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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
犯した罪の前では皆平等だと思う
しおりを挟む「そんなに体を震わせて嘆いても、犯した罪は消えはしないわ」
然程大きくない声が広い室内に響く。その声は怒りも不快も感じさせない、静かな声だった。
一応、ユズさんの身柄を自由にしていいと殿下に許可を貰っている。それに、学園長にも猶予を貰った。貰ったが、そんなに時間を掛けれないと思う。時間を掛けても一週間以内に結果を出さないと。
ポーター公爵家を罪に問えるまでの証拠は得られなかったが、アーティ伯爵家を破滅させる証拠は手に入れている。
正直、アーティ伯爵家を取り潰せるかは分からないが、最低でも降格は可能だと殿下は言う。私も客観的に見てそれが妥当だと思う。アンナたちは甘いって言ってたけど。要は使い方よね。そこは殿下の腕の見せ所。私は表に出て来れないから、影から応援に徹するわ。
まぁその前に、ユズさんの処遇だけど。
「…………」
ずっと無言のままだ。発する言葉が見付からないんでしょうね。
ずっと、悪いことをしているという意識はあったと思うよ。でもね、弟と妹を助けるためにしてるんだという思いが、罪の意識を薄めたのも事実。私はそれに気付いてほしかった。
「貴女は罪を償わないといけませんわ。その前に、キチンと罪と向かい合ってほしいの」
ユズさんから視線を外さずに話し掛ける。ユズさんも私から視線を逸らさない。
「…………罪と向かい合う?」
小さな声でユズさんは呟く。
「そう。……ユズさん。自分の大切な者を助けるためなら仕方ないと思ってたでしょ。……確かに、大事な者を護るためなら、それが悪だとしても行動する。その気持ちは分からないこともないわ。ならば失敗した時、全てを失う覚悟もしないといけませんわ」
悪いことはしてはいけない。
そんな事、小さな子供でも分かってる。それを今更声高らかに言うつもりはないわ。道徳の時間じゃないんだから。
「…………全てを失う覚悟……」
「ええ。大事な者を自ら壊す覚悟。それとも、情状酌量を狙ったのかしら。子供だから許されると思った? だったら、甘いわよ」
犯した罪の前では皆平等だと、私は思う。そうでないと、被害者は報われないでしょ。だからといって、それを他者に押し付けるつもりは更々ないけどね。今回は……ただ知って欲しかった。それだけ。
私が言いたいことがちゃんと伝わったのか、ユズさんの小柄な体が小刻みに揺れだした。それと同時に、その小さな口から出てきたのは、言葉にならない叫びだった。
悲鳴と慟哭。
それは様々な感情が入り混じった、心の悲鳴だった。
それを皆黙って見詰めている。
私はその叫びが治まるのを待った。次第に弱まってきたユズさんに、私は両膝を床に付き肩に片手を添え告げた。ユズさんは顔を上げる。涙と鼻水で酷い顔だった。でも私は、その顔が綺麗だと思った。
「この件は、勿論学園長もご存知です。間違いなく、ユズさんは退学となるでしょう」
学園長の単語が出てきた時、ユズさんの肩がビクって揺れた。まず間違いなくユズさんは、学園を追われることになる。
「はい……」
「今更ですが、ここは王宮です。ユズさん。アーティ伯爵家に戻りたいですか?」
万が一「はい」って言っても、戻すつもりはないけどね。
「いいえ!! 戻りたくはありません!!!!」
そう。なら話を進めましょう。
「それなら、ユズさん。私の侍女になりなさい」
「マリエール様の侍女ですか……?」
まさかの展開と思ったでしょうね。目が点になってるわよ。
「ええ。殺そうとした相手の下で、身をこにして働きなさい。それが貴女の罰です」
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