29 / 46
三度目の春
しおりを挟む自分の受験勉強と並行して、私は一葉さんのアルバム作りに奔走した。大学病院での通院の時、カメラを持って行ったら先生に驚かれたよ。
由季とは連絡を取ってないから、彼が進学する大学は知らない。だけど、ロケット工学科がある大学を調べたら、ギリ家から通える範囲内に一校大学があった。
そこに、由季が進学する確証なんて何処にもないのに、私は進路先にその大学を選んだ。科を選んで頑張れば、合格は出来る。一応、模試でA判定もらったからね。
(我ながら、未練たらしいよね……)
高一からの希望とはいえ、自分の行動にほとほと呆れてしまう。それでも、他の大学は眼中になかった。滑り止めも受けてない。ほんと、馬鹿。
賭ける相手がいない賭け。
由季がその大学を選んだのなら、一年は基礎で授業が被るかもしれない。そうなったとしても、話し掛けるつもりもはないよ。もし一緒の講義を取ったなら、私は教室の端で、一緒の時間を過ごせるだけでいいの。まぁ、由季が進学すればの話だけどね。
(どんな風になってるのかな? 絶対、格好良くなってるよね)
想像が膨らむ。そして、直ぐに萎む。
(気持ち悪いよね……)
つくづく、そう思うわ。
その大学には、国立なのに、珍しいことに映像科もあって、カメラを専門に勉強出来るようだけど、私はその科を専攻しなかった。周囲はちょっと驚いていたよ。でもね、カメラを仕事にするつもりがなかったの。私はただ好きなだけ。
それに、二年も経てば、それなりにしたいことや、ビジョンが浮かぶものでしょ。いつからか、私は大学卒業したら、離島に就職したいって考えるようになっていた。
その話を両親にしたら、応援されたよ。両親からしたら、その方が安全だと考えたからかもしれない。
離島に来て何をしようかな?
そう考えた時、頭に浮かんだのは、陽平さんと一葉さんだった。ここに来る新しい住人の力になりたい。
なら、どうすればいい?
そう考えた時、テレビで難病の少年と向き合う心理カウンセラーの特集を見たの。
天啓を受けたね。
ビビッと来て、急に視界がパァ~と明るくなったの。根が単純な私らしい理由で呆れるよね。でも、テレビの影響って結構あると思うよ。
幸いにも、志望する国立大学に、心理カウンセラーの国家資格が取れる学科があったの。速攻、その科を選択したよ。学んだ後、心理カウンセラーとして離島で働けたらいい。陽平さんや一葉さんのようにね。
簡単じゃないと思う。でもね、沢山、そこに住む人たちに貰ったから、還元したいの。それにここなら、私の病気を隠さないですむし。発症してからも続けられる。
実は……密かに、陽平さんに憧れてたんだよね。最後まで、自分の信念を貫き通した姿にね。そうじゃなかったら、発症しても、わざわざ看護師の資格なんて取り直さないよ。
彼は最後まで、この奇病に向き合っていた。
一葉さんにアルバムを渡す時、志望動機を話したら、すっごい笑顔で「陽平さんは幸せ者ね。想いを受け継いでくれた。ありがとう、梨果ちゃん」と、喜んでくれた。その後、ずっと俯いて肩を震わせていたよ。私は傍にいることしか出来なかった。
そして冬が終わり、私が高校を卒業し、大学に進学が決まった春――
一葉さんは、笑顔で、手を振りながら渡り廊下を渡った。
「近堂さん、一緒にご飯食べない?」
「おう」
そう短く答えてから、近堂さんは唐揚げの三種盛りを大皿ごと持って来た。私は小皿と箸を六人前持って来る。その後、近堂さんはコップ五つをテーブルに置き、ピールを注ぐ。私は烏龍茶だよ。
「あいつも、もう飲める年だからな」
「そうだね」
私は微笑む。名前を言わなくても分かる。
ここは未歩ちゃんにとっても、大事な家。
ここで一緒に過ごしたことはないけど、皆の中に、そしてこの場所に、未歩ちゃんの想いは、しっかりと刻み込まれていた。今もここにいるの。私たちにとって、大切な家族の一人なんだよ。
皆で晩ご飯を食べていると、国谷先生と桜井先生が仲良くやって来た。桜井先生って、一葉さんのお兄さん。私のもう一人の主治医。
陽平さんが渡り廊下を渡る少し前から、時間があれば、ここと大学病院を行き来してたんだって。陽平さんの研究の跡を継いだらしい。だったら、言ってよね。
近堂さんと国谷先生が、当たり前のように、隣にあるテーブルと私たちのテーブルを引っ付けた。私は奥から小皿と箸を持って来る。あと、お茶も。
まだ、私は近堂さんや先生たちと同じ時間を過ごせている。
20
あなたにおすすめの小説
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
それは立派な『不正行為』だ!
柊
恋愛
宮廷治癒師を目指すオリビア・ガーディナー。宮廷騎士団を目指す幼馴染ノエル・スコフィールドと試験前に少々ナーバスな気分になっていたところに、男たちに囲まれたエミリー・ハイドがやってくる。多人数をあっという間に治す治癒能力を持っている彼女を男たちは褒めたたえるが、オリビアは複雑な気分で……。
※小説家になろう、pixiv、カクヨムにも同じものを投稿しています。
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月るるな
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
【完結】アラマーのざまぁ
ジュレヌク
恋愛
幼い頃から愛を誓う人がいた。
周りも、家族も、2人が結ばれるのだと信じていた。
しかし、王命で運命は引き離され、彼女は第二王子の婚約者となる。
アラマーの死を覚悟した抗議に、王は、言った。
『一つだけ、何でも叶えよう』
彼女は、ある事を願った。
彼女は、一矢報いるために、大きな杭を打ち込んだのだ。
そして、月日が経ち、運命が再び動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる