殲滅された小国の姫

とうたら

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会いたい

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◇◇◇

 マリーは、心を鎮めようと深く息を吐き、慎重に言葉を紡いだ。

「貴族の婚姻に、本人の想いなど意味の無いことですわ」
「婚約者候補がいるのですか?」
「いいえ!おりません」

 マリーは、眩暈がするのではないか、と思うほど首を横に振り、否定した。

「ならば……、想い人がいるのですか?」
わたくしも、ノア様の事を、憎からず思っております。おりますが……、それは弟のように、という思い……ですわ」

 珍しくマリーの歯切れが悪い。自身の想いに気付いていないようだ。今は、「憎からず思っております」という言葉に満足しておくしかない。

「今は弟で我慢しますが、私に機会を下さい」

 マリーは、ナイトレイ家でシルヴィアの側付きになった時から、家を捨てる覚悟を決めていた。だが、出来ることなら実の家族を失いたくはない。もっと素直に喜びを伝えたいが、もしも、父が反対すれば、どうすることも出来ない。

 返答に窮しているマリーに、シルヴィアは話しかけた。

「マリーのお兄様とご両親が此方へ起こしになるのはいつだったかしら?」
「三日後に兄が参ります。入れ替わりで、両親が参ります」
わたくし、マリーのご家族にお会いするのが楽しみですの」

 シルヴィアの言葉に、ノアは光明を見たかのように目を輝かせた。

「シルヴィアお嬢様!マリー嬢、私も楽しみです!」
「うふふ」
「シルヴィア様。ノア様……」

 マリーは、新たな頭痛の種が芽生えたとでもいうように、両手でこめかみを押さえた。



 シルヴィアは前の人生で、恋も知らずに十六歳で命の花を散らした。

 この身に明日がある確証などないと知っている。
 一秒後の未来が、簡単に奪われると知っている。
 広い世界で出逢えたことは奇跡だと知っている。
 偶然などない、全ては、必然なのだと知っている。
 悲しみのない人生などないと知っている。

 シルヴィアは、だからこそ皆に人生を謳歌して欲しい、と切に願っている。
 無論、シルヴィア自身、神の慈悲で与えられた二度目の人生の全ての瞬間を、全力で楽しんでいる。

(ルフ。大好きよ。私を見つけくださり、ありがとう存じますわ)
『シルヴィア、千年探し求めた、我が魂の片割れツインレイ

 ルフに顔を埋め、シルヴィアは頬を伝う涙を隠した。

◇◇◇

 翌日の昼近くに、アルバートはようやく起き上がることが出来た。

「アルバート様、暫くは安静にと、ハリス医師より言付かっております」
「ノア、あの石は何なのだ。指先が触れた瞬間、魔力も意識も持っていかれた」
「御館様もシルヴィア様も興味津々のご様子でした」

「……。ノア、何かあった?」
「えっ!?あぁ……。マリー嬢に気持ちを伝えました」
「私の寝ている間に面白いことをするな!」
「面白いって……」
「で、結果は!」
「弟のように思っていると……」
「……ノア、伯爵令嬢が婚姻に即答できるわけがないよ。近々、ガルシア伯爵一家が逗留される。その間の世話役をノアに、と母上には頼んである。ノアもマリーも我がナイトレイ家の家族だ。私達兄妹を末永く支えてくれると嬉しい」
「アルバート様。外堀を埋め、必ずやマリー嬢を落として御覧に入れます。そして、夫婦でナイトレイ家に尽力致します」
「お手並み拝見させて頂くよ」

 窓から冷たく心地良い風が入ってきた。

 この二ヶ月、ナイトレイ家の変化は目まぐるしい。
 ヴィーは目覚めてから、覚醒したかのように別人になった。四歳で魔法を使えるようになったことにも、驚いたけれど、神の加護を授かるなんて、まるで御伽噺だ。それなのに、ヴィーは変わらず、毎日の鍛錬を続けている。
 ルフ師匠の御陰で、以前の様な悲壮感をヴィーから感じなくなったのは嬉しい変化だ。本当に良かった。

「ヴィーと師匠に会いたいな。部屋に居るかな」
「私もマリー嬢に会いたいです。参りましょう」

 会いたい時に会える。
 なんて幸せなことだ。

 二人は、足早に会いたい人の元へ向かった。

◇◇◇
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