もし世界が明日終わっても、私は君との約束だけは忘れない

井藤 美樹

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時には諦めも肝心です

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 先輩たちが手直ししてくれた日、私たちが午後の講義のために教室に行くと、何故か教室内がざわついたの。嫌な雰囲気はなかったけどね。由季は相変わらず、ずっと隣りにいるし、なんか落ち着かない午後だったな。

 家に帰って、ふと鏡に映る自分を見る。そこに映るのは、いつもの私。不意に、河上先輩の言葉が頭をよぎる。

「肩までか……」

 昔は短かったから、特に抵抗はないの。少しでも、女子力を上げたくて髪を伸ばしたんだよね。でも、髪が短くても、女子力ある人は沢山いる。河上先輩とかね。

「……どうしようかな」

 折角伸ばしたのに、バッサリいくのはやっぱり勇気がいるよね。

 元々、女子力を上げるために伸ばしたんだけど、現実はくくってるだけだし、アレンジもしてないよね。一応練習はしたけど、簡単なアレンジでもグチャとなったから、諦めた。

(伸ばしても意味ないよね。なら、一層切るのもありかも)

 そんな考えに、思考が傾く。

「でも、切るとしても、美容院何処がいいのかな? 私がいつも行ってる所って、ちょっと違うのよね。なんなら、髪色も明るくしたいし……」

 バイトはしてないけど、お金はあるからね。少しはお洒落出来るかな。弁護士費用もそれで出したしね。大学入るまで知らなかったんだけど、ボランティアだと思っていた新薬の治験、そうじゃなかったんだって。と言っても、そんなに大層な金額じゃないけどね。

 そんなことを考えていたら、スマホにラインが来ているのに気付いた。ミュートにしてたから、全然気付かなかったよ。画面を開き、差出人を見てひらめいた。

(下手に調べるより、お洒落上級者に訊けばいいんじゃない)

 早速、返事をする。

『ミュートにしてました、返信遅くなって済みません』

 そう打った後、ごめんさないのスタンプも送信。少しは成長したのよ。

『いいよ』

 由季といい、返信早っ。スタンプも可愛いのを送って来る。

『あの……河上先輩に訊きたいことがあるんですが、いいですか?』

『何? なんでも、教えるよ』

(……なんか、物凄く懐かれてない? なんで?)

 急な態度の変化に首を傾げながらも、まぁ悪い人ではないって知ったからスルーする。

『お洒落な美容院知ってますか? 髪明るくしてカットしたいなと思って』

『えっ!? 髪切るの!! いいよ、教えてあげる。知り合いのお店でよかったら、明日でもいけると思う。訊いてみようか?』

『宜しくお願いします』

 ペコリと頭を下げた熊さんのスタンプを送る。速攻、了解のスタンプが来た。それから二十分もしないうちに、河上先輩からの折り返しのライン。

『朝、九時からだけど大丈夫かな? ちょっと早い時間だけど』

『それは大丈夫です。無理言って済みません。明日、土曜日でしたね』

『そこは気にしないで。朝イチキャンセルが出たって言ってたから』

『助かります』

『じゃあ、店のマップ送るね』

 河上先輩は美容院のマップを添付してくれた。

 なんか、ワクワクする。テーマパーク前日みたいな感じに似てるかな。

 添付されてた店の写真はすっごく可愛くて、まるでカフェのような外観だった。店内はさすがに違うけどね。店の雰囲気だけで、リピしそうになるよ。そこまで、私の趣味どストライクだった。

 先輩たちからの助言は切っ掛けだったの。背中を押された感じ。実力が伴わなかっただけで、それなりにお洒落はしたいって、すっと思ってたの。モブはモブなりにね。 

(道に迷ったら困るから、到着時間より三十分早めに行こうかな)

 遅刻しないように、早めにベットに入ってアラームをセットした。なかなか寝付けなかったけどね。

 翌朝、コンビニでお金を下ろしてから最寄り駅に向かう。

「確か……南出口だったよね」

 マップを確認しながら呟く。道案内をタップしようとしたら、名前を呼ばれた気がした。声がした方に身体を向けると、ラフな格好をしながらも、お洒落な河上先輩が手を振りながら走って来る。

「梨果、早過ぎ」

(なんで、河上先輩がここに?)

「おはようございます、河上先輩。遅刻したら困ると思って」

「そんなことだと思って、早目に出て正解だったわ。じゃあ、行こうか」

 当たり前のように、河上先輩は一緒に行こうとする。戸惑う私を無視して、腕を掴み歩き出した。

 店に着いた私は、完全に置物扱いだったよ。というか、話に付いていけてない。謎用語多過ぎ。美容師さんと相談してるのは、河上先輩と横井先輩。何故か、途中から加わってたよ。いつの間に来たの?

「任せて、すっごく可愛くしてあげる」

「魅力を引き出してあげるわ」

 満面な笑みを浮かべながら、先輩たちは断言する。私は顔を引き攣らせながら、「お手柔らかにお願いします」とだけ答えた。

「それは難しいと思うよ」

 美容師さんが笑顔で現実を突き付けてくる。

「ですよね……」

 私は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。先輩たちが止まらないのは容易に想像出来たからね。

(まぁ、なるようになるしかないよね……)



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