綺麗な花には、棘がある ~短編集~

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17話 カスミソウ

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午後2時57分、〇〇中学校の修学旅行生が乗っているバスが転落事故しました。

今のところ、意識不明は1人。

死亡者が32人。

意識不明の人以外は、お亡くなりになってしまいました。


午後のニュースのお知らせでした。




私は、目を覚ますとそこは何にもない空間だった。

辺りは真っ白で、ずっと先が何にも見えない。

ああ、私死んだのか...

「やっと起きたか」

後ろから声を急にかけられ、キャッと小さい悲鳴をあげてしまう。

「誰?」

私の後ろにいたのは、真っ黒いスーツをきちんと着こなした男の人だった。

「俺は、おまえを成仏させるためにサポートをする人だ」

「はぁ?成仏?どういうこと?」

全くと言っていいほど状況が分からない。

そりゃ、分からなくて当然だと思うけど。

「だから、ここは成仏ができていないやつが来るとこなんだよ」

若干イライラしながら言う。

知らねーよと思いつつも、そんなことは口に出せるわけがない。

「そうなんですか...」

納得はできた。

「おまえの心残りはなんだ?」

黒スーツの人が面倒くさそうに尋ねる。

この人やる気ないなって思うけど仕方がない。

「私の心残りは...優太に好きって言えなかったこと...」

「ほう...そりゃ難関な心残りじゃねぇか」

ニタッと不気味な笑みを浮かべる。

「優太はどうなったんですか!?」

そういえば私は事故にあったんだ。

修学旅行の帰りのバスで。

私は、死ぬ前のときのことを覚えている。

私の目の前に大きい鉄の破片が飛んできたんだ。

きっと、それにぶつかって死んだんだろう。

だけど、転落事故だから優太はもう...

「優太というやつは生きてるぞ?」

「え?本当!よかったぁ...」

胸をなでおろす私を見て彼は、笑っている。

「なに、笑ってんですか!」

「いや、べつに」

この人は信じられない。

もしかしたら、優太だって死んでるかもしれない。

この人が嘘をついている可能性だってある。

「じゃあ、心残りを解消していこうじゃねぇか...はぁ、めんどくせぇ」

「あの、もう本音でてますけど?」

「だって、本当にめんどくせぇんだよ。お前みたいなやつは特にな」

「なにそれ?どうゆうこと?」

「お前は知らなくてもいいことだ」

そう言って彼は、教えてくれなかった。

「ねぇ、名前は?」

「名前なんかない。適当に呼んでくれ」

「ふーん、じゃあシロね」

「はぁ?なんでシロなんだよ?普通クロじゃないのか」

「そのままだとつまらないから、逆のシロでいいかなー?って思って」

「あっそ、好きに呼べ」

「言われなくても好きに呼びますよー」

「ふん、ほら行くぞ」

そう言い、シロは私の腕をひっぱった。

「え?どこに?」

「はぁ?おまえ告白しに行くんだろ?ほら、ちゃっちゃとやれよ」

「はぁーーー!何言ってんの!無理でしょ!私、死んでるんだよ!」

「それは問題ない。だから早く行け!俺の仕事を増やすなよ!」

何言ってんだこいつは...

いい加減殴りたくなってきた。

「何言ってんの!何が問題ないよ!あんたの頭は問題有りまくりじゃないの!」

「じゃあ、ここにずっと居ろよ」

「まず、どうやって優太と会うのよ!」

そもそも死んでる人間が生きてる人間に会えるわけないだろう。

「それは、成仏するのに1回だけ願いことができるんだよ。それでその優太朗やらに会いたいって願えばいいだろ」

「そーゆー、大事なことは先に言ってよ!」

「べつに、いつ俺が言おうが構わないだろ!」

「あんたってやつは...顔はいいんだから、性格ぐらい何とかしなさいよ!」

「なんだと!お前にとやかく言われる筋合いねーだろ!生憎俺は女には困ってねーから」

「さぁーて、どーかね?」

私は、挑発的な態度でものを言う。

だってこんぐらい言わないと気が済まないじゃない?

「勝手にやってろよ」

シロは面倒くさくなったのか、投げやりになる。

そりゃそうだ。

「じゃあ優太のとこ連れてって」

「しょうがねぇな」

そう言いシロは私の手を握る。

不覚にもドキッとしてしまう。

まあ、顔だけカッコイイから誰だってキュンとかドキッとかするだろう。

「じゃあ、行くぞ」

そう言いシロは目を瞑った。

その瞬間周りが、光り始めた。

眩しくなり目を瞑った。

だんだん光が消えてったのか目を開けるとそこは、学校の校庭の近くだった。

校庭をふと見ると優太がいた。

優太は楽しそうにサッカーの練習を皆としていた。

ああ、いいな。

私もあの中に混じりたい、前みたいに。

「早くしろよ。適当に会いたいって願えば叶うから」

シロは頭を掻きながらそう言うと、どっかへ歩いていってしまった。

あれは、絶対サボリだな。

「優太に会いたい」

私は、ひたすらそう願った。

私が目を瞑りながら、そう願っているとサッカーボールが転がってきた。

「すみませーん!」

その声は優太だった。

優太は私のことが見えているのか分からないが、私のことを見ている気がする。

「え?香苗なのか?」

優太は信じられないような声で言う。

そりゃそうだ。

私死んでるんだもの。

「優太?私のこと見えているの?」

「ああ。どうして香苗が?」

早く伝えなきゃ。

告わないといけないのに。

「えっと...私優太に言いたいことがあって...」

「俺も言いたいことあったんだ」

「え?言いたいこと?」

「ああ、俺が先に言うな」

優太はそう言って付け足す。

「俺は香苗のことが好きだ」

「え?本当?」

「ああ、本当だ」

「香苗は?」

「うん!私も!優太のことが好き!」

「そっか...」

優太は、複雑そうな表情をする。

その表情をする意味がさっぱり分からなかった。

いや、分かっていたんだ。

だって、私死んでるんだ。

じゃあ、ダメじゃんか。

そう思ってるときだった。

「おい、ちゃんと告白できたか?」

シロがいきなり出てきてそう言う。

「はい、できました」

優太はシロにそう返す。

へ?優太はシロのこと見えるの?

「じゃあ、ネタバラシするからな」

シロは、そう言ってニタッと笑う。

ああ、この人のこの顔は楽しんでるときの顔だ。

私は、心底シロのことが嫌いになったと思う。

「どうゆうこと?ネタバラシって」

「それはな...お前はまだ生きてるんだ」

「はぁ?何言ってんの」

意味が分からない。

私が生きてる?

じゃあ優太は...?

「それで優太は死んだんだ。お前以外は皆死んだんだ」

え...?

何言ってんの?

「ねぇ!優太!嘘だよね!」

私は優太に必死にそう言う。

「ごめん。本当のこと」

優太は申し訳なさそうに言う。

なにこれ。

私のこと騙してたの!?

「これはお前のことを思ってやったことだからな。優太の心残りは、お前に告白できなかったことだ。そして幸せになってほしいという心残りだ」

「優太...」

私は、我慢出来ずに泣いていた。

きっと今までで1番泣いていると思う。

「ごめんね香苗...。だけど俺は香苗に幸せになってほしい」

「うん...」

「お前は、生きるか死ぬか選択しろ」

「生きるか、死ぬか...」

「ああ。どっちかだ」

「生きる。私生きて幸せになる。それが優太の心残りだから」

「ありがとう香苗」

「ううん。いいの。こちらこそありがとう優太」

「本当に生きるでいいんだな。二言はないぞ。もしかしたら手や足がなかったり、顔が変形してるかもしれないんだぞ」

「そんなこと言わないでよ!それでも優太の分まで生きる!」

私がそう言ったらシロは、フフッと笑った。

とても綺麗な笑い方をするんだ。

そんなシロの笑顔にびっくりしてしまう。

「じゃあ、楽しんで生きてこいよ」

シロはそう言う。

「香苗!幸せにな!」

優太の目には涙か浮かんでいる。

「うん!2人ともありがとう」

「じゃあな」

シロがそう言った瞬間、私は目を覚ました。

「香苗!起きたのね!」

横には、お母さんが目をくまだらけにしていた。

「うん。おはよう」

おはようって言うのも変かもしれないが、何て言えばいいのか分からなかった。

「お母さん!鏡かして!」

「え?鏡?」

お母さんは、カバンから手鏡を取り出してくれた。

私は、恐る恐る自分の顔を鏡に写す。

「はぁー、なんだよ。普通じゃんか」

よかった。

何にも異常なくて。

シロは、本当に意地悪だな。

だけど、シロありがとう。

そして優太ありがとう。

みんなみんな大好き。





fin



カスミソウの花言葉

「清らかな心」
「無邪気」
「親切」
「幸福」


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