もし世界が明日終わっても、私は君との約束だけは忘れない

井藤 美樹

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三度目の春

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 自分の受験勉強と並行して、私は一葉さんのアルバム作りに奔走した。大学病院での通院の時、カメラを持って行ったら先生に驚かれたよ。

 由季とは連絡を取ってないから、彼が進学する大学は知らない。だけど、ロケット工学科がある大学を調べたら、ギリ家から通える範囲内に一校大学があった。

 そこに、由季が進学する確証なんて何処にもないのに、私は進路先にその大学を選んだ。科を選んで頑張れば、合格は出来る。一応、模試でA判定もらったからね。

(我ながら、未練たらしいよね……)

 高一からの希望とはいえ、自分の行動にほとほと呆れてしまう。それでも、他の大学は眼中になかった。滑り止めも受けてない。ほんと、馬鹿。

 賭ける相手がいない賭け。

 由季がその大学を選んだのなら、一年は基礎で授業が被るかもしれない。そうなったとしても、話し掛けるつもりもはないよ。もし一緒の講義を取ったなら、私は教室の端で、一緒の時間を過ごせるだけでいいの。まぁ、由季が進学すればの話だけどね。

(どんな風になってるのかな? 絶対、格好良くなってるよね)

 想像が膨らむ。そして、直ぐにしぼむ。

(気持ち悪いよね……)

 つくづく、そう思うわ。

 その大学には、国立なのに、珍しいことに映像科もあって、カメラを専門に勉強出来るようだけど、私はその科を専攻しなかった。周囲はちょっと驚いていたよ。でもね、カメラを仕事にするつもりがなかったの。私はただ好きなだけ。

 それに、二年も経てば、それなりにしたいことや、ビジョンが浮かぶものでしょ。いつからか、私は大学卒業したら、離島に就職したいって考えるようになっていた。

 その話を両親にしたら、応援されたよ。両親からしたら、その方が安全だと考えたからかもしれない。

 離島に来て何をしようかな?

 そう考えた時、頭に浮かんだのは、陽平さんと一葉さんだった。ここに来る新しい住人の力になりたい。

 なら、どうすればいい? 

 そう考えた時、テレビで難病の少年と向き合う心理カウンセラーの特集を見たの。

 天啓を受けたね。

 ビビッと来て、急に視界がパァ~と明るくなったの。根が単純な私らしい理由で呆れるよね。でも、テレビの影響って結構あると思うよ。

 幸いにも、志望する国立大学に、心理カウンセラーの国家資格が取れる学科があったの。速攻、その科を選択したよ。学んだ後、心理カウンセラーとして離島で働けたらいい。陽平さんや一葉さんのようにね。

 簡単じゃないと思う。でもね、沢山、そこに住む人たちに貰ったから、還元したいの。それにここなら、私の病気を隠さないですむし。発症してからも続けられる。

 実は……密かに、陽平さんに憧れてたんだよね。最後まで、自分の信念を貫き通した姿にね。そうじゃなかったら、発症しても、わざわざ看護師の資格なんて取り直さないよ。

 彼は最後まで、この奇病に向き合っていた。

 一葉さんにアルバムを渡す時、志望動機を話したら、すっごい笑顔で「陽平さんは幸せ者ね。想いを受け継いでくれた。ありがとう、梨果ちゃん」と、喜んでくれた。その後、ずっと俯いて肩を震わせていたよ。私はそばにいることしか出来なかった。

 そして冬が終わり、私が高校を卒業し、大学に進学が決まった春――

 一葉さんは、笑顔で、手を振りながら渡り廊下を渡った。



「近堂さん、一緒にご飯食べない?」

「おう」

 そう短く答えてから、近堂さんは唐揚げの三種盛りを大皿ごと持って来た。私は小皿と箸を六人前持って来る。その後、近堂さんはコップ五つをテーブルに置き、ピールを注ぐ。私は烏龍茶だよ。

「あいつも、もう飲める年だからな」

「そうだね」

 私は微笑む。名前を言わなくても分かる。

 ここは未歩ちゃんにとっても、大事な家。

 ここで一緒に過ごしたことはないけど、皆の中に、そしてこの場所に、未歩ちゃんの想いは、しっかりと刻み込まれていた。今もここにいるの。私たちにとって、大切な家族の一人なんだよ。

 皆で晩ご飯を食べていると、国谷先生と桜井先生が仲良くやって来た。桜井先生って、一葉さんのお兄さん。私のもう一人の主治医。

 陽平さんが渡り廊下を渡る少し前から、時間があれば、ここと大学病院を行き来してたんだって。陽平さんの研究の跡を継いだらしい。だったら、言ってよね。

 近堂さんと国谷先生が、当たり前のように、隣にあるテーブルと私たちのテーブルを引っ付けた。私は奥から小皿と箸を持って来る。あと、お茶も。

 まだ、私は近堂さんや先生たちと同じ時間を過ごせている。

 

 
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