上 下
271 / 299
エルヴァン王国の未来

第十六話 教えて差し上げますわ

しおりを挟む


 まず、ケルヴァン殿下が狂王子に飛び掛かります。

 当然、狂王子はケルヴァン殿下を魔法障壁で弾き飛ばすでしょう。体力馬鹿に体力勝負を仕掛けるわけはありませんからね。なんせ、ここには魔力が溢れてますもの。

 禍々しい魔力と同化、適合している狂王子にとって、この【竜石の間】は、無限大に使える魔力貯蔵庫ですわ。そんな場所での戦い、負けるはずないと確信しているはず。

 事実、その考えは間違いありませんわ。

 でも、そんな魔力を自分の身に入れ続けるとどうなるかは、わかっていなかったようね。いや、承知した上でかしら。

 魔法障壁で弾き飛ばされたケルヴァン殿下は、うまく受け身をとって着地します。

 いわば、ケルヴァン殿下はおとり。

 狂王子がケルヴァン殿下に視線を移した瞬間、気配を完全に消していた侍女たちが、四方から一気に仕掛けます。

 侍女たちの役目は、狂王子を倒すことではありません。魔法障壁に綻びを入れることですわ。

 馬鹿の一つ覚えのように、魔法障壁で侍女たちを弾き飛ばそうとしてますが、なかなかできないようですね。当然ですわ。本気を出した侍女たちは強いのですよ。魔法耐性もずば抜けてます。それに、お母様からの魔法、物理の耐性強化の魔法を掛けて貰っていますからね、ケルヴァン殿下のようにはいきませんよ。

「……なんなんだ……アレは…………」

 ケルヴァン殿下が、啞然とした表情で呟く声が聞こえました。

「人をやめた者の姿ですわ。これだけの禍々しい魔力を取り込んだのですもの、人の形態を保てるものではありませんわ」

 社交界で常に中心にいた華やかな王子の姿は、そこにはありませんでした。

 肌の色は灰色に変色し、髪と瞳の色も黒へと変化していきます。角と羽が生えたら、伝説の魔物、悪魔族とそっくりですわね。まぁ、偽物ですけど。

 そろそろ、頃合いですね。

 シオン様が一歩前に出ました。剣を構え振り被ります。振り下ろすと同時に、四人は端に逃げました。

 シオン様の覇気が刃となって、狂王子に襲い掛かります。脆くなった魔法障壁など、簡単に突破し、狂王子を魔法陣から弾き飛ばしました。

 さすがですわ!!

 ここが戦いの場ではなかったら、抱き付いてキスしてますわ。

「セリア!!」

「わかってますわ!!」

 お母様が私の名前を呼ぶ前にすでに移動し、魔法陣に両手を付いています。

「始めるわよ!!」

「はい!!」

 同時に作業を始めます。

「ククク……できるはずないだろ!! 無駄な足掻きだ。書き換えられた魔法陣を元に戻せる人間なんているか!!」

 わずかにめり込んだ背中を引き離すように立ち上がりながら、狂王子は喚き散らした。

「いたらどうします?」

 私はニヤリと嗤いながらそう言うと、魔法陣に魔力を流し込みます。

 さっきまで紫色の魔法陣が、私の魔力に反応して光出します。そして、書かれている文字と絵柄が変わっていきました。

 と同時に、狂王子の中に同化していた魔力が、魔水晶へと逆流していきます。

 狂王子は断末魔のような悲鳴を上げながら、胸を掻きむしります。口からはヘドロのような液体を吐き出し、徐々に人の姿へと戻って行きます。

「……なぜだ!! なぜ、そんな真似ができるんだ!!」

 残っていた魔力を魔弾に変え、狂王子は私を攻撃して来ました。

 しかし、その攻撃が私に当たることはありませんわ。だって、私には、最強且つ最愛のシオン様が護ってくださるんですもの。

「教えて差し上げますわ。私には、最高の師匠がいたからですわ!!」

 


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【百合】男装の麗人にして悪役令嬢ですが困ってます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:61

すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,179pt お気に入り:65

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:46,781pt お気に入り:29,935

お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,150pt お気に入り:47

【本編完結】旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:153,402pt お気に入り:9,196

転生したら悪役令嬢だったので、ラスボスを手懐けてみました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,853pt お気に入り:35

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。