3 / 70
2 イケメンと島内観光です
しおりを挟む「まずは、車で島を一回りしましょうか? 小さい島なので、そう時間はかかりませんよ。途中、インスタ映えする場所もあるんですよ」
インスタ映えか……それは楽しみ。
「インスタはしていませんが、興味あります」
「そうですか。それじゃあ、寄りますか。たぶん今なら、とても神秘的な光景が見れますよ」
山中さんはニコッと微笑む。
眩しい!!
イケメンの笑顔って破壊力あるわ~。それにしても、これって……やっぱり旅行よね。ちなみに、山中さんがタクシーの運転手? じゃないわね。こんな格好いい人が運転手って、ないわ。ないない。自分で自分に突っ込む。
火照った頬を冷ますように、私は外の景色に目をやった。
港に着いた時も思ったけど、ほんと長閑よね。車一台すれ違わない。代わりに、山羊が道路を横断している。それを、停まって通り過ぎるのを待つ。途中、車の前で山羊は止まり、私たちを見て口をモグモグすると歩き出す。初めて、こんな近距離で山羊を見たわ。小学校でいったサファリパーク以来ね。
「……山中さん、この島、やけに動物が多くないですか?」
港でも、犬と猫、それとアヒルが五羽もいたし。
「島民が連れて来たんですよ」
苦笑しながら、山中さんは答える。
「島民が? 山羊も?」
持ち込みOKなんだ……離島なのに。離島によって違うのね。大概、アウトだと思ってたわ。
「ええ、山羊も。患者さんを含め、この離島に移住している人たちなんですが、結構多いですよ。ここでなら、残された家族は寂しくないですからね。桜井さんは、動物とか飼ってないんですか?」
残された家族ね……
ここは専門病院でも、ほぼホスピスと一緒なんだと改めて思う。
だから、患者にはある程度の自由が許されているのね。動物の件もそう。患者を島民と呼んでるのも、その流れかな。病気が病気だもの、考えてみれば、離島一つ丸々病院の敷地なのも頷けるわ。
そんなことを考えていたら、山中さんに名前を呼ばれた。車はまだ停まったままだ。
「桜井さん? 大丈夫ですか? 酔いましたか?」
心配し気遣う声に、私は一旦考えを止めた。そして、慌てて質問に答える。
「あっ、すみません。飼ってないですね。昔から飼いたいとは思っていたんですが、祖母が動物が苦手で無理でした」
「そうですか。なら、ここでなら希望が叶いますね」
急に黙り込んだ私を不快に思わず、山中さんはホッとした様子で話を続ける。
「そうですね……」
不思議な気分ね。
ここでなら、私は私でいられるかもしれない。そんな考えが頭を過る。
嬉しいのかな、自然と口角が上がった。今まで被り続けていた、桜井一葉という衣を脱ぎ捨てて、ただの桜井一葉として生きていけるかも。自分のことを知る人がいない、この土地でなら。
例え、時間が限られていてもーー
車が静かに動き出す。
私も山中さんも言葉を発しない。でも、嫌な感じはしなかった。初対面で無言は普通。少し人見知りの私が尻込みしないなんて、驚くわ。私を気遣う山中さんのおかげかな。山中さんって、ほんと良い人でできた人だよ。
イケメンで性格も良い。それに、定職についてるとなったら、山中さんって最高の結婚相手よね。離島じゃなきゃ、すでに契約されてるわ。まぁ、今の私には関係ない話だけど。
私は車窓から見える景色を、そんなことをぼんやりと考えながら見ていた。
十分ぐらい走ると、山中さんは車を道路の脇に停めた。
「着きましたよ」
そう告げると、山中さんは車から降りる。私も降りた。
「綺麗……風も気持ちいい」
コンクリートからする雨の匂いと潮の匂いが混じっていて、独特な匂いがする。嫌いじゃないわね、この匂い。
「こっちです、桜井さん」
山中さんは崖沿いを歩いて行く。舗装はされてないけど、特に問題はなかった。二十メートルくらい歩いたかな、山中さんの足が止まる。
「着いたんですか?」
「ええ。桜井さん、下を覗いてみてください」
促されるまま下を覗き込む。眼下に広がる光景に、私は思わず息を呑んだ。
「……凄いですね。ハート型の砂浜ですか……これ、自然にできたものですよね?」
山中さんは小さく頷いた。
「引き潮の時でしか見れない幻の砂浜です。カップルでこの砂浜を見ると幸せになるとか」
「わかります!! 砂浜の形がハート型ですもの、絶対、幸せになりますね!! カップルでなくても」
興奮した私は写真を撮りまくる。邪魔にならないように、山中さんは少し脇に寄ってくれた。
「自撮りはしないんですか?」
不思議そうに訊いてくる、山中さん。
「自撮りは苦手なんです。人を撮るのが苦手で、変な顔になっちゃうんですよね。自然と動物か景色ばかりですね」
「そうですか、僕も苦手なんですよ。同じですね」
その言葉は、ただ私に合わせてくれたのか、それとも本当かはわからないけど、私は同胞がてきた気がして嬉しかった。
「山中さん、連れて来てくれてありがとうございます」
笑顔で感謝の言葉を口にする私を見て、山中さんはなんとも言えない神妙な表情を見せた。
「……桜井さん、貴女は自然体なんですね」
まるで、独り言のような問い掛けだった。
私は首を傾げる。山中さんが何を言おうとしているのかわからなかった。だから、私は山中さんの言葉を待った。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
48
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる