戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第三章 働き始めていきなりこれですか

第七話 誘拐後

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 店内に入った瞬間、伊織と小町は何が起きたのか瞬時に理解した。

 最も恐れていたことが起きたことに、伊織と小町は一瞬言葉を失う。だが直ぐに、二人とも現実に戻った。

「サスケ!!」

「サス君!!」

 伊織と小町は、床に片膝を付いているサス君の元に駆け寄る。

 サスケは倒れて意識を失っている桂のかたわらに膝を付き、桂の胸上に手をかざしていた。

 橙色の光が、桂の全身を包み込んでいる。

 桂の体に出来ていた擦り傷や打ち身がスーと消えていく。

 桂の隣には刀牙が同じ様に横たわっている。既に治療を終えた後か、刀牙の体の傷は既に消えていた。

 小町はサス君の反対側で両膝を付く。治っていく傷に、ホッと胸を撫で下ろす。

「サスケ、小町。子供たちを三階に」

 伊織は桂を抱き上げると階段を上った。サスケは刀牙を抱き上げ、伊織の後ろを付いて行く。

 桂と刀牙を寝かすと、小町は子供たちの家に電話を掛け陣にも連絡をとった。

 伊織は廉と小太に何が起きたのか詳しく訊く。

 その間、サスケは桂たちの様子を診ていた。

 まだ目を覚まさない。傷は治っても、霊力の攻撃に対してのダメージは、思いのほか大きかったようだ。これは、さずがのサスケでも治しようがなかった。軽減ぐらいは出来るが。腿の上で強く握り締めた拳が、サスケの心情を物語っていた。

「一時間ぐらい前かな。お爺さんが本の鑑定に来たんだ」

 小太が話始めた。

「サスケさんが応対して見送った後、睦月に外に出ないように注意してから、サスケさんは奥の部屋に行ったの。その直ぐ後だったんだ……」

 廉が続ける。

「お爺さんが、いきなり目の前に現れたの!!」

「突然出て来たんだ!!」 

 小太と廉が声を揃えて断言した。

「突然出て来たって、本当か!?」

 小町と交代したサスケが、険しい声と表情で廉と小太に訊き直す。伊織は黙って聞いている。ただ二人とも、眉間に深いしわを寄せ難しい顔をしていた。

「「うん!! 間違いないよ」」 

 廉と小太が頷く。

「そんなのあり得ないだろ!! 伊織の結界を破れる奴なんて、そうそういねーだろ。そうだよな、伊織!?」

 サスケは伊織に詰め寄った。   

 廉と小太はサスケの剣幕に圧倒されて、何も言えずに、可哀想に縮こまっている。

「……例外はあるよ、サスケ。そうだろ、陣?」

 伊織は陣に問い掛ける。

 小町から連絡を受けた陣が、急いで駆け付けて来たようだ。まだ、息が切れている。

「……ああ。例外はある」

 陣は一呼吸付いてから言葉を続ける。

「それは神だ。神に属する者なら、伊織の結界を解くことは可能だ」

「何で、ここに神族が……?」

 サスケは唸る。

 確かに、それしか考えられない。いや、それしかないだろ。しかし、何故……? 

「じゃあ、あのお爺さんは神様だったの!?」

 驚いた小太が伊織に尋ねた。

「おそらく、〈死神〉だろうな。それも、上位クラスの。さっき、消えたって言っただろ。転移の術を使ったとみていいだろうな。その結果、結界にひずみが出来た」

「……その歪みをついて、あいつらが入り込んだ」

 伊織の言葉を繋ぐように、サスケが低い声で言い放った。その言葉の端々に怒りが滲み出ている。

「何で、死神様が鬼書を持って来たのかな?」

 小太の疑問はもっともだった。

〈死神〉は死を象徴する者であって、一般に考えられているような命を狩る者ではない。

 それにそもそも、居住区の場所が違っている。

 神と呼ばれる者たちは王都の特別な区域でのみ生活している筈。なのに、王都から離れたこんな町に姿を現すなんて、まず考えられなかった。しかし今回は……。

「おそらく、結界に歪みをつくるために来たと考えるのが妥当だな。何故、神が関与したのかは不明だが……。サスケにも気付かれないように、気配を上手く隠していた点からみても、まず間違いない」

「確信犯ってわけか!!」

 陣が言い切る。

「くそっ!!」

 サスケは行き場のない怒りを床にぶつけた。

「俺が、もっとしっかりしていればーー」

 自分を責めるサスケに、伊織は落ち着いた声で言う。

「それは違う。君のせいじゃない。誰が悪いわけではないんだ。相手は神様なんだから」

「だけどーー」

 サスケは尚も自分を責めようとする。

「それで、どうするつもりだ? 伊織」

 遮るように陣が伊織に尋ねた。

 その気持ちは、ここにいる全員が痛い程理解出来た。しかし、慰める時間はなかった。それに、今のサスケは納得しないだろう。

 陣の台詞に廉と小太も、そしてサスケも一斉に伊織に視線を向け凝視する。

「睦月に危害を加えるつもりで連れ去ったとは考えにくい。彼らも、そこまで馬鹿じゃないだろう。それに、サスケの〈御守り〉も持っている。だから、今のところは無事だろう」

はか……」

 陣の台詞に伊織は頷く。

「いくら神族が関与してたとしても、このままにしとくつもりはない。勿論、迎えに行くに決まってる。睦月はまだ、この本屋の大事な店員だ。そうだろ? サスケ」

「ああ!!」

 答えを聞くまでもない。サスケは力強く頷く。

「陣。君は今すぐ玄武様にこのことを「分かってる。南に圧力を掛ければいいんだな」

 間違っていなかったようだ。

 伊織は陣の台詞に笑みを浮かべる。しかし、その目は一切笑ってはいなかった。

 あいつらは、完全に伊織を敵に回した。勿論、サスケもだ。

 この場にいる全員を敵に回したのだ。

「頼む」

「任しとけ!!」

 陣は自分の胸をドンと叩くと力強く返事した。

「僕とサスケは明朝、玄武様に会いに行く」

「了解」

 陣とサスケはニヤリと笑った。
 

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