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27 そんなハモリはいりません
しおりを挟む旅行って、計画を立て始めた時から始まってるって聞いたことがあるけど、ホントよね。
毎日が、すっごく楽しいの。
皆がやりたいことや行きたい所、食べたいものを書き出して決めてるんだけど。勿論、中心は未歩ちゃんと日向さんだよ。で、ちょっと贅沢しようと話になって、テーマパークのVIPを申し込むことにした。
旅行期間は九日間。
そのうち、初日と最終日は移動にあてて、実際遊ぶのは一週間。これでも、一応私たち病人だからね。山中さんは違うと思うけど。
なので、修学旅行みたいにキツキツに組んでいない。いつでも休んでもいいように、時間に余裕をもって組んだ。まだまだ暑いしね。
予約も無事完了。ホテルもおさえたわ。勿論支払いも済ませたし。ほとんどネットですんだよ。ネット様々だね。ちょっと怖いけど。
後は出発するだけかな。
それまでの間、お土産とグルメはネットで調べ中。ギリギリまで調べるつもりよ。当然よね。
今も夕食の後、テラスに続く窓を開け、未歩ちゃんと一緒に、足を投げ出し並んで座っている。脇に、蚊取り線香を焚きながら。
「楽しみだね、桜ちゃん」
ご機嫌な声で未歩ちゃんはニコッと微笑む。
「うん。待ち遠しいよ」
私の笑顔も負けてない。
「楽しもうね」
「勿論。カチューシャをお揃いにしようね、未歩ちゃん」
「なら、やっぱりハロウィンバージョンだよね。ゾンビの化粧はどうする? 衣装は?」
この時期、結構ゾンビに扮したゲストが多いんだよね。着替える場所も設けられてるし。
「う~ん。それは、日向さんや山中さん次第かな。私は全然構わないけど」
その点は特に抵抗はないからね。
「なんなら、制服着る?」
「それは止めて。未歩ちゃんはいいけど、二十五歳の女に制服は痛いだけよ」
「そうかなぁ~まだまだいけると思うけど、桜ちゃん、足細いし」
そう言いながら、未歩ちゃんは私のスカートを掴み少しだけ捲る。
「コラッ、捲らない」
未歩ちゃんと戯れてると、調理場から声がした。
「スイカ食べるか?」
食堂のおじさんが大声で訊いてきた。
「「食べる!!」」
綺麗にハモって、私と未歩ちゃんは何がおかしいのかわからないけど、声を上げて笑った。すると、
「電話なってるよ。お祖父ちゃんから?」
スマホが振るえているのに未歩ちゃんが気付く。
「あっ、ホントだ。ちょっとだけ、いい?」
「いいよ」
未歩ちゃんに許可をもらってから、私は電話に出る。
『一葉か? 体調はどうだ?』
少し、お祖父ちゃんの声が固い気がする。
『大丈夫だよ。お祖父ちゃんこそ、大丈夫? もう年なんだから、無茶したら駄目だよ。それで、どうしたの? お祖父ちゃん』
前半は明るい声で、最後は固い声で尋ねた。
私の様子がいつもと違うことに気付いた未歩ちゃんが、私を心配そうに見ている。大丈夫だよって答える代わりに、私は微笑んだ。
『一葉が戻って来るの、二日後だったな』
『うん。そうだけど、どうしたの?』
『しばらく延ばせないか?』
『延ばす? 何で? ……まさか、連絡してきたの?』
解約したアパートに元妹が突撃したのを思い出した。
『ああ、馬鹿息子が来やがった。なぁに、玄関の戸を締めたまま対応してやったぞ』
ガハハと笑いながらお祖父ちゃんは言う。
私を引き取った時期に祖父母は、元父親家族とは縁を完全に切ったはず。お祖母ちゃんが亡くなってからは、電話一本もなく会うこともなかった。線香一本もあげていない。
それが何で、今更……嫌な予感しかしないわ。
背後に人の気配がしたから振り返ると、山中さんと日向さん、そして、スイカを持って来た食堂のおじさんが立っていた。
皆の顔が険しい。
私は通話をスピーカーに変えた。
『何で?』
尋ねる声は、とても低い。
『一葉を、東京に連れて行きたいとほざきおったわ』
『『『『はぁ!?』』』』
いやぁ~綺麗にハモったね。っていうか、こんなハモリいらないわ。
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