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3話 カキツバタ

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君に、幸運が訪れますように。

このカキツバタは君への贈り物です。

今までありがとう。

君のことは一生忘れません。




「えっと、春風瑞穂です!合コンは初めてなのでよろしくお願いします!」

「なぁ、可愛くね?」

男子共がざわざわし始める。

だけど、俺はそんなに最初は気にならなかった。

男に免疫がなさそうな雰囲気はしている。

もしかしたら友達に無理やり来させられたのかもな。

席替えになり、俺は瑞穂さんの隣になった。

「えっと、よろしくね?」

「こ、こちらこそです!」

明らかに緊張している。

まあ、合コン初めてだからそうだよな。

「同い年だから敬語はなしね?」

「あ、はい!すみません」

「だから敬語なしでいいって」

「あ、うん...」

すぐに会話が終了してしまう。

何か話さないと...

「趣味とかってあるの?」

必死に探した話題が趣味だった。

定番すぎてつまんないかもな。

「えっと、音楽を聴くのが好きかな?」

「そうなんだ。ちなみにどっかのグルーブが好きとかあるの?」

「インプレスって言う、グループバンドが好きなんですよ!あのボーカルのユウキの声が好きで!」

急に、目がキラキラしだし、ペラペラと語り出した。

その姿をみて俺は笑ってしまう。

「あ、ごめんなさい!ついつい夢中になっちゃって」

「全然いいよ。そっちの方が俺は好きだわ」

「え?私がロック系のバンドが好きって言うと、みんなつまらなさそうにするので」

「いいんじゃない?ギャップ萌え的な感じでも」

「ギャップ萌えって何それ」

「いいじゃんいいじゃん」

「じゃあ、ギャップ萌えってことにしときます」

最初は、ぶっちゃけおもしろくなさそうだなって思ってたけど、おもしろくて可愛かった。

「何て呼べばいいかな?」

「えっと、瑞穂でいいよ!」

「じゃあ、俺のことは弘樹って呼んで」

「うん!わかった!」

そうして、合コンは終わって瑞穂と連絡先を交換した。

瑞穂がインプレスのライブに誘ってくれたから一緒に行くことになった。

ライブが終わった後に俺は、瑞穂に告白をしよう決意した。


「俺さ、瑞穂の事が好きなんだ。よかったら付き合ってください!」

「うん!こちらこそよろしくね」

瑞穂はそう言い、今まで1番可愛い顔をした。


最初は、君にこんなに夢中になるだなんて思わなかった。

だけど、君と過ごしていくうちに好きが大きくなっていった。


そうして、俺は大学を卒業して就職したときに瑞穂にプロポーズをした。

瑞穂は泣きながらOKしてくれた。

「ありがとう」と言って。


結婚して3年が経った。

仕事から帰ってきたときに、瑞穂がリビングで倒れていた。

俺は、すぐに救急車を呼んだ。

瑞穂は救急車で運ばれ、入院することになった。

検査をして結果がでたが、最悪な結果だった。

瑞穂は、癌だった。

しかも全身に転移しているらしい。

寿命は3ヶ月と余命宣告されてしまった。

「私、3ヶ月しか生きられないんだって。ごめんね?」

瑞穂は、泣きそうになっているけど無理して笑う。

「無理して笑わなくていいから。泣きたい時は泣けよ」

俺がそう言った瞬間に瑞穂は、泣き崩れた。

そんな瑞穂に俺は優しく抱きしめる。

「本当にごめんね?弘樹さ、子供欲しいって言ってたよね。しかも迷惑までかけちゃって」

「そんなの今はいいから!迷惑なんていくらでもかけていいんだよ」

そのまま瑞穂は泣き疲れたのか、すぐに寝てしまった。

どうして瑞穂の体調に気がついてあげなかったのか。

そんな自分に腹がたつ。

瑞穂をもっと早く病院に連れていったら死なずにすんだかもしれないのに。

それから俺は、仕事は定時であがらせてもらい、毎日瑞穂のとこに通った。


あれから2ヶ月が経った。

瑞穂の癌は、骨にまで転移し、ご飯もあまり食べられなくなっていった。

瑞穂は、痩せ細くなってしまった。

更に1ヶ月が経ったころ、俺は仕事を休み瑞穂に付きっきりになった。

瑞穂がだんだん死に近づいているのを見ていると、とても辛くなる。

瑞穂が1番辛くて苦しいはずなのに...

そして、俺が荷物を取りに家に帰っていたときに病院から電話がきた。

すごい嫌な予感がした。

電話の内容をきいて頭の中が真っ白になった。



「すみません。瑞穂さんは...」

俺がついた頃には、瑞穂は幸せそうな顔をして眠っていた。

瑞穂が死ぬ寸前に俺がいるはずだったのに。

瑞穂を1人にしないつもりだったのに。

俺が荷物を取りにいかなければ...

「瑞穂さんが旦那様にこれをってお願いされました」

看護師さんが手に持っていたのは、可愛い封筒に入った手紙だった。

封筒をあけ、泣きながら読む。



私の最愛の人へ

弘樹がこの手紙を読んでいるってことは、私はもういないのかな?

私は、弘樹に出会えて本当によかった。

弘樹と付き合えて、結婚できて、一緒に暮らせて本当に幸せだったよ。

本当にありがとう。

弘樹と出会った合コンに行ってよかったよ。

あれね、実はね友達に無理やり連れられたの。

だけど、行って良かったよ。

あとね、子供つくれなくてごめんね。

弘樹、子供欲しがってたもんね。

だけど、この先弘樹がこの人と家庭を築きたいって想える人がいたら幸せな家庭をつくってね。

でも、私のことは忘れないでほしいな。

弘樹だけは私のことを覚えていてほしい。

これは、私の最期のお願いです。

弘樹、私は本当に幸せだったよ。

弘樹はもっと幸せになってね?

弘樹の幸せが私の幸せでもあるから。

じゃあね!

弘樹のことをお空から見てるからね!

さようなら。

今までありがとう。

瑞穂より


「瑞穂、ありがとう」

泣きながら瑞穂に抱きつく。

まだ瑞穂の温もりがあった。

温もりが段々なくなっていき、瑞穂は天国に逝ってしまった。

「瑞穂の幸せも俺の幸せだからな」

そう言ったら瑞穂が微笑んだ気がした。


瑞穂が天国でも幸せになりますように。

俺の幸せは瑞穂のものでもあるから。

俺は幸せになるよ。

瑞穂、今までありがとう。

さようなら。



fin



カキツバタの花言葉
「幸運は必ず来る」
「幸せはあなたのもの」
「贈り物」






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