戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

文字の大きさ
18 / 46
第三章 働き始めていきなりこれですか

第六話 誘拐されました

しおりを挟む

 平積みされている本が宙に舞うくらいの突風だった。

 その本が、後ろに立っていた桂たちに当たっては飛んで行く。

 いきなり人が目の前で消えたのに驚いて、その場に座り込んでしまった私よりも、後ろに立っている桂たちの方が被害を受けていた。それを見て我に返る。考えるよりも先に体が動いていた。

 桂たちを庇おうと、小さな体に覆い被さろうとした時だ。

 何者かが、私の腰に腕を回し引き寄せていた。

 アッという間の出来事だった。声を上げるよりも早く、私の両足は床を離れる。

 桂と刀牙がいち早く気付き、必死に手を伸ばそうとしたが、小さな体はまたしても突風に吹き飛ばされてしまった。床を何回転も転がる。その小さな体に、容赦なく本が襲い掛かった。

「桂!!!! 刀牙!!!!」

(小さい子に何してるのよ!!!!)

 必死で体をよじって逃げようともがくが、私を掴んでいる太い腕に阻まれて身動き一つ取れない。

 廉と小太が、倒れている桂と刀牙に駆け寄る。桂と刀牙は倒れたままだ。ピクリとも動かない。

「桂!! 刀牙!! 放して!!!!」

 全身を使ってもがく。それでも、がっしりと掴まれた腰はビクともしない。

 今ここで手を放されたら、怪我で済むかどうか分からない。誘拐犯と私は空中にいるのだから。

 それでも、必死で抗う。私も桂と刀牙の側に駆け寄りたかった。 

「放してって、言ってるでしょ!!!!」

 怒鳴っても、手足をバタつかせても誘拐犯は黙ったままだ。

「「睦月!!!!」」

 廉と小太が私の名前を叫ぶ。その時だった。

「睦月さん!!!!」

 桂たちとは違う大人の叫び声がした。と同時に、サス君の銀色の頭と耳が見えた。

 その瞬間、蒼白い炎が私と誘拐犯の周囲を取り囲んだ。サス君だ。

 しかし、誘拐犯は慌てる様子を見せない。

(どうして?)

 腰を掴んでいる誘拐犯の反対の腕が上がり掛けているのが、目の端に映った。誘拐犯の手には扇が握られている。さっきの突風はもしかして……。

 頭で認識するよりも早く、私は反射的に叫んでいた。

「サス君、駄目!!!!」

 駆け寄ったサス君の前には、桂たちがいたからだ。誘拐犯は躊躇ためらわない。サス君を攻撃したら絶対扇を使う。そしたら……まず間違いなく、桂たちも巻き込まれる。さっき以上の力で。

 廉も小太も……倒れてる桂も刀牙も……無傷ではすまない。それだけは絶対嫌!!

 私の意図を瞬時に理解したサス君は、心底悔しそうに、険しい表情で唇を強く噛み締め堪えた。その目は真っ直ぐ誘拐犯を睨み付けている。今にも、誘拐犯を殺しそうな視線で。

 周囲を取り巻いていた炎が消える。

(ごめん。サス君……)

 声に出さずに謝る。

 誘拐犯はサス君と対峙したまま、中二階にある大窓の側まで飛ぶと、目に見えない力で窓ガラスを粉々に割った。

 そして私を抱えたまま、雪が降る外へと出た。

 店の上空から、転がるように飛び出すサス君の姿が見える。

「睦月さん!! 待ってて下さい!! 必ず迎えに行きますから!!!!」

 気を失ったままの桂と刀牙を残して、サス君は私を追い掛けることは出来なかった。

(あれ……何かされたのかな…………)

 急に目が霞んできた。薄れ行く意識の中で、サス君の叫び声が微かに……だが、確かに耳に届いた。

(うん。信じて待ってる)

 声に出して返事することは出来なかった。でも、心の中でそう答えた。絶対、届いてるよね……。

 誘拐犯と私が消えた上空から、数枚の黒い羽が降り積もった新雪の上に落ちる。

 サスケはその一枚を拾うと、ギュッと握り潰す。蒼白い炎が、握り潰した黒い羽を一瞬にして灰にした。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...