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私が選んだ道
しおりを挟む愛する人に発症したことを話すのは、とてもとても、勇気がいった。
由季は、私を愛してくれてる。その気持ちを疑ったことは一度もないわ。私の病気のことも理解してくれたし、受け入れてくれた。大事にしてくれてる。それだけで、私は幸せなの。
だからこそ、事実を話した後の由季の反応を恐れたの。想像出来るからね。
彼以上に優しくて強い人を私は知らない。その性格故に、私以上に苦しむことになるだろう。
そして、その姿を私に見せまいと、必死で隠そうとする。その姿を見るのが辛いの。
私は長い時間を掛けて、現実を知り、気持ちに整理を付けて来た。何度も何度も泣いて、失っていくものの多さに絶望して……それを嫌になるほど繰り返して、なんとか受け入れることが出来るようになった。
でも、由季は違う。
圧倒的に、気持ちを整理する時間が短いの。それなのに、私の苦しみまで引き受けようとするわ。間違いなくね。
そんなことをしたら、由季は潰れてしまうかもしれない。夢よりも、私を優先するかもしれない。それとも、耐えきれなくて離れてしまうかもしれない。
全部、まだ起きてはいないことだけど、そうなる可能性は高いわ。そんな未来が頭に浮かんで、振り払おうとしても振り払えない。怖くて、怖くて仕方ないの。私から離れるのはいい。だけど、それ以外は、絶対に駄目。私の苦しみを引き受けなくてもいいの。
(そんなこと、これっぽっちも望んでない)
リアルに想像し過ぎて、昨晩は全然寝れなかったよ。朝ご飯もそんなに食べれなかった。珍しく、おかわりしなかったから、近堂さんに心配されちゃったよ。
だから、「発症したことを、由季に話すことにした」って正直に答えた。すると、「そっか、頑張れ」と応援された。素っ気ない応援に、私は小さく笑うと部屋に戻った。
ビデオ電話を掛ける前に、いつも確認のラインが由季から来るの。休みも出来る限り合わせてるから、昼前のラインも即既読出来た。疲れてるのかな、今日はいつもより遅い。
勇気を出して、私からビデオ通路する。
『…………おはよう、由季。もしかして、寝起き?』
声は上擦ってない。出来る限り、普通に話し掛けたつもり。でも、由季は私の姿を見て固まっていた。
(やっぱり、気付いたわね。友達や親でさえ気付かない、僅かな変化なのにね)
由季の後頭部の髪がはねている。外では由季って色々完璧なんだけど、私の前ではちょっと抜けてるんだよね。寝癖も欠伸もするし、お腹をポリポリ掻いたりする。それが、嬉しいかったりするんだけど……
『…………』
由季は微動だにしない。
『由季?』
再度、私は恋人の名前を呼ぶ。
『……梨果…………』
小さなか細い声で、由季は私の名前を呼んだ。私は出来る限り明るく告げた。
『発症しちゃったよ。通常よりも、かなり早く進行してるんだって。仕方ないよね、無理矢理、薬で延ばしてたんだから。反動が来ちゃったよ』
言い切った時だった。派手な音が聞こえて来る。ビデオ通路から由季の姿が消えた。画面が暗くなる。
『由季、大丈夫!? どうかしたの!?』
私がそう声を掛けると、由季の焦る声が聞こえた。
『今から、そっちに行く!!』
その声と同時に、通話が切れた。焦った私が折り返し電話を掛けても話し中。
(マジで来る気なの~~!?)
予想外の反応に呆然としてたら、十分程時間が経っていた。
「……もし来るのなら、船用意しなくちゃいけないよね」
定期便は午前中だけだし、予約もしてない。つまり、足がない。
(取り敢えず、近堂さんに相談しないと)
仲が良い漁師仲間がいるからね、船を出してもらわないと。私はスマホを持って食堂に向かうと、近堂さんが奥から姿を現す。
「どうかしたのか?」
「話したら、今からこっちに来るって。どうしよう」
焦る私に、豪快に笑い出す近堂さん。
「それはそれは、やるな~」
「感心してる場合じゃないわよ!!」
抗議する私を無視して、近堂さんは漁師仲間に電話してくれた。手短に説明してる。数分話をしてから、近堂さんは電話を切る。
「特別に船、出してくれるってよ、よかったな。で、種子島からこっちに来るんだったら、港に着くのは最短で真夜中だな」
そう言いながら、近堂さんは最短の乗り換え時間の検索画面を見ながら言う。
丁度その時、由季からラインが届いた。
『今、タクシーで西之表港に向かってる。港に着くのは夜中になると思う』
本気で来るつもりだ。今更、「引き返せ」って言っても聞く由季じゃない。
『……分かった。気を付けて来てね。新幹線に乗ったら、またライン頂戴』
そう送ると、直ぐに『分かった』と返事が来た。
「丁度いいんじゃないか。この際だ、じっくり話せ。その道を選んだのは、梨果自身だろ」
近堂さんはそう助言し、奥に引っ込んだ。
「…………そうだよね」
由季からの告白を受け入れたのは私自身。告白したのも、私自身の意思。そして、一線を越えたのも、私の意思だ。
これが最後――
私は、自分の胸の内にあるものを全部話そう。私の幸せも苦しみも、望みも。
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