上 下
2 / 46
第一章 これって異世界転移だよね

第一話 忌み子は最後もぼっちです

しおりを挟む


 日本の暦で言うと、五年以上前になるかな。なんせ、こっちの世界の五倍の速さで時が流れてるから。うん。それぐらい前になると思う。

 五年前日本の暦での一月十一日、私、千葉ちば睦月むつきは高熱が原因で死んだ。

 もう一回言うけど、確かに死んだんだよね。さすがに最後は苦しかったけど、間違いなく死んだよ。

 十四歳になったばかりだったかな。名前で分かるでしょ。

 死因?

 それは分かんない。なんせ、病院には行ってなかったからね。

 たぶん……これは想像だけど、インフルエンザが原因じゃないかな。双子の兄が一週間前にかかって学校を休んでたからね。時期的にみて、移ったんだと思う。

 インフルエンザって危険な病気だけど、適切な治療をしたら危険じゃなくなる病気だよね。

 抗生物資を飲んで大人しく寝てたら治るし。ましてや、免疫力が低い子供やお年寄りでもないし、持病があったわけでもない。

 でもまぁ……それは、あくまで普通でだよね。

 そう意味では、私の生活環境は全然普通じゃなかった。

 幼少時に起きたある事件が原因で、両親は〈私〉という存在に恐怖した。

 結果、育児放棄。

 それは年をおうごとに酷くなっていった。そういうのを、ネグレクトって言うんだよね。確か。

 完全に何もしなくなったのは、死ぬ三年ぐらい前だったかな。それまでは、最低限のことはしてくれてたんだけどね。最低限だけど。

 まぁ……色々、無理がたたったんじゃないかな。若くてもね。

 ウィルスに体が耐え切れなかったんだと思う。栄養状態も悪かったしね。それが真実であり現実なんだと、今は素直にそう思えるようになった。そこまで割り切れるものかって、思われるかもしれないけど、諦めれば意外と割り切れるもんよ。

 そうそう。私が死んだ日のことを少し話そうかな。

 私が死んだちょうどその日、不幸にも祖父の通夜だった。

 祖父が死んだことを知ったのは、学校に着いてから。それも赤の他人からだった。

「千葉。今晩、じいさんの通夜だろ。兄さんたちはもう帰ったぞ」と、先生から呆れた口調で言われて、私は始めてこの時祖父が死んだことを知った。

 この時点で、体調は最悪だったよ。立ってるのもやっとな状態だった。

 だったら、何で学校に来たのかって?

 保健室で寝ようと思ってたんだよね。ベッドがあるから。でも、先生にそんなこと言われたら、保健室で寝ることは出来ないでしょ。しょうがないから、保健室で寝るのを諦めて、私は重い体を引きずるようにして家に帰ったんだよね。こんなことなら、始めから床で寝てた方がマシだったよって、後悔しながらね。

 家に誰か残ってるなんて、始めから思ってもいなかった。

 現に誰一人いなくて、家に入ろうとしたら、いつも置いてある場所に鍵が置いてなかった。慌てて置き忘れて行ったらしい。鍵はいつも兄がこっそり置いてくれてたからね。合鍵を作りたくてもお金がなかったから作れなかったし、正直助かってた。

 だけど、こんな日に限って鍵はない。

 当然、彼らが帰って来るまで私は家の中には入れない。

 あ~~真冬の寒空の下で、何日も過ごすんだ……。

 馬鹿でも分かる未来だよね。もう、笑うしかないよ。

 縁側に座ると窓を背に崩れる。

 もう限界だった。

 体も、心も……何もかも。

 とてもとても寒い筈なのに、段々寒さを感じなくなってきた。辛さもだるさも、次第に感じなくなっていく……。

 …………逝く時も、一人なんだね。

 全てを諦め掛けた、まさにその時だった。

 体に力が入らなくて、ただ座り込んでいるだけの私の手の甲に、冷たいものがそっと触れたんだ。

 私は空を見上げる。

 重く暗い雲が空一面覆っている。ちらほらと雪が降り始めた。

 雪が私に触れて溶けていく。

 雪と同じ様に、私の命も少しずつ、だが確実に零れ落ちていった。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,954pt お気に入り:1,606

転生ババァは見過ごせない!~元悪徳女帝の二周目ライフ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,985pt お気に入り:13,488

手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,120pt お気に入り:2,526

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,691pt お気に入り:5,980

処理中です...