綺麗な花には、棘がある ~短編集~

なる

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12話 アルストロメリア

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昨日、お母さんとお父さんの会話を聞いてしまってから、家に帰りたくなくなった。

「あら、あの子まだ勉強しているの?」

「ああ、第一志望校目指せって俺が言ったからな」

お母さんとお父さんは、僕の話をしている。

「まぁ、ピアノはやめて正解よね」

「そうだな。ピアニストになんて、なれるわけないからな」

「そうね」

そんな会話を聞いているだけで、腹がたってくる。

ピアノは、最終的には僕がやめるって言ったからやめたんだけど。

「あんたは、私に恥をかかせるつもり!」

バシッと棒やなんかで背中を叩かれる。

「ご、ごめんなさい」

苦い思い出が蘇る。

これは、僕が小さい頃の話だ。

先生の思い通りに弾けなかったら、いつも叩かれていた。

それを、両親にも言ったが、相手にしてくれなかった。

「おまえが、先生の言う通りにしてないからだろ」って言われた。

それからは、 コンクールの成績が良くなければならない、先生の前では失敗してはならない、という恐怖の中で続けていた。

だけど、ピアノをやめてしまった。

最初は、楽しくてピアノを始めたつもりだったのに。

本当は家に帰りたくないが、そろそろ帰らないと怒られてしまうので重い足を動かす。

帰ろうとして、下駄箱のほうに行くと、ピアノの音がきこえた。

それはそれは、とても楽しそうなピアノ。

僕は、ピアノの音に夢中になってしまい、自然と音楽室に足を運んでいた。

ピアノを楽しそうに弾いていたのは、小さな妖精さんだった。

一瞬、夢でも見ているのかと思ったが、頬をペチっと叩いても痛かった。

小さな妖精さんは、ジャンプをして踊りながら弾いている。

ああ、手が疼いてしまう。

違う。僕は、ピアノをやめたんだ。

もう、あんな思いはこりごりだ。

妖精さんは、こっちに気がついたみたいなのか手を縦にふって、おいでおいでしてくる。

信じられないことだけど、この現状は信じざる得なかった。

「こんにちは」

僕が挨拶をすると、ニコニコして妖精さんは、手をひらひらふる。

喋れないのかな?

すると、妖精さんはその場でジャンプジャンプしだす。

それは、まるで弾いてって言ってるみたいだった。

「もしかして、弾いてって言っているの?」

うんうんと、頷く妖精さん。

「ごめん。僕はもう弾かないんだ」

僕がそう言うと、とても残念そうな顔をする。

その顔をみて、僕は罪悪感がつもる。

「じゃあ、少しだけね?」

そう言ったら、妖精さんは嬉しそうにする。

久しぶりにピアノの鍵盤に触った。

ビリビリと電気が走る感じがした。

僕が1番好きな、モーツァルトのトルコ行進曲にしよう。

僕が弾きだしたら、妖精さんは手を叩きながら踊り出す。

踊りは、とても可愛らしかった。

久しぶりに弾いたピアノは、とても楽しい。

こんなに楽しいのは、ピアノを始めた頃のとき以来。

久しぶりだから、指がつりそうだ。

だけど、指がつりそうでも弾くのをやめなかった。

楽しすぎて、やめられなかったんだ。

「大丈夫?」

妖精さんは、ものすごく疲れたのか、ぐったりしていた。

「大丈夫大丈夫」と言っているのか、ニコニコして首を縦にふる。

「妖精さん、ありがとう」

僕は、心から妖精さんに感謝の言葉を言った。

妖精さんは、手をグーにし、両手を縦にふった。

「頑張ってって言っているの?」

妖精はんは、うんうんと、元気よく頷いた。

「ありがとう」

僕がそう言ったとき、妖精さんが羽をパタパタと広げ、僕の額にチュッとキスをした。

お別れのキスだろうか?

そしたら、妖精さんは満足そうに音楽室の窓から飛んでいってしまった。

この日の出来事は、僕自身を変えてくれた。

夢に向かって再スタートすることができた。





「ありがとうございました!」

と、僕は心の中で唱え、観客に深くお辞儀をする。

僕は、妖精さんに出会った日からまたピアノを1からスタートしたんだ。

そして、晴れてピアニストになることができた。

ここはまだ、スタート時点。

これから先、何が待ち受けているのか分からないけど諦めずにやってのけたい。

すると、キラキラとしたものが降ってきた気がした。

妖精さんが見に来てくれたのかな?

妖精さん、これからも見ててね。



fin


アルストロメリアの花言葉
「持続」
「未来へのあこがれ」
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