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エルヴァン王国の秘宝

第六話 生贄

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 お母様の辛い告白の後、私とお父様は暗部を追加し、エルヴァン王国に送り込みました。スミスの配下を中心に。

 至急、確かめるべきことは一点。

 誰が首謀者か、ということですわ。

 その調査報告を聞くために、関係者全員集まっております。送り込んで、二日も経っておりませんわ。本当に優秀ですね。

「いえいえ、彼らの頭が足りなかっただけです。部下の訓練にもなりませんでした」

 と、帰ってきた早々、スミスは溜め息混じりに言いましたわ。頼りになります、スミス。

 その後、報告を受け発した声がこれですわ。

「どこにでも、馬鹿はいるものですね……」

 つい、ぼやいてしまいましたわ。

「馬鹿は、どこにでも増殖するからな」

 まるで、カビのような言い方ですわね。その通りですけどね。

 お父様も不愉快そうに顔を歪めていますわ。でも、いつもより好戦的ですね。お母様が絡んでいるからでしょう。

 リム兄様は、そんなお父様に呆れながらも、硬い表情で聞いていらっしゃいますわ。

「そのようで」

 顔色を変えずに、スミスは同意します。

 馬鹿は馬鹿なりにおとなしくしていればいいのですが、ある程度の位を有している馬鹿ほど、自分のことは優秀だと錯覚しているのです。嘆かわしいですわ。

 その錯覚を生み出している原因の大半が、優秀な側近と文官たちでしょう。比重からすれば、側近よりも文官たちですわね。感謝しないといけないのに、そういう馬鹿ほど、彼らを蔑ろにするものです。

 暗部の報告では、やはり想像していた通り、シスター襲撃事件の首謀者は第一王子の一派でした。

 それから推察すると、エルヴァン王国の第一王子は、なかなかのお馬鹿さんのようですわ。

 優秀で人望のある第二王子。そして、末っ子のケルヴァン王子は第二王子を心酔していますしね。自分でも、無意識のうちに劣ると思っているのでしょう。

 傀儡としてなら、とても優秀ですけどね。

 そうした意図にも気付かす、第二王子を王都から追放できたと喜んでいたようですけど、そこで終わりなわけありませんわ。まぁ、普通に反撃されますよね。唯一の弱点は国外に逃していますし、第二王子は思いっ切り動けますわね。

 そして終には、禁断の果実に手を出したというわけですね。

 本当に愚かですわね。

 自分の欲望のためには、他者の命を平気で奪い取る。

 王家に生まれたから、何でも許されると考えているーー。

 愚者の極み。

 英雄を裏切り殺した王子も、王国のためと言いながら、その実は自分の欲望を満たすため。第一王子とたいして変わりはしませんわ。

「そうそう。エルヴァン王国は、魔法に特化していませんよね」

 私がそう発すると、お父様が続きます。

「武術に関してもな」

「仕方ないですよ。魔の森に接してないのだから」

 リム兄様が苦笑しながら答えます。

「だから、シスターを狙ったのよ」

 お母様の言葉に、私たちは頷きます。ここまでなら、少し頭の足りない方でも想像できるでしょう。問題は、ここから先です。

「なら、次は誰を狙うのでしょう?」

 魔力量の多さは髪の色に表れます。特に黒髪は、ずば抜けていますわ。まぁだから、シスターが狙われたのでしょう。

「順当に狙うとしたら、セリアだろうな。でも、そう簡単に一国の皇女を狙うか? かなりの無理があるだろ」

「まぁ確かに。私もそう考えますわ」

 リスクが高すぎますものね。いくら、自由に町中を歩いていても。

「普通はそうだけど、追い込まれた馬鹿は、何をしでかすかわからないわよ」

 お母様の御意見ごもっともです。

「だとしても、セリアを狙うのは最後ではないかな」

 私もリム兄様の意見に賛成ですわ。

「ならば、先に誰を狙う?」

 お父様が訊いてきました。

「黒髪で……私より楽に、対象者に近付ける……リスクが少ない相手……」

 ブツブツと呟きながら、頭をフル回転させます。ふと唐突に、ある人の姿が頭を過りました。

 まさか!?

「……お母様?」

「なあに、セリア」

「その生贄は、生きていなければならないのですか?」

 私と同じ黒髪で、魔法に優れた方ーー。淑女の中の淑女。その方は、誰よりも国を想い、国のために身を捧げました。

 そしてその方は、今、静かに、愛しい方と一緒にお休みになっておられます。

 私の問い掛けに、誰もがハッとし、お母様に視線を向けます。お母様は苦々しい顔で答えました。その声はとても低い。

「その必要はないわよ。まぁ、生きてる方が適してるけど、遺体でも、充分代用になるわ」

 話の内容とその声に、ゾクッと、脳天から足元まで寒気が一気に走りました。


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