綺麗な花には、棘がある ~短編集~

なる

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13話 アネモネ

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「何かの衝撃や、きっかけがあれば治ると思いますよ」

私の担当医がそう言う。

何回も同じことを言っている。

衝撃や、きっかけがあれば本当に治るの?

今までのお医者さんだって毎回毎回同じことを言う。

もう、うんざりだ。

私は、「分かりました」と、紙に書いて医者にみせる。

そして、病室に戻った。

そう、私は喋れなくなってしまった。

その原因は、交通事故で。

治らないのなら、治らないとハッキリ言ってほしい。

そんなイライラしているときに、コンコンとノックの音が聞こえる。

はぁ、めんどくさい。

と、思いつつも開ける。

「あの、隣の病室に入ってきた神崎と言います。あの、よろしくお願いします」

「こちらこそお願いします」と、紙に書いてみせた。

神崎さんは、一瞬、驚いていたけど笑顔で「では」と、言って隣りの病室にも挨拶にいった。

ぶっちゃけ言うと、凄いタイプだった。

だけど、喋れないからどうしようもないだろう。

恋愛なんて今は、する気になれない。

だって、好きな人に「好き」とも言えないのだから。

次の日、神崎さんが私の病室に来た。

「オススメの場所があるんですけど行きませんか?」

「いいですよ」と書いた紙を見せたら、嬉しそうな表情をした。

だけど、どうして私なんだろうか...

まぁ、病室にいてもする事ないから、誘ってくれて良かったけど。

そうして神崎さんが、連れてってくれたのは、海辺だった。

今の時間帯だと、丁度夕日とマッチングしていてとても綺麗だった。

「どうですか?」

神崎さんは、私の顔をのぞき込む。

その仕草に思わずドキッとしてしまう。

私は、綺麗ですと紙に書いて頷く。

「よかったです」

神崎さんは、嬉しそうにする。

私は、神崎さんのことが好きになっちゃいそうでこわかった。

本当は、もう好きになってしまったのかも知れない。

私は、神崎さんのことを横目で見ると、神崎さんは今にも泣きそうな顔をしている。

どうして、そんなに悲しい顔をするのか分からないのだが、私はそっと神崎さんの事を抱きしめる。

だって、今にも消えそうだったから。

「大丈夫ですよ?」

神崎さんは、そう言って無理して笑う。

とても悲しくて辛そうな。

何かしてあげたいけど、何にもしてあげられなかった。

いや、こわくて何にもしなかったんだ。

いつも私は、自分のことばかり。

神崎さんのことを本気で好きになりたくなかったから。

そうして、あまりにも突然に神崎さんは、居なくなってしまった。

私は、神崎さんの前で思い切り泣いた。

きっと、人生で1番泣いたであろう。

「どうして何にも言わないの!」

私は、大声でそう言った。

目を瞑っている神崎さんに。

そうして、神崎さんの死をキッカケに私の声が戻った。

だけど、声が戻っても、ちっとも嬉しくなかった。

私にとって、神崎さんを失った悲しみの方が遥かに大きかったから。

もし、神様と取引をするならば、私の声と神崎さんを取り替えてほしい。

神崎さんが戻ってきてくれるなら、私の声なんていらない。

「菊川さん」

後ろから私の名前を呼ばれる。

その声は、私の担当医だった。

きっと私の顔は、酷かっただろう。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているに違いない。

「神崎さんは、菊川さんのことを想っていましたよ。だって、彼はあなたに一目惚れをしたらしいんです。そして私は、あなたの声のことを彼に話しました」

「そんな...」

神崎さんは、本当に何にも教えてくれないんだな。

だけど、私は神崎さんに本気で恋をしてしまったんだ。

本当に僅かな時間だったけど忘れることはないでしょう。

私は、神崎さんにキスをした。

「私もあなたのことが大好きです」

と、そう言った。



fin


アネモネの花言葉
「儚い恋」
「恋の苦しみ」
「見捨てられた」
「見放された」

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