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第五章 保護者二人、愛し子を取り返すために奔走する
第五話 出航。それぞれの思い
しおりを挟む白翼船の準備は既に終わっていた。なんとか間に合った。いつでも出航出来る。後は錦の号令を待つだけだ。
錦はサスケと伊織が必ず自分の元に乗り込んで来ると踏んでいた。だから、いつ二人が来てもいいように、密かに、だが急ピッチで準備をしていたのだ。
それが族長だった者として、そして伊吹と翔琉の親としての、錦なりの謝罪であり誠意だった。それで罪が少しでも免除されるとは全く思ってはいないが。
伊織とサスケが厳しい顔のまま白翼船に乗り込んで来た。
先に乗り込んでいた錦の前を通り過ぎようとした時だ。
「これで許されると思うなよ。……だが、助かった」
サスケが低い声でボソッと呟く。最後はやや聞こえにくかった。しかし、錦ははっきりと聞こえていた。錦は苦虫を潰したような表情になる。伊織は無言を通していた。
「ああ、分かっている」
そう答えた錦の声も小さく、心なしか弱く感じた。そんな錦の声を聞くのは初めてだった。
さすがの錦もそうなるだろうな。だが、甘い顔はしない。これ以上何も言うことがないサスケは口を閉ざす。勿論、伊織もだ。
全員が乗り込んだのを確認すると、錦は乗員に出航の号令を出す。
白翼船は碇を上げ、空に広がるもう一つの海へと繰り出した。
風を受けてパンッと白い帆が鳴る。白翼船はその名の通り、帆は光沢のある白い布で作られている。その姿は、数々ある帆船の中で一番の優美さを誇っていた。
例えば、勇ましい黒翼船が戦士の船なら、白翼船は貴族の船っていったところか。
しかしそれは、あくまで見た目だけで判断しただけで、その実は、黒翼船と引けをとらないほどの整備と機動力を備えていた。武器も最新のものを搭載している。スピードこそ黒翼船に比べて若干落ちるが、常世にある全ての帆船の中で二番目の早さを誇っている。勿論、第一は黒翼船だ。
その帆船をもってしても、黒劉山に着くのは白翼亭からだと二週間程掛かるだろう。
二週間は長い。
着いた時には、もう……全てが終わってるかもしれない。それでも、伊織とサスケは行くしかなかった。
不安で胸が張り裂けそうだ。それでも、今自分たちが出来ることは、ここから睦月の無事を祈るだけだ。それしか出来ない自分たちを、伊織とサスケは悔しい思いをしながら耐えるしかなかった。
それでも伊織とサスケは、錦を必要以上に責めることはしなかった。
それが却って錦を苦しめる。
伊織とサスケが敢えて何も言わないのは、錦を苦しめるためじゃないからだ。だからこそ、尚更錦の心に無数の刃が突き刺さる。違う意味で、錦もこの二週間を心痛の中過ごすことになるのだった。
様々な思いを乗せて、白翼船は黒劉山に向かって進んで行く。
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