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28 相変わらず、私は彼らの中で都合のいい存在のようです
しおりを挟む『一葉……?』
お祖父ちゃんが戸惑った声を上げる。
あ~お祖父ちゃん知らなかったよね。私が話したこと。
そのことを告げるより早く、未歩ちゃんがお祖父ちゃんに詰め寄った。
『お祖父ちゃん、それ、おかしくない!? 何で今更、桜ちゃんに接触してくるのよ!! 絶対、何か裏があるに決まってるわ!!』
私も未歩ちゃんに賛成。
『……どういうことだ、一葉?』
お祖父ちゃんは困惑した様子で再度尋ねてきた。私は自分から話したことを、お祖父ちゃんに告げた。
『色々あって話したの。だから、皆、私の元親たちのことは知ってるわ』
『そうか……話したのか……』
『ごめんなさい。我が家の恥を相談もなしに話してしまって』
『いや、別に構わん。そうか……話したのか。本当に良かったな、一葉。そこまで、信頼できる仲間ができて』
身内の恥を話した私を、お祖父ちゃんは一切咎めはしなかった。反対に、私の決断を認めてくれた。私の顔は自然と柔らかくなる。
『うん。で、話を戻すけど、私も未歩ちゃんの意見に賛成かな。……お祖父ちゃん、アイツが私を、無理矢理東京に連れて行こうとしたのは、若葉と同居させて面倒を見させるためじゃないの?』
それしか考えられない。
「若葉って誰?」
小さな声で未歩ちゃんが訊いてくる。
「元妹よ。アパート解約して引っ越してから直ぐに、事前の連絡もなしに突撃してきて、暴れて警察のお世話になったのよ。なんでも、東京で働きたいんですって」
大家さんから電話があった時は、さすがに驚いたわ。だって、二十三歳の大人が癇癪起こすなんてね……常識的に考えてもないよね。警察にお世話になったのに懲りないなんて……脳内、花畑すぎない。まぁ、そういう風に育てた親が悪いんだけど……それで働きたいって、まず常識習えって話だよね。
「東京で働きたいからって、何で桜ちゃんの所に来るわけ? 親子の縁は切ったんでしょ」
「切ったわよ。戸籍からも抜けたわよ。アパートも勤め先も教えてない。でもきたの。たぶん、興信所で調べたのね。私のアパートに転がり込むためだと思うわ」
厚顔無恥もここまで来たら、ある意味尊敬するわ。
「なにそれ……ないわ~絶対にないわ。そこまでする?」
嫌悪感丸出しで未歩ちゃんは吐き捨てた。
『ワシもないと思っている。が、アイツらの中ではアリなんだろう。現に、こんなことをほざいていたぞ。逃げはいけないとな。このままだとニートになる。だから、親として子供を厳しく接する必要がある。いきなりは可哀想だから、まずは若葉と同居して、慣れてから働きにいけ。そう言ってくれた、優しい妹に感謝しろとな』
お祖父ちゃんは未歩ちゃん以上に、嫌悪感を隠そうとはしない。優しいから、本当はそれ以上のことを言われたと思う。
あまりの自分勝手な要望に、聞いていた皆がドン引きしているわ。私も呆気にとられてるっていうか……あまりにも突っ込みどころが多過ぎて、言葉を失うわ。
『いやいや、そもそも、もう親子じゃないよね。戸籍もぬいてるよね。それに、親子じゃないけど、心配してますアピールしてさ、実はていのいい家政婦扱いもいいところじゃない。アパートも私名義で借りて、金も払えってことよね。病弱だから、私が面倒をみろって、私は奴らの奴隷でもなんでもないんだけど』
ほんと、全然変わってないわ。相変わらず、彼らの中で私は都合のいい存在なのね。
『ありえんな。あれが、ワシの血を引いてると思うだけで虫唾が走る』
『同感。お祖父ちゃん、大丈夫なの? アイツら、しつこいんじゃない?』
『なぁに、大丈夫だ。一葉に掛ける時以外は、コンセントは抜いてるからな』
『全然大丈夫じゃないじゃない!! 警察は?』
『これ以上、実害があるようなら届けようと考えてる』
疲れた声のお祖父ちゃんに、私は心配で堪らない。
『あの……少しいいですか? 山中です。よければ、桜井さんもこの島に来ませんか? さすがに、病院には泊まれませんが、いつでも入居可能な空き家がありますし、どうです? なんなら、弁護士も紹介します』
とんでもない助け舟に、私は山中さんを凝視していまう。山中さんはニコッと微笑むと頷いてくれた。
『それは助かるが……』
突然の申し出に戸惑っているお祖父ちゃんに、私は発破をかけた。
『お祖父ちゃん!! 考える余地ある!? ここは甘えるべきよ!!』
それでも言い淀むお祖父ちゃんに、私はさらに『お祖父ちゃん!!』と背中を押した。
『…………わかった。山中さんの言葉に甘えよう』
なかなか、人に甘えることができない昔堅気のお祖父ちゃんだけど、その声は明らかにホッとしていた。
お祖父ちゃんは口には出さないけど、かなり精神的に追い詰められていたみたい……私の家族をよくも!! 怒りがフツフツと湧いてくる。
『そうしてください。娘さんのためにも。明日入居できるよう、準備しときます』
『……感謝します、山中さん。だが、娘はやらんぞ』
どんな場面でも、お祖父ちゃんはお祖父ちゃんでした。
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