殲滅された小国の姫

とうたら

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安らぎ

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◇◇◇

 ルフは二人を背中に乗せ、精霊に先導させながら、空を駈ける。

(飛んでいるわ!!!)

 シルヴィアは歓喜に震え、マリーは恐怖に戦く。

 風の精霊が作ってくれた空気の膜がなければ、呼吸をすることも難しかっただろう。
 火の精霊が空気を温めていなければ、凍えていたはずだ。

 並みの令嬢ならば、気を失っている。そもそも、普通の令嬢は、森へ入ろうなどと思いもしないのだが。

 さて、我らがシルヴィア嬢はというと、やはり、普通の令嬢ではないようだ。

 シルヴィアは、嬉々として、この状況を楽しんでいる。何も見落とすまいと、下界をのぞき込む。

(キャー!素敵だわ!!この世界の果てまで行ってみたいわ!)

 同乗しているマリーはというと、シルヴィアを必死に守ろうとしている。実のところ、マリーは、半日の間に次々と起こった案件で、既に感覚が麻痺していた。

(考えるな、動け!シルヴィア様だけに集中しろ!)と、心の中で自分自身を叱咤激励し、シルヴィアのみに焦点を絞っている。シルヴィア命。ぶれない、頼もしいマリーである。

 愛する領地を眼下に眺めながら、シルヴィアは高揚感に打ち震えている。

 高く連なる険しい山脈。裾野に広がる広大な森。点在する大小の湖や沼。豊かな大地に横たわる大河。遙か遠くに小さく見える丘。丘の上には館、下には町が扇状に広がっている。彼方には大海が輝いている。

 なんと美しい世界!この世界を守りたい。

 シルヴィアは、決意を新たにした。

◇◇◇

 短い空の旅が終わりを迎えようとしている。

(もっと遠くへ行ってみたいわ)

 シルヴィアが残念に思っていると、耳ではなく、意識に直接語りかける声が聞こえた。

『シルヴィア。お前が望むらなら、何処へなりと今すぐ連れて行く』
(ルフは、わたくしの心の声が聞こえるのですか?)
『無論。名付けとは誓約。我は其方に傅く』
わたくしは、何をすれば良いのでしょう?)
『唯、健やかであれ』
(畏まりました)

 シルヴィアは、心から安堵した。見目は四歳の子ども。記憶は十六歳の少女。二つの記憶があるという秘密を抱え、一人で恐怖心と戦ってきた。

(ルフは、わたくしの記憶を見ることはできまして?)
『シルヴィアが望むのであれば、記憶を催合う』
(望みます)
『相分かった』

『シルヴィアの二つの魂。一つは幼く、一つは恐怖に疲弊しているが、柔靭で賢く美しい』
(ルフ。ありがとう存じますわ)

(まあ!大変なことを失念しておりましたわ)
『いかがした』
(空から帰宅いたしますと、家の者がたいそう驚きますわ)
『では、盛大にみなの度肝を抜くとしよう』
(!!!あのお、ルフ。お手柔らかにお願い致しますわ)
『案ずるな。其方を悲しませぬ』

 ルフの言葉が、シルヴィアの琴線に触れる。泣きそうな程、嬉しい言葉。

 未だ、恋を知らぬシルヴィアは、この胸を締め付けるような思いを、感動と捉えた。

(嬉しゅうございます)

 涙をこらえ、ギュッとルフを抱きしめた。

◇◇◇
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