殲滅された小国の姫

とうたら

文字の大きさ
35 / 51

しおりを挟む
◇◇◇

翌日

 ノアとマリーは先ず、ヨハンへの報告を終え、その足でフローラの元を訪れた。

「ノア、マリー、おめでとう。勿論このまま我が家にいてくれるわよね」
「末永く宜しくお願い致します」
「ハンナ」
「畏まりました。ノア様、マリー様、此方へ」

 ハンナは、館の一室にノアとマリーを案内した。通された部屋は、アイボリーを基調にピーコックグリーンを配した色調で、明るいが落ち着きと品のあるマリー好みの内装だった。

「此処は?」
「お二人の部屋です」

 奥の寝室には、大きな寝台が置かれていた。ドレッサールームとサニタリールームまである。

「食事や入浴、洗濯や掃除はこれまで通りです。他に必要なものや私室から運びたい家具があれば手配いたします」
「直ぐに移ってもよろしいですか!」

 ノアは喜び勇んで、ハンナに尋ねた。

「ええ、どうぞ。いつでもご自由に。それと、今お使いの、マリー様の私室は、子ども部屋に改装予定ですので、ご承知おきください」
「子ども部屋でございますか?」

 ハンナは愛おしそうにお腹に手を当てて微笑んだ。

「生まれてくる子ども達の育児室ですわ。御館様が、子守ナースメイドも雇う故、安心して産み育てよと仰せです」
「産み育てよ……」
「では、マリー嬢の荷物を早く出さねばなりませんね」

 ノアとマリーは赤面しながらも、一番気になっていた住まい問題が、あっさりと解決してしまったことに安堵した。こんなにも甘えていいのかしらと戸惑いながら、ノアもマリーも、ナイトレイ家への益々の忠誠を誓った。



 ノアとマリーの婚約は、疾風迅雷の勢いで知れ渡った。二人に秘かに岡惚れしていた者達は来るべき時が来たことを嘆いたが、やっと、収まるべきところに収まってくれた、と皆が祝福した。

 オーウェンに同行して来た隼が、エドワードの元へ知らせを届けた。予定通りの日取りで挙式を執り行うとの知らせにエドワードは我が事の様に喜んだ。

◇◇◇

 フローラの差配に不備などあろうはずがない。本人達は万全の体調で挙式当日を向かえるよう、気を付けるだけだった。だけだったのだが、マリーもノアも初めての恋人という存在に翻弄されていた。

 マリーは、〈ノア〉という言葉に過敏な反応を示す自分にほとほと参っていた。「…とに…」という言葉にドキリとした時はさすがに呆れてしまった。ノアは貞操の誓いを守ろうと必死なのか、一層、紳士に接してくれている。二人きりにならないように気遣ってくれることは嬉しい反面、寂しいと思う破廉恥な自分が恥ずかしい。人目があるのに、熱を帯びた眼差しで見つめられると、失神しそうなほど胸が高鳴り、逃げ出したくなる。制御できない感情に狼狽え、もしも、ノアに失望されたらと思うと、胸が苦しくなり、泣けてくる。

 マリー嬢の麗しさは、天井を知らないようだ。恋人になったマリーは、腕の中に閉じ込めて、誰にも見せたくない程、愛らしい。シルヴィアお嬢様に悋気を起しそうな愚かな自分が嫌われてしまわないか心配だ。マリー嬢に嫌われたら、と思うと、触れたくても触れられない。マリー嬢を捉えた瞳は、他を映すことを拒む。この世に一人だけ、最初で最後の、最愛の人。

 ノアとマリーの初々しい恋人ぶりに、周りは当てられ通しだ。廊下で二人がすれ違う瞬間、ノアが手を伸ばしそっとマリーの衣に触れ、マリーの背を見つめていた事や、その後の深い溜息までもが話の種となり、物語の様に語られている。どうやら、娯楽に飢えた者達の格好の餌食となっているようだ。

 この恋物語は当然、ナイトレイ侯爵夫妻やガルシア伯爵夫妻も大いに楽しんでいる。特にご婦人方は、毎日更新される恋愛劇の展開に夢中だ。挙式の延期を望む声が上がる事を懸念する程の熱狂ぶりである。が、当の本人達はお互いに夢中すぎて周囲の反響に気付いてもいない。

 エドワードが到着し、麗しい殿方の義兄弟愛が、この恋愛劇に花を添えた。二人の仲睦まじい姿を、周囲のご婦人方は眼福とばかりに崇めた。マリーは悋気を起した。

 余談だが、ハンナとヨハンの恋物語は王都の劇場でも一番人気を博す演目だ。著作権に関する魔法契約書を交わし、ハンナとヨハンの懐を潤している。この事を知るのは当人達とフローラだけだ。

「ノアとマリーの恋物語に皆、夢中になりそうね」
「席巻することと存じます」

 フローラはすらすらと淀みなく物語を語り、ハンナはそれを書き留めた。新たな財源が生まれようとしている。

◇◇◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

処理中です...