28 / 132
第二章 私は笑顔の下で牙を剝く
冒険者ギルドの実技試験(2)
しおりを挟む魔力操作で通常より遥かに目を良くしたのに、ジェイクの姿を完全に捉えることはできません。残像か蜃気楼のようです。
それでも、なんとか攻撃を凌げているのは、勘というか、反射神経ですね。ある程度様になってからは、ほぼ実戦形式だったおかげです。
「おら、おら、どうした!? この程度か!?」
すっごく凶悪な顔で、ジェイクは打ち込んできます。
確かに、このままだと勝ち目はありませんわ……あれ? 頭で意識するより早く身体が動いている。情報がなくても動けてる。なら……
「これで終わりだ!!」
鋭く重い一手。
完全に私の死角からの攻撃。
私は一歩、右に避けます。そして、今度は躱さずジェイクの一撃を受け止めました。
強化魔法を掛けていても、大の大人。それも、元冒険者の一撃はとても重く、気を抜いたら、完全に両腕は潰れるほどの威力でした。
「ほぉ~目を捨てたか」
ジェイクはそう呟くと、木剣を収めました。
「……えっ」
「時間切れだ」
そう言われても、身体が痺れて動きません。ジェイクはそれを見て、愉快そうに笑いながら、私の両脇に手を入れ抱き上げると、ゆっくり下ろしました。
痺れは少し残るけど、緊張が解けたのか動けます。荒療治ですね。
呆けている私の頭を撫でながら、ジェイクは訊いてきました。
「大したもんだ。相当な場数をこなしているな。で、シア、何故目を捨てた?」
「途中で気付いた。目が邪魔だと」
「確かにな、でも、普通はできないけどな。あと、何故受け止めた? 受け流す事ができただろ」
ジェイクの言う通り、受け流すことはできました。
「意地」
そう答えたら、頭をくしゃくしゃにされました。
「負けん気強すぎるだろ。気に入った。今度は、より実戦形式で手合わせしてやる」
ぽんぽんと叩かれ、背を向けるジェイクに、私は慌てて「ありがとうございました」と言い、頭を下げました。
「おう、このあとも頑張れよ」
「はい!!」
両手は真っ赤で、ローブも靴もぼろぼろになったけど、すっごく、すっごく、楽しかったです。
「引き続き、魔法適性の実技に移る」
試験官の声にハッとした私は、慌てて木剣を返しに行き、中央に向かいました。
集まったのは十人ぐらいです。
あれ? 思っていたより、人数少ないような……併用して受けるって思ってたのに。
「君、そのままで大丈夫か? あちこち、切れているが」
試験官は私がいるのを見て、訊いてきました。
興奮してたから、あまり痛み感じなかったみたい。頬に痛みを感じて手をやると、ヌメッとした感触が。
「問題ない」
私は全身に治癒魔法を掛けてから、クリーン魔法を掛けます。服のぼろぼろは直せないけど、汚れはなくなりました。
「無詠唱か……」
やけにざわざわしてますね。試験官は驚いてるし。努力すれば、無詠唱なんて誰でもできるのに、何故驚いているかわかりません。
「お~い、さっさと始めろ」
ニヤニヤ笑いながらやじを飛ばすジェイクを、試験官は睨み付けてから、試験内容を説明し始めました。
「今から、的を五つ用意する。得意な攻撃魔法で壊せ」
用意された木の的。
この実技試験、考えた人って、かなりの曲者ですわ。魔法付与されてた木剣といい。中央の的だけ魔法耐性が付与されてますわ。
人の心理から言えば、五つ的を用意されても、まず攻撃するのは中央の的。それから、隣の的を狙うものですわ。現に、受験者たちは皆そう。一度の攻撃で壊れなくて、何度も何度も攻撃する人もいれば、すぐに気持ちを切り替えて、違う的を攻撃する者もいます。でも、最後は魔力切れを起こしかけてますね。
今回も、私は最後でした。配慮してくれたのかもしれません。
「試験官、壊せればいいのか?」
「ああ。方法は問わない」
「わかった」
火球でいいかな。
私は右手を前に出し、初歩魔法の火球を五つ同時に展開します。そして、それを一斉に放ちました。
「全ての的を一斉攻撃……ましてや、無詠唱の初歩魔法で……あれは、初歩魔法では壊すことなど……」
試験官の呟きが耳に届きました。
「確かに初歩魔法だけど、込める魔力の量を増やせば、攻撃力は増す」
「理論上はそうだが……」
納得できなさそうな試験官に、私は続けて言いました。
「無詠唱もそう。イメージを頭で想像できていれば、できる。死ぬほど、練習が必要だけど」
「つまり、死ぬほど練習したってことか」
「冒険者になって、生き残るなら必要。そしてなれたら、プラチナを目指す」
私がそう告げると、ジェイクが笑いながらやってきて、私の背中をバシバシと叩きました。
「おっ、自然に強化魔法掛けてるな」
「痛いから」
「悪い、悪い」
ちっとも思ってないでしょ。
「これにて、実技試験終了する。十分後、合格者を発表するまで、ここで待機」
試験官はそう告げると、ジェイクと共に奥に消えました。
休んでいた受験者たちが次々と戻ってきます。皆、私を遠巻きに見てヒソヒソと話していました。
完全に、私はこの中で異物扱いね。そんなこと、別にどうでもいいですわ。
私は端に移動し、大人しく座って待っていると、大きな影が足元にできました。
「何?」
うっとおしくて顔を上げると、物理の試験前に私をやじってきた男が立っていました。
「なんで、盾の所に木剣があるのがわかった?」
もしかして、ズルしたと思ってるのかしら。ちょっとムカつくけど、スルーは駄目ですね。だって、この人……
「魔力を感じたから」
「魔力?」
「微量だけど。他の武器には一切感じなかった。気になったから、探っただけ」
「じゃあ、実技試験前に臨戦態勢を取ったのは?」
いくつ、質問してくるの。
「全身がザワッとしたから。無意識でしていた」
「つまり、僅かな殺気を感じ取ったわけか」
考え込んでいる男に、今度は私が尋ねました。
「私も質問していいか?」
「なんだ?」
「どうして、冒険者が試験を受けている?」
私がそう尋ねると、静かだった訓練場がざわめき出します。男は吃驚した顔で私を凝視していました。
「それはな、こいつも試験官だからだ。で、どうだ?」
代わりに答えたのは、ジェイクでした。
「異論はありません」
「だな」
試験官二人とジェイクが並んで立ちます。
受験者たちは皆、中央に移動しました。全員が移動したのを確認してから、試験官が口を開きました。
「今回の実技試験。合格者は一人、シア」
今、私の名前が……合格したんだよね……本当に、合格したの、私。
「何、呆けてる?」
ジェイクが私の頭をポンポン叩きます。
気が付くと、受験者は誰一人いませんでした。
「……信じられなくて」
「あれだけのことをしたのにか?」
強面だけど、ジェイクってよく笑う人ですね。
「何故、俺が冒険者だと気付いた?」
「臨戦態勢をとったことに気付いていたから。普通は、後ろに手を回したしか思わない。それに、タイミングがよすぎた。あとは――」
「まだあるのか!?」
被せ気味に、冒険者が言います。
「ジェイクと戦う時、明らかに手を抜いていた」
私がそう答えると、冒険者は頭を抱えて座り込みました。
「まだまだだな、キョウ」
この人キョウっていうのですね、覚えときましょ。
「この子、規格外すぎますよ」
規格外? 私が?
「いいじゃないか、規格外。じゃあ、行こうか、シア。ギルマスが待っている」
私は三人の試験官に案内されて、私は階段を上り一番奥の部屋に向かいます。途中、やたら注目されましたね。
ジェイクはノックもせずにドアを開けます。
あれ? 誰もいない。
「さすがの規格外もわからなかったか。アシュリッタ冒険者ギルドにようこそ。歓迎するぜ、シア。俺がこの支部のギルドマスターだ。宜しくな」
ギルマスの机にもたれながら、ジェイクはいたずらっ子のように笑います。
「…………ジェイクがギルドマスター」
え~~!! ということは、ギルドマスターが、試験官に紛れて実技試験に参加したってことですよね。手も足も出ないわけですよ。
あ~でも、ほんとに楽しかったです。
999
あなたにおすすめの小説
奪う人たちは放っておいて私はお菓子を焼きます
タマ マコト
ファンタジー
伯爵家の次女クラリス・フォン・ブランディエは、姉ヴィオレッタと常に比較され、「控えめでいなさい」と言われ続けて育った。やがて姉の縁談を機に、母ベアトリスの価値観の中では自分が永遠に“引き立て役”でしかないと悟ったクラリスは、父が遺した領都の家を頼りに自ら家を出る。
領都の端でひとり焼き菓子を焼き始めた彼女は、午後の光が差す小さな店『午後の窓』を開く。そこへ、紅茶の香りに異様に敏感な謎の青年が現れる。名も素性も明かさぬまま、ただ菓子の味を静かに言い当てる彼との出会いが、クラリスの新しい人生をゆっくりと動かし始める。
奪い合う世界から離れ、比較されない場所で生きると決めた少女の、静かな再出発の物語。
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
二度目の人生は離脱を目指します
橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。
一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。
今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。
人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。
一度目の人生は何が起っていたのか。
今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。
精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?
あーもんど
ファンタジー
精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。
彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。
ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる