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第三章 働き始めていきなりこれですか
第一話 なんでも本屋
しおりを挟む百段以上続く細い石畳の階段の頂上に、伊織さんが経営する本屋があった。
外観は蔵だが、店内は温かみがある木造で統一されている。
【常世】唯一の本屋さんだ。
趣があって良い本屋だと思う。だけどね。
この本屋の店名を聞いた時、思わず「マジですか?」って訊いちゃったよ。だって、『なんでも本屋』だよ。ふざけてなかったら、超残念な壊滅的なネーミングセンスだよね。うん。苦手なものが誰にでもあるんだって実感した。
でもね。
この本屋は、そもそも伊織さんが始めたものじゃなかったんだって。先代から受け継いだものだって、この前小町さんから聞いた。ということは、先代のネーミングセンスが最悪だったわけだ。
何でも取り揃えることが出来るから、先代は『なんでも本屋』という店名にしたらしい。自信があるのは分かるよ。でも安易っていうか……もうちょっと捻ろうよ。
代替わりしても、分かり易いから、伊織さんは敢えてそのままにしてるって、小町さんが教えてくれた。定着しちゃったんだね、その残念な店名。
この本屋で取り揃えているのは、絵本から漫画(日本の物も)、古代史に文芸、あらゆる分野の著作物。果ては、魔法書と呼ばれる怪しげな類いの書物まで、多種多様に亘っている。
因みにこの前、ここを突撃した子供たちが買って行ったのは、私でもよく知ってる超有名な週刊漫画の雑誌だ。
伊織さん曰く、特別な入手ルートがあるんだって。
ここ一応異世界だよね。ほんと、不思議な本屋。仕組みに関しては、伊織さんも小町さんも詳しくは教えてくれなかった。
伊織さんに認めてもらえたら、教えてくれるのかな……。仕方ないけど、ちょっと寂しい。でもだからかな、頑張ろうって思えるんだ。
まだまだ教えてもらえないことは多いけど、それでも実際に生活していて知り得ることもただあった。
【常世】の住人が日本語を話してるんじゃなくて、私が彼らの言葉を意識せず話しているってことだ。当然、読み書きも出来る。それはそれでとても頼もしいけど……。
あっ、でも、【常世】が【日本】に似てるのにも理由があったよ。
理由はズバリ、隣接した世界だからだ。
そもそも、私が住んでいた【地球】と【常世】は、一つの壁を隔てて存在している。
その壁はとても柔らかくて、薄いものなんだって。そして、とても強く決して破けない。簡単に破けたら大変だよね。大変で済まないか。
薄いから、時には日本で【常世】の様子が映し出されることもあった。勿論、反対も。
特に地球で、【常世】に一番密接してるのが日本らしい。
隣接すると、何で似通うのかは分かんない。まぁ……色々あるらしいけど、私にはあんまり関係ないかな。聞いてもよく分かんないし。でも、ご飯が日本食に近いのは嬉しいかな。
そうそう、これは余談だけど、日本の昔話に出てくる鬼の原型は鬼人らしいよ(小町さん談)
ちょっと横路にそれたけど、注意すべきなのは、異世界を繋ぐ通路は無数に存在しているってことだ。
稀に、色々な偶然が重なって、不運にも門が開き勝手に繋がってしまうことがある。どこで門が開くのかは分からないから、偶々通り掛かった人が運悪く堕ちてしまうことがあるみたい。
最悪だよね。
墜ちた先が【常世】のような世界なら、まだマシだけど。そうでなかったら……考えただけで怖くなる。
【常世】は日本に一番密接しているから、堕ちて来るのは日本人が多いって、小町さんが言ってた。
でも、問題が一つあるんだ。
例え薄くても、それぞれの世界を隔てる壁を越えるということは、当然、体と精神に莫大な付加が掛かる。
言わば、不法侵入しているようなものだからね。
そのせいで、堕ちて来る人間は、体の一部が欠損してたり、体が無事でも、精神が壊れてしまった人ばかりだった。
それが、この世界に伊織さんと私しか人間がいない、最大の理由ーー。
私が二度目の〈界渡り〉で無事だったのは、力が使えなくても〈魔法使い〉だったから。
つまり私は、私自身の力で門を開けてこの世界に来たんだ。
正式なパスを生まれながらに持っている人のことを、【常世】の住人は畏怖と敬意を込めて、〈魔法使い〉と呼んだ。
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