綺麗な花には、棘がある ～短編集～

15話 ケイトウ

人魚と人間は、いがみ合う関係である。

どうしてかって言うと、それは人魚は生きるために人間を食すからだ。

だけど、ある日人魚と人間は恋に落ちてしまった。

そんな彼らの悲しく、幸せな物語。



僕は、ある日人魚に恋をした。

決して恋をしてしまってはいけない相手に。

だけど、愛してしまったんだ。

愛してしまったんだ。

君に......


「ねぇ、どうしてまた来るの？」

尾をパタパタさせながら君は言う。

その尾は、人魚である象徴だった。

「んー、暇だからさ」

「暇人なのね」

「まあね...」

暇人ではないけれども、君に会い来ているとは口が裂けても言えないだろう。

「今日は何のお話をしてくれるの？」

彼女は、目をキラキラさせながら言う。

そんな姿が、とても可愛らしく見える。

まあ、好きだから可愛く見えるのだろうけれど。

彼女がどんな仕草をしていても、可愛いんだ。

「今日は、僕の友達の奏汰の話でもいいかな？今日ね......」

と、僕は今日の出来事を赤裸々と話す。

そんな僕の話を楽しそうに聞いてくれる彼女。

そして、僕の話が終わったら彼女は真剣な顔をして僕の目を見つめる。

「ねぇ、あたしね人間になりたい。そして琉斗と一緒にいたい」

「それ...は無理だよ」

僕がそう言うと悲しそうな顔をする彼女。

だって、嘘をいってもどうせ悲しませるだろう？

それなら本当のこと言ったほうがいいだろう。

「そうよね...ごめん。変なこといって」

「僕だってそう思ってる。君と一緒に居れたらって」

「ありがとう琉斗」

そう言って彼女は、頬を赤く染める。

「だけど、僕は君とは一緒に居られない」

「どうして？」

「それは...まだ言えない...だけど、これだけは言う。僕は、ずっと君のことが好きだ。愛してるよ」

「うん...私も愛してる...琉斗にどんな事情があっても私はずっと好き」

2人は、微笑みあった。




僕は、あと１年後に死ぬだろう。

僕は小さい頃から膵臓が悪い。

だから彼女とは、一緒に居ることは出来ない。

だけど、死んでから彼女を見守ることはできるだろ？

だから、ずっと一緒に居るってことは嘘ではないんだ。



そして、僕の寿命が後２ヶ月になる頃だった。

「ねぇ、顔色悪くない？」

僕は彼女にそう言われて顔を引きつってしまう。

「そうかな？徹夜してるからかな？」

「そう...それならいいけど...」

不満そうな顔をする彼女。

本当のことを言わないときっと傷つけてしまうのに。

彼女を悲しませてしまうのに...。

急に、ドクンと心臓が鳴る。

なんだか胸が苦しくなる。

目の前がくらくらとしだす。

「ごめん！今日は家に帰るね」

「え？どうして？」

彼女は、運良く僕の体調の異変に気づかなかった。

「用事があるの忘れてた！」

そう言って、僕はその場を急いで離れた。

細い道を入っていって、その場で倒れ込む。

「っつー、ハァ」

胸を抑えて頑張って息を吸う。

「もう、そろそろなのかな」

僕は、だんだんともうすぐ死ぬっていう実感が湧いてきた。

そう思ったとき、ふいに彼女の笑顔を思い出す。

彼女の笑顔がもうすぐ見れなくなるっていうのは寂しいな...

彼女の色んな顔、思い出を思い出したら悲しくなり、その場で涙をながした。

「ねぇ、琉斗なにしてるの？」

僕が泣いていると、彼女が後ろから声をかける。

「どうしているんだよ！」

彼女の足を見ると、それは人間の足だった。

「琉斗、もう死ぬの？」

「うん。死ぬよ」

「そう...」

彼女がどうして人間になっているのかは分からない。

「どうして足があるんだよ！」

「人魚は人生で1度だけ陸に上がることができるの」

「そんなの聞いてない！」

「言ってないからね」

「あ、ごめん」

僕は、気が立ってつい怒鳴ってしまう。

「ねぇ、琉斗の願いはなに？」

「僕の願いは...ただ一つだよ」

「それは...？」

彼女が、僕にそう尋ねると周りが一瞬で海に変わる。

「それは...君と一緒にいることだ」

「そう...それなら良かった」

彼女は、そう言って僕にキスをする。

「ごめんね？これしか琉斗と一緒に居られ方法がないの...」

そう言いながら、彼女は僕のことを海に引きずった。

これで、彼女と僕は一緒にいられるようになった。



人魚の愛のキスはキスをした相手の願いを１度だけ叶えることができる。




fin


鶏頭の花言葉

「色あせぬ恋」
「おしゃれ」
「気取り屋」
「風変わり」
「個性」