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ドライブデートは森の中
しおりを挟む「由季、免許持ってたんだね」
持ってても可笑しくはないけど、車の話題なんて一切出て来なかったから、免許を持ってるとは思わなかった。
「一年の時にな」
「へぇ~知らなかった」
「話題に出なかったからな」
私自身、車にあまり興味ないからね。それに大学外で、由季と二人っきりで会うのは控えていたし。そんな状態だったから、二人っきりでドライブなんてありえなかった。
(今まで、何人、助手席に座ったのかな)
すっごく訊きたいけど、我慢する。
だって、束縛系なんて思われたくないし……そもそも、そんな権利私にはないからね。それに正直、これ以上、深みに嵌りたくはなかったの。
抜け出せなくなりそうだから……この時点で、厳しい状態だけどね。
由季も理解はしてると思う。私たちの恋は、いつかは終わるものだって。
先の話はしてないよ。敢えて、私も由季もしないようにしている。現実から目を背けてるつもりはないの。ただ……今だけは幸せを心から浸りたい。そもそも、恋人同士になったばかりなのに、無粋でしょ。
でもね、離島に渡る前には話さなきゃいけないって考えてるの。活性化した時点で、この関係は終わることを――
確かに、活性化してから発症するまで、二、三年の猶予はあるよ。でもね、それは目安であって絶対じゃない。平均ってそういうものだよ。
幸せを噛み締めながら、私は心の奥底では残酷なことを考えてる。そんな自分が、心底嫌い。でも……それが私なんだよね。
「……車ってよく分かんないし。あっ、次のサービスエリア寄れる? この前テレビで見たの、瀑売れしてるメロンパンがあるんだって、前々から、食べてみたいって思ってたんだよね」
気持ちを切り替えて、明るく言った。
「いいよ、でも、あんまり時間取れないからね」
「予約でもしてるの?」
「予約はしてないよ。いつかはしたいって考えてるけどね。明るいうちに着きたいんだ」
やっぱり、行き先は教えてくれない。
「ふ~ん」
(由季がそこまでして行きたい所って何処なの?)
訊いても教えてくれないよね。だから訊かない。なんか、ミステリーツアーみたいでワクワクして来たよ。謎解きとかも、挑戦したいんだよね。あと……お化け屋敷とかも。今、あちこちで開催してるから。
サービスエリアに寄ってもらって、売り切れ寸前だったけど、お目当てのメロンパンを五個買えた。由季は缶コーヒー二本買ってる。どっちもブラックだ。
「車の中で食べていいの?」
中には、嫌う人がいるからね。特にパンとかはパン屑が落ちるし。
「いいよ。嫌なら、ブラックは買わない」
いつもは、甘々なミルクコーヒーだけど、甘い物を食べる時だけはブラックを飲む。昔からの癖だ。幼馴染だから知っていて当然だけど、嬉しいんだよね。私のことを深く知ってくれてる人がいるのって……救われるんだよ。胸が熱くなる。
(ほんと、こういう優しさに、私はいつも助けられてる。由季を――)
「……梨果?」
黙り込む私を、由季は心配そうに声を掛ける。
「…………由季を好きになって、本当によかった」
想っていたことが、そのまま口から出る。
私がそう告げると、由季は顔をクシャと歪めて、とてもとても幸せそうに微笑んだ。段々顔が近くなる。そっと目を閉じた。唇が重なる寸前、由季は囁く。
「俺も、梨果を愛してる」
それからは、お互いなんか恥ずかしくて黙ってたよ。私は黙々とメロンパンを食べていた。色気ないよね。
サービスエリアから車を二時間弱走らせ、途中、山の中に入って行く。山桜が満開になっていた。ソメイヨシノがちらほら咲いている。
「後一週間したら、満開だな」
由季の何気ない言葉で寂しさが募る。二日後には、私は離島にいるから。
「そうだね。でもその時は、凄い人かもよ」
今でも観光客らしき人がいるし。
どうやら、目的地に着いたみたい。由季が車を停める。降りると、由季は当たり前のように手を差し出して来た。私は躊躇わず、その手を取る。
「こっち。少し歩くけどいい?」
私を気遣う由季に、微笑み返す。
「大丈夫」
(カメラ持ってくればよかったな)
無性に撮りたくなったよ、この瞬間を――スマホでもいいから。でも、この手を放したくないから我慢しなきゃね。
六分程歩くと、小さな建物が見えて来た。ファンタジー小説に出て来る教会みたいな建物に、私は興奮を隠せない。
「梨果、ああいうファンタジー系の建物好きだろ?」
「うん、好き。由季が行きたい所って、ここ?」
「そう。中に入ると、もっとらしくなるよ」
「じゃあ、早く行こ」
私は笑いながら告げると、歩調を速める。今度は私が由季を引っ張った。
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