか。
真剣な顔の俊哉をドキドキしながらじっと見つめた。
「悪い知らせとかじゃないよ。」
怖がる律を宥めるよう優しく言った。
「え、じゃあ何?」
「これなんだ。」
俊哉が一枚の紙を取り出す。
『マーキング許可のお知らせ』
律はそれを読みまた俊哉の顔を見た。
「マーキング許可のお知らせ…。」
「うん。」
俊哉がその通知をゆっくり読んでくれる。
マッチング率95%以上のカップルにしか来ない通知。
「僕たち100%だから?」
「うん。そうだよ。」
律が真剣な顔でその通知を読み返す。その顔を俊哉は祈るような気持ちで見つめていた。
律が嫌がったらマーキングは出来ない。潤は楓から許可をもらったと喜んでいた。
もしかしたら律は嫌がるかもしれない。
律と会うようになってから二か月、自分たちはとても上手くいっていると思う。
100%だけあって何から何までぴったりだ。
律が可愛くて堪らない。
でも律はどう思っているのだろうか。
この四年間のことを考えると不安になる。
「それで、律はどうかな?俺はその、律にマーキングしたい。律のことが大好きなんだ。だから…。」
「俊哉くん…。僕も大好き。いつもいろいろ僕のためにしてくれてありがとう。僕は俊哉くんがしたいならいいよ。俊哉くんの好きなようにして?」
「律!本当に?本当にいいの?…ありがとう!すごく嬉しいよ!じゃあこの書類にサインしてくれる?ここ。オメガって欄だよ。」
「はい。」
俊哉からペンを受け取った律が書類にサインをする。
すでにアルファの欄には俊哉のサインがしてあった。
身を屈めて丁寧に書類に自分の名前を書く律を俊哉は緊張した面持ちで見守っていた。
「出来た…。これでいい?」
「うん。ありがとう。」
「ふふ。で、マーキングって何?」
「えっ…」
ニコニコしながら俊哉を見る律を唖然と見つめた。
そう。律はマーキングの意味を理解していなかったのだ。
「あ、そういえば楓もマーキングが何とかって言ってた。楓も潤さんも100パーセントだもんね。」
「律、マーキング知らないの?知らないのにサインしたの?」
自分の可愛いオメガは何て不用心なんだと俊哉は驚いている。
律は無垢で純粋爛漫だ。一緒にいると自分が煩悩だらけの不純な人間に思えてくる。律のそんなピュアなところも可愛いのだが、内容を理解していない契約書にサインするのは問題だ。
律にはいろいろと教えることがありそうだと苦笑する。
「でも俊哉くんがしたいことなんでしょ?だから良いよ?僕も俊哉くんがしたいことを一緒にしたいんだ。」
「律…あのね。」
俊哉はなるべく律を驚かせないようにマーキングについて優しく教えた。
一生懸命聞いていた律の顔が徐々に赤くなる。
全部教えた時には首まで真っ赤になっていた。
「律?大丈夫?」
「え?あ、うん。大丈夫。良く分かった。待って!ということは楓も…?」
律は一人で目を白黒させている。俊哉が優しく宥めるとハッとして俊哉を見た。
「大事なことだからちゃんと考えてね?返事はいつでもいいから。」
「う、うん。あの、俊哉くんは…その、マーキングんしたいの?」
「うん。マーキングすれば安心するし、律の身体も丈夫になるし……いや、違うな。」
「え?」
マーキングしたい理由を言いかけた俊哉が律を膝の上に抱き上げた。
「律が大好きだからだ。大好きだから俺のものにしたい。」
「俊哉くん…。」
優しく律を見つめる俊哉に胸がぎゅっと締め付けられる。マッチング解除が無効になってからの俊哉は律をとても大事にして愛してくれている。
毎日連絡を欠かさないし週末はずっと一緒だ。
何の不安も不満もない。
俊哉となら…。律はチラリとマーキング許可の通知を見た。
「うん。よろしくお願いします。」
ぺこっと小さく頭を下げる。
そんな律に俊哉一瞬驚くが、意味を理解して律をぎゅっと抱きしめた。
「律!大好きだよ。一生大事にするからね。」
「ふふふ。ありがとう。」
幸せを噛み締めた二人は顔を見合わせて微笑み合った。
学校帰り、マンションのメールボックスの前で俊哉は驚きと喜びで震えていた。
俊哉は律のこともあり、通う予定の大学の近くに高級低層マンションを購入し一人暮らしをしていた。
表向きはオメガを認めていることになっている一条家だが、実際はそうではない。律が嫌な思いをしないよう家を出たのだ。
そんな俊哉の手にはあのピンクの封筒が握られている。
おそらくアレだろう。
俊哉が待ちに待っていた通知。
居ても立っても居られず封筒を開けると一枚の書類が出てきた。
『マーキング許可のお知らせ』
「やった…良かった…。」
思わず安堵のため息を漏らす。
潤からその存在は聞いていたが、自分には来ないかもしれないと不安だった。何せ四年間も律を放って置いてつらい思いをさせてしまった。
許可されなくても当然だろうと諦めていたのだ。
部屋に帰りじっくりと読む。封筒の中を何度も確認したり、書類の裏側を見たりと念の入れようだ。
「律に連絡…あ、律は何て言うかな。」
その書類にはオメガの直筆のサインが必要だ。
律が嫌だと言えばマーキングは不可能。
でもそれはそれで仕方ない。律が良いと言ってくれるまで待つしかないのだ。
楓と潤にマーキング許可が出たことを何となく言ってみたが『へぇ。』と気のない返事だった。それ以降マーキングついて触れることが何となくできなくなった。
明日は金曜日だ。律に聞いてみよう。
そう決めてマーキング許可証を大事に机の中にしまった。
いつも通り学園から律をマンションに連れて帰り手料理を振る舞う。
今日のメニューはおでんだ。副菜に水菜とじゃこのサラダ、タコときゅうりの酢の物、それにホタテの炊き込みごはん。
二人で過ごす週末は外食することも多いが俊也が作って振る舞うこともある。
もともと料理が出来たわけではない。包丁すら握ったことがなかった。しかし律のために勉強し、今では世界各国の様々な料理を作れるようになった。
律の喜ぶ顔が見たいのだ。
「うわーっ!おでん!すごい豪華だね。」
「ふふふ。何食べる?」
「えっと、じゃあ卵と大根とはんぺんと…」
律のリクエストに従っておでんの具を取り皿に乗せる。
熱々のおでんは出汁が染みて本当に美味しかった。食の細い律もたくさん食べて大満足だ。
手早く後片付けをしてリビングのソファーに座り寛いでいる律の横に座った。
「律に話があるんだ。」
「え?何?」
真剣な顔の俊哉に律も姿勢を正した。
「これなんだけど…。」
俊哉が手にしているピンクの封筒。それには律も見覚えがあった。
「これって…。」
「うん。バース庁からの通知だ。」
律の顔がこわばる。
悪い知らせだろうか。
真剣な顔の俊哉をドキドキしながらじっと見つめた。
「悪い知らせとかじゃないよ。」
怖がる律を宥めるよう優しく言った。
「え、じゃあ何?」
「これなんだ。」
俊哉が一枚の紙を取り出す。
『マーキング許可のお知らせ』
律はそれを読みまた俊哉の顔を見た。
「マーキング許可のお知らせ…。」
「うん。」
俊哉がその通知をゆっくり読んでくれる。
マッチング率95%以上のカップルにしか来ない通知。
「僕たち100%だから?」
「うん。そうだよ。」
律が真剣な顔でその通知を読み返す。その顔を俊哉は祈るような気持ちで見つめていた。
律が嫌がったらマーキングは出来ない。潤は楓から許可をもらったと喜んでいた。
もしかしたら律は嫌がるかもしれない。
律と会うようになってから二か月、自分たちはとても上手くいっていると思う。
100%だけあって何から何までぴったりだ。
律が可愛くて堪らない。
でも律はどう思っているのだろうか。
この四年間のことを考えると不安になる。
「それで、律はどうかな?俺はその、律にマーキングしたい。律のことが大好きなんだ。だから…。」
「俊哉くん…。僕も大好き。いつもいろいろ僕のためにしてくれてありがとう。僕は俊哉くんがしたいならいいよ。俊哉くんの好きなようにして?」
「律!本当に?本当にいいの?…ありがとう!すごく嬉しいよ!じゃあこの書類にサインしてくれる?ここ。オメガって欄だよ。」
「はい。」
俊哉からペンを受け取った律が書類にサインをする。
すでにアルファの欄には俊哉のサインがしてあった。
身を屈めて丁寧に書類に自分の名前を書く律を俊哉は緊張した面持ちで見守っていた。
「出来た…。これでいい?」
「うん。ありがとう。」
「ふふ。で、マーキングって何?」
「えっ…」
ニコニコしながら俊哉を見る律を唖然と見つめた。
そう。律はマーキングの意味を理解していなかったのだ。
「あ、そういえば楓もマーキングが何とかって言ってた。楓も潤さんも100パーセントだもんね。」
「律、マーキング知らないの?知らないのにサインしたの?」
自分の可愛いオメガは何て不用心なんだと俊哉は驚いている。
律は無垢で純粋爛漫だ。一緒にいると自分が煩悩だらけの不純な人間に思えてくる。律のそんなピュアなところも可愛いのだが、内容を理解していない契約書にサインするのは問題だ。
律にはいろいろと教えることがありそうだと苦笑する。
「でも俊哉くんがしたいことなんでしょ?だから良いよ?僕も俊哉くんがしたいことを一緒にしたいんだ。」
「律…あのね。」
俊哉はなるべく律を驚かせないようにマーキングについて優しく教えた。
一生懸命聞いていた律の顔が徐々に赤くなる。
全部教えた時には首まで真っ赤になっていた。
「律?大丈夫?」
「え?あ、うん。大丈夫。良く分かった。待って!ということは楓も…?」
律は一人で目を白黒させている。俊哉が優しく宥めるとハッとして俊哉を見た。
「大事なことだからちゃんと考えてね?返事はいつでもいいから。」
「う、うん。あの、俊哉くんは…その、マーキングんしたいの?」
「うん。マーキングすれば安心するし、律の身体も丈夫になるし……いや、違うな。」
「え?」
マーキングしたい理由を言いかけた俊哉が律を膝の上に抱き上げた。
「律が大好きだからだ。大好きだから俺のものにしたい。」
「俊哉くん…。」
優しく律を見つめる俊哉に胸がぎゅっと締め付けられる。マッチング解除が無効になってからの俊哉は律をとても大事にして愛してくれている。
毎日連絡を欠かさないし週末はずっと一緒だ。
何の不安も不満もない。
俊哉となら…。律はチラリとマーキング許可の通知を見た。
「うん。よろしくお願いします。」
ぺこっと小さく頭を下げる。
そんな律に俊哉一瞬驚くが、意味を理解して律をぎゅっと抱きしめた。
「律!大好きだよ。一生大事にするからね。」
「ふふふ。ありがとう。」
幸せを噛み締めた二人は顔を見合わせて微笑み合った。
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